2024年6月25日

【特別対談】変化に迅速に適応する経営を目指して、常に新しい視点を取り入れていく

2023年、当社CEOの平野洋一郎が、京都大学経営管理大学院の特命教授に就任しました。同大学院は、先端的なマネジメント研究と専門的な実務教育を通じて世界に通用するビジネスリーダーの育成を目指しています。今回は、アントレプレナーシップを専門とする同大学院の山田仁一郎教授をお招きして、学生の皆さんから見たアステリア経営についてお話をうかがうほか、これからの時代に求められる、不確実性の高い時代に変化に対して柔軟に適応していく企業経営のあり方について対談を行いました。


2023年、アステリアCEO平野洋一郎が、京都大学経営管理大学院の特命教授に就任しました。同大学院は、先端的なマネジメント研究と専門的な実務教育を通じて世界に通用するビジネスリーダーの育成を目指しています。今回は、アントレプレナーシップを専門とする同大学院の山田仁一郎教授をお招きして、学生の皆さんから見たアステリア経営についてお話をうかがうほか、これからの時代に求められる、不確実性の高い時代に変化に対して柔軟に適応していく企業経営のあり方について対談を行いました。

アステリア株式会社 代表取締役社長/CEO
平野 洋一郎(ひらの よういちろう)

熊本大学工学部を中退し、ソフトウェアエンジニアとして8ビット時代のベストセラーとなる日本語ワードプロセッサを開発。その後、ロータス株式会社(現:日本IBM)でマーケティングの要職を歴任。1998年、インフォテリア(現:アステリア)株式会社創業。2007年、東証マザーズ上場。2008年~2011年、本業の傍ら青山学院大学大学院にて客員教授として教壇に立つ。2018年、東証一部へ、2022年、東証プライムへ市場変更。2023年、京都大学経営管理大学院の特命教授に就任。

京都大学経営管理大学院 教授
山田 仁一郎(やまだ じんいちろう)

北海道大学大学院経済学研究科修了(博士・経営学)。大阪市立大学大学院経営学研究科教授、ボルドー大学(仏)客員教授、グリフィス大学(豪州)客員教授などを歴任し、2021年より現職。現在、日本ベンチャー学会副会長、組織学会理事、企業家研究フォーラム理事等を務める。著書に『大学発ベンチャーの組織化と出口戦略』(中央経済社、2015年)など。

—-2023年4月1日付で、平野社長が京都大学経営管理大学院の特命教授に就任されました。まずはその経緯についておうかがいできますでしょうか。

私自身25年前に起業して会社を経営してきましたが、その経験から、日本ももっと起業が当たり前の社会になれば、という念いがありました。これまでは主に起業した人の支援に力を入れてきましたが、もっと手前の、社会に出る前の若い人たちに語りかけることで、より多くの起業家を増やしていけるのではないかと考えました。京都大学経営管理大学院から声をかけていただき、ぜひお力になれればと昨年4月から参画しました。

具体的には、私自身が起業を決意した経緯をはじめ、経営環境が激しく変化するなかで組織を作り上げてきた過程や、さまざまな経験を経て確立してきた自分の経営哲学などについて学生と共有しました。また、企業ケーススタディの一環として、学生の皆さんのインタビュー調査の受け入れや、研究に必要なデータ提供なども行いました。さらに、約150名の経済学部生に向けた経営学入門の特別講義も実施しました。

先日、その研究発表会に参加しましたが、表面的な仕組みだけでなく、なぜこういう組織になっているのか、深く掘り下げて分析していただき、私にとっても新たな学びや気づきがたくさんありました。私自身は自分の思いを貫き、そのときどきに考えて目の前の課題に取り組んできましたが、実は同じような先行事例や先行研究があることを知り、大変勉強になりました。

また、発表のなかで、アステリアの経営理念や事業の特性、組織のあり方などの関連性をまとめた体系図を拝見し、自分たちのあり方を客観的に見つめ直すきっかけになりました。若い人たちにはこう見えているのかという発見もありましたし、自分たちの現在地や今後の方向性を考えるうえで、非常に参考になりましたね。

—-京都⼤学経営管理⼤学院は、先端的なマネジメント研究と専⾨的な実務教育を通じたビジネスリーダーの育成を目指されています。そのなかで企業との連携を深めている狙いとはなんでしょうか。

