2023年3月7日

Astar Network 渡辺創太氏に訊く、web3の現在とグローバルでの戦術

日本発のパブリックブロックチェーン Astar Network のファウンダーとして、web3業界で大活躍する若き起業家、渡辺創太さんのインタビュー。Forbes誌の選出するテクノロジー部門アジアの30歳以下の30人に選出されるなど、業界の風雲児としても注目されている渡辺さんに、web3の現在や、グローバルな市場での戦い方、そして渡辺さんの考えるイノベーションについて伺いました。


アステリアのブロックチェーンエバンジェリストである奥達男が、web3業界のさまざまな注目人物にインタビューを通して迫る、本シリーズ。

今回のゲストは、日本発のパブリックブロックチェーン Astar Network のファウンダーとして、web3業界で大活躍する若き起業家、渡辺創太さんです。Forbes誌の選出するテクノロジー部門アジアの30歳以下の30人に選出されるなど、業界の風雲児としても注目されている渡辺さんに、web3の現在や、グローバルな市場での戦い方、そして渡辺さんの考えるイノベーションについて伺いました。

渡辺創太(わたなべ・そうた)さんプロフィール

日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkファウンダー。Startale Labs CEO。Next Web Capital、博報堂key3ファウンダー。日本ブロックチェーン協会理事や丸井グループ、GMO Web3、電通 web3 Clubなどのアドバイザーを務める。2022年、Forbes誌の選出するテクノロジー部門アジアの30歳以下の30人に選出。

<聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥達男> 本インタビューは2022年11月に行われたインタビュー内容をもとに構成しております

勝者が歴史をつくる。web3を定義する必要はないと語る理由

奥
渡辺さんにお話を伺うのは、ちょうど2年前、2021年2月の取材以来ですよね。当時はステイクテクノロジーズのCEOとしてのお話を伺いまして、バイナンスから総額約2.5億円の資金調達をしたことも話題になっていました。あの頃から活動や肩書なども変化があったと思いますが、現在の主な活動について教えてください。
渡辺創太
はい。現在は主に、“ブロックチェーン同士がつながっていない“という問題を解決する、いわゆる「インターオペラビリティ(相互運用性)」を実現するためのブロックチェーン「Astar Network」を作っています。そのほかには、日本ブロックチェーン協会の理事や、電通・GMO・丸井グループのアドバイザーなどもやらせてもらっています。
奥
2022年は本当に「渡辺創太さんの年」と言われるほどに大活躍だったと思います。 その後押しになったのが「web3」というキーワードへの注目ですよね。ただ、web3ってまだ人によって定義もさまざまだなと感じているのですが、渡辺さんが語るweb3というのは具体的にどのようなものを指していますか。
渡辺創太
パブリックブロックチェーンの上に作られているサービス群とインフラ」のことを一般的にweb3というふうに呼んでいます。web3の発祥となったのが、イーサリアムの初代CTOであり、「Polkadot」というブロックチェーンの創業者でもあるギャビン・ウッド氏です。彼が2014年にセキュアドソーシャルオペレーティングシステム、いわゆる“プライバシーが担保されたWeb”としてweb3という言葉を使いました。

ただ、2021年末くらいから投資家のアンドリーセン・ホロウィッツ氏がweb3という言葉を別の文脈で使い始めていて、彼は、Web2と対比させたweb3というものを強調しました。具体的には「トークンによってインセンティヴァイズされた複数の参加者が参加するWeb」という感じです。
奥
なるほど。web3の定義がまちまちになっていったのには、こういった背景があるのですね。
渡辺創太
僕自身は、web3の定義自体を明確にすることにはあまり意味はないと思っています。Web2が出てきたときも、IT業界や政府の人たちが喧々諤々と意見を戦わせている間に、海外企業のサービスや製品にどんどんマーケットを席巻されたというのが結果です。

今回のweb3においても、民間においては、やりながら分かるものだと思っています。我々としては、勝者が歴史を作るというか、10年後に生き残っているやつらが作るもの、という気概で、いち事業者としてざっくりとした定義を捉えながら、このテーマに取り組んでいきたいと思っています。