京都⼤学経営管理⼤学院のミッションとは、まず第一に、経営リーダーを輩出するということです。そのなかでも、昨今、一番求められているのは、アントレプレナーシップの発掘・育成だと思っています。

ところが残念ながら、国際的に見ると、日本のビジネススクールは相対的に遅れている。我々も強く問題意識を感じており、ローカル・グローバルの双方の視点も含め、さまざまな見地からアントレプレナーシップの研究と教育を強化していきたい。そのための筋道として、平野社長のような第一線で活躍されている企業家の方々に教えを請うことは非常に有効だと考えています。

もちろん我々も研究を進めるうえで、ファイナンスデータも含めた経営の取り組みに関するさまざまな情報を収集しています。ただ、企業の営みも日進月歩で動いているものなので、データを後追いしているだけでは、どうしても遅れてしまう。そこで、ケーススタディの教材として経営の実態を分析させていただいたり、それを踏まえて議論を交わすなど、生きた企業活動を学ぶことによって次世代の人材育成・発掘に活かしていければと期待しています。

先日も数名の学生が、会社を設立したいという相談をしてきました。平野社長のような第一線の経営者に教壇に立っていただき、直接お話をうかがうことのインパクトの大きさを、改めて感じているところです。
実際に「起業したい」という若い人が出てきていると聞いて、私も非常にうれしく思います。

—-今回京都⼤学経営管理⼤学院と企業の連携によって設置されたのは、「哲学的企業家研究寄附講座」という講座です。2023年4月から2025年3月までの2年間のカリキュラムとなっていますが、どういうコンセプトの講座なのでしょうか。

企業家(アントレプレナー)とは何かというと、経済学においてはよく「資本主義のエンジン」という言い方をされます。営利を求めて会社を作り、市場を活性化させていく側面が、経済学では強調されるわけです。その機能が最も重要だというのも間違いではありません。

一方、資本主義が成熟していくなかで、単に経済的な価値を作るだけでは、世の中がうまく回らないこともわかってきました。最近では「ソーシャルアントレプレナーシップ」や「グリーンアントレプレナーシップ」など、いろいろな言葉が登場していますが、世の中の矛盾に目を向けて、資本主義のなかでアントレプレナーがいかに倫理的な営みを追求していけるかを考えていくことが必要になってきています。企業が健全に発展していくメカニズムを掘り下げていくにも、人材や技術など表面的な経営資源の問題にとどまらない、より深い問いが求められます。そのなかで、現代の価値や倫理の問題を掘り下げていく哲学的企業家というコンセプトが固まりました。

京都⼤学経営管理⼤学院は2006年の設立当初から、経営理念の研究に取り組んできました。アステリアの経営理念のなかにも「存在価値」という言葉が出てきますが、長く発展していく会社というのは、やはり社会の中で何らかの存在理由があって、持続的成長を遂げているのだろうと思います。

平野社長をはじめ、今回ご協力いただいている皆さんは、独自の経営哲学を持ってユニークな取り組みを進めてこられた企業家の方ばかりです。哲学的企業家というコンセプトに共感を持っていただき、大変ありがたく思っています。

—-学生の皆さんはどのように研究を進めてこられたのでしょうか。

実際に企業の中に入り、経営者、エグゼクティブ、ミドルマネジメント、現場の方々と、いろいろな階層の方に直接お話を聞くのは彼らにとって初めての経験だったと思います。通常、ニュースなどの2次データでは表に出ている部分の情報しか掴むことができなませんが、平野社長や社員の皆さんが非常にオープンで、試行錯誤の過程まで率直にお話してくださいました。
役職に関わらず全員、聞かれたことはなんでも話していると思いますよ。基本的に、秘密保持のためにはガチガチに秘密を固めるのではなくて、できるかぎり秘密を減らして情報を共有していったほうがいい。それがオープンな風土にもつながると思いますから。
学生たちも実際に生のお話を聞かせてもらい、「ウェルビーイング」や「レジリエンス」など、昨今よく耳にするけれど腹落ちしていないキーワードについても、インタビューやその分析を繰り返すことで「なるほど、こういうことか」と彼らなりに理解した様子でした。まだ知識は少ない学生でも、これだけいろいろと情報を与えていただけると、これほどまでに