日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」の進捗と未来

奥
ありがとうございます。次に、現在の渡辺さんの活動について教えてください。「Astar Network」のプロジェクトの進捗はどのような状況でしょうか。
渡辺創太
「Astar Network」は2年半ぐらい開発をしている状況で、2022年1月にメインネット(本番環境)にローンチして、現在1年ほどになります。現在はインフラストラクチャー側を整備している段階で、ブロックチェーン業界のAWSとも言われる「ALCHEMY」や「ブロックデーモン」など、グローバルでトップのインフラプロジェクトと一緒に、ネットワークの強度を上げています。

我々が作っているのはプラットフォームなので、この上に、さまざまなアプリケーションが載ってきます。今は「DeFi」のような、いわゆる分散金融のアプリケーションがだいたい40、他にもNFTなどが20〜30出てきているようなかたちになります
奥
この2年の間に、プロジェクトがどんどん形になっていますよね。
インタビュー記事などで、このAstar Networkを作っている渡辺さんの会社(Stake Technologies)はゆくゆく解散させるという話を見かけるのですが、これはどのような意図でしょうか? 組織としての一つのゴールとして解散を見据えているのですか?
渡辺創太
はい。Astar Network 自体は、解散します。つまり無くなります。ただ、無くすということが目的なのではなくて、“ネットワーク自体が分散されている”ということが一番重要な目的だと思っています。ネットワークの強度自体を上げて分散化を進めていかなければ、Astar Networkが解散できないので、これを2年〜3年のスパンでやっていきたいなと考えているところです。
奥
あくまで結果としての解散ということなんですね。2〜3年というとかなり早いタイミングですよね。
渡辺創太
マーケットコンディションや、マクロ経済に非常に左右される業界なので、具体的な年数までは明言できませんが、ただ、僕の頭の中では、2~3年でできるんじゃないかなと思っています。

※編集部注釈
会社を解散して ”DAO” を目指すお話については、渡辺さんの過去のインタビュー(in.LIVE)をあわせてご参照ください。

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18カ国のメンバーですべてのタイムゾーンをカバーする、世界での戦い方

奥
2022年、Astar Networkのプロジェクトの存在感はとても大きく、業界の期待を日本中から背負っていたのではないかと思います。いまシンプルに、渡辺さんが頭の中でなにを考えているのか。どういうことを考えて、世界で戦っているのか、教えてもらえませんか。
渡辺創太
そうですね。web3に関するプロジェクトは、立ち上げたその日から、Day1からグローバルが舞台だと思っています。ひと昔前までは、アメリカで流行っているサービスを日本に輸入してきて、タイムマシン経営である程度まで大きくすることができました。日本で勝ってから海外へ進出する、みたいな人も多かったと思うのですが、もうそんな時代ではありません。

web3になると、最初から海外なんです。それは市場(マーケット)という点でもそうですし、今、特に若い人たちが最初から海外で起業することが当たり前になってきているということ。これは日本の法制度の問題も背景にあります。

なので、最初からグローバルで戦うというのが非常に重要だと思っています。
我々のチームには今35名くらいコアメンバーがいて、アンバサダーなどを入れると80〜100名ぐらいになるのですが、コアメンバーだけでも18カ国で構成されていて、ほぼすべてのタイムゾーンをカバーするんです。太平洋の上以外。

それこそカルチャーとかもちろんジェンダーとか宗教とかみんな違うわけです。なので、その中でどういうふうに戦っていくのかっていうのは非常に重要だと思っています。
奥
それこそ、24時間365日、プロジェクトが前に進んでいるということなんですね。凄まじいスピード感ですよね。多様性のあるメンバーで構成されたチームの中で、一貫して大切にしていることはなんですか。
渡辺創太
我々は、アウトプット、つまりコミットメント。どれだけ成果を残すのか? という部分にフォーカスを集中させています。働いている時間がここまで散らばると、9-17時で一生懸命働いています、みたいなものってもう管理できないんですよ。僕が寝ている間がコアタイムの人たちもいるので。なので、アウトプットだけしか見ないという体系にしています。

あとはマネジメントとしてやって良かったのは、地理ごとに開発の部隊を分けること。 つまり、アジアのタイムゾーンで働くメンバーは、主に戦略とファイナンス。ヨーロッパのタイムゾーンは開発です。アメリカのタイムゾーンはマーケティング。

このように、いわゆる部署を地理ごとに分けることによって、タイムラグを無くす。それをもってかつ、24時間体制で会社が動くようにしています。国際競争力を持つ上で、これは結構重要なことだと思っています。
奥
はあ、なるほど。まさに世界を舞台にプロジェクトを回していく中で、知り得た知見ですね。チームメンバーが18カ国に散らばっているとのことですが、渡辺さんが現地に行くこともあるんですか。
渡辺創太
結構行きますよ。今は日本にいるんですけど、一週間前まではシンガポールにいて、そして来週からはサンフランシスコのほうに行って。次はまたシンガポールに戻って、そこから12月にはリズボンに行って、というようなスケジュールです。カンファレンスなどに出るために現地へ行くのですが、そこに何人かチームのメンバーを呼んで、そこでメンバーと話したりすることが多いです。

少し前に全社合宿をしたのでリアルで会っていない人はいないのですが、それをやるまでは会ったことのないメンバーは何人もいましたね。
奥
なんでもオンラインで完結する時代で、メンバーともタイムリーにコミュニケーションしていて。リアルで会うことは別に重要ではないという考えもあるのかな? と思ったりしたんですけど。
渡辺創太
いやいや、リアルはめちゃくちゃ必要ですね。基本的に逆張りをするのが一番良いと思っています。オンラインでみんな完結すると思っているからこそ、リアルで会いに行くっていうのはすごく重要だと思います

リアルとオンラインの差を言語化するのは難しいですが、その人の雰囲気や、その人が抱えている問題とかって、実際に対面で、密室な空間で2人きりで話さないと出てこない話も沢山あるんですよ。どうしてこの業界にいて、何を成し遂げたくて、今の自分や会社についてどう思っているのか? みたいなこと。これを対面で話すのは非常に重要だと思っています。

チームマネジメントに限った話ではなく、取引案件なども、基本的に海外のカンファレンスに出た際に、会場近くのスタバとかで話して、リアルの場でディールを終わらせています。

海外のカンファレンスで登壇する渡辺さん

イノベーションとは「発明×実装」

奥
冒頭で、web3自体を定義することにはあまり意味がないというお話もありましたが、世界の最先端で戦っている渡辺さんが思う「web3はどの程度、実現されているのか」という点には非常に興味があります。
渡辺創太
既にかたちにはなっていると思います。 イノベーションについてお話しをさせていただくときに最近思うのは「イノベーション=インベンション × インプルメンテーション」、つまり「発明 × 実装」だと思うんです。
奥
発明×実装、ですか。
渡辺創太
例えば、電球ができましたというとき。電球の研究成果だけがあっても、世の中に灯りはともらないじゃないですか。その論文だけがあっても、夜、みんなが電気を使ってみようとはならないですよね。発明というものが「社会実装」されて、初めてみんなが家に電球を日常で使えるようになる。ここまできてようやくイノベーションだと思うんです。

イノベーションに必要なのは、技術革新があること、そしてもうひとつ重要なのが、社会的な構造の変化と心理的な構造の変化です。今の「web3」に話を戻すと、技術はあります。イーサリアムとかビットコインとか、我々が開発しているAstar Networkも。その基盤はできてきています。

ただ、それを取り巻く社会的構造の変化、例えば規制。日本は、web3や暗号資産にフレンドリーという状態にはほど遠い状態です。さらに、心理的な変化。先日聞いた話なのですが、「暗号資産に興味がある/暗号資産を持っている」という人は、日本の人口のわずか5%くらい。10%くらいは聞いたことある程度で、残りの85%は「興味がない」そうなんです。

そう考えると、まだ日本の85%の人たちは、ものすごく心理的な距離を感じていると。なんとなく危ないとか、詐欺っぽいとか。そういう不信や脅威の気持ちですよね。

なので、我々が今やらなくちゃいけないこと。それは、技術的な進化を追求していくことはもちろんですが、どちらかと言うと、社会的構造の変化と、心理的な変化。これをweb3にもたらさなくてはいけないと思っています。それについては、まだまだ時間がかかるかなと思っていて。少なくとも3~5年はかかるかな、という感覚です。
奥
それはやはり、なにか大きなきっかけが必要なものなんでしょうか。
例えば、以前FacebookがMetaという社名に変わり、社会の関心として「メタバース」という言葉が一般の人々にとっても少しだけ身近なものになりました。こうしたきっかけでガラッと変わるのか、それとも徐々にスポンジに水が染みこんでいくように浸透していくものなのか。
渡辺創太
その両方だと思っていて、徐々に浸透していくものがあるからこそ、何か起爆的なイベントがあったときにガラっと変わると思います。 具体的にそれがいつなのか分かれば、僕も大成功していると思うんですが(笑)。

ただ、例えばアイコニックなイベントがあるのはすごく重要だなと思っていて。日本初のパブリックブロックチェーンであるAstar Networkの時価総額が、いわゆるWeb2で有名な会社の時価総額を抜きましたとか。2倍3倍になりましたとか。そういったニュースが出ると、今まで株にしか投資してこなかった人たちが、「そんなに伸びているなら」と思うようになるじゃないですか。

なので、マーケティング的な求心力のアプローチを変えなくちゃいけなくて。今までは技術とかweb3に興味がある人たちで良かったのですが、これからはweb3に興味がない人や、web3なんて聞いたことないというような人たちに刺さるようにしなければいけない。その壁を今強く感じています。

僕は起業家なので、数字を出すことにコミットする。そして、ユーザーフレンドリーなプロダクトを作る。本当にこの2つだと思っています。

web3の波に企業を巻き込む「Astar Japan Lab」

奥
web3を浸透させていく上で「Astar Japan Lab」という取り組みも始められていますよね。国内事業者とweb3サービスプロバイダーの交流や協業を促進することを目的に、2022年6月に設立された国内企業コンソーシアムですが、web3事業の壁打ちまでをサポートされるということで、大手企業からの注目も集まっていると思います。

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渡辺創太
はい。web3が日本における国家戦略にも入ったことをきっかけに、実際に企業の方から「NFTをやってみたい」「DeFiをやってみたい」「だけど、どうやるか分からない」という声を多くいただいています。

そういった企業の方に向けて、我々がこれまで培ってきた知見や、Astar Networkに載っているプロジェクトやアプリケーションと大企業をマッチングさせることによって、新しいユースケースを作れたらと思っています。
奥
例えば、博報堂さんと「Astar Farm」というプロダクトが協業して、じゃがいものNFTを持っている人に対してじゃがりこを配る、とか。そういった企画をされていましたよね。ああいうふうなプロジェクトが今後も色々と出てくるのですね。
渡辺創太
はい、今後色々と出てきますので期待していてください。

興味を持ってくれている企業の方も多いので、Astar Networkが、そういった方々のGo to Marketチェーンになりたいなと思っています。

暗号資産の冬の時代、行方を左右するのは現実世界のアセット

奥
最後に、渡辺さんの私見として聞きたいのが、暗号資産について。今は冬の時代と言われていますが、これは何度も繰り返すと見ているのか、それとも今回たまたまだとか。渡辺さんはどのように考えておられますか。
渡辺創太
基本的にこのマーケットは繰り返すと思っています。ただやっぱりコロナの影響もありましたし、リセッションもきていると思うので、10年に一度の下がりようかなと見ています。リーマンショックみたいな。

とはいえ、テクノロジーは着実に進化しているので、成長曲線にすると、上がって、また落ちて、ですかね。実際に、暗号資産のマーケットも2021年はかなり伸びて、2022年にまた落ちましたよね。そうすると、ここからまた上がっていくと思うんです。そしてまた落ちると。でも、落ちた一番下のポイントで見るとちゃんと伸びているというような成長曲線をたどるんじゃないかなと思います。

その核になるのは、現実世界のアセットですね。それこそ不動産とか、株とか、そういった現実世界のアセットがweb3側に入ってくると、ボラティリティも徐々に少なくなってくるんじゃないかなと。
奥
確かにそうですね。さて、今日お話を聞いていて思ったのは、ここ数年で、渡辺さんの周りの環境が大きく変わられたことです。
渡辺創太
そうですね。2022年は飛躍の年だったので、2023年はもっと飛躍します。今の現状には全然満足していなくて、まだ日本レベルなんです。世界を代表するところまでいかないといけないというのは強く感じていて、まだまだ高みを目指しています。

僕は天才タイプではないんですよ。ヴィタリックみたいなギャビンみたいな。天才たちが超必死に働いているので、凡才の僕はそれ以上に働かないと勝てないです。

奥
渡辺さんのような日本出身の起業家が世界で活躍する未来、心から期待しています。私も日々の活動で、一般の方たちのweb3に対する心理的な変化をもたらさなくてはと思いました。これからも応援しています! 今日はありがとうございました。

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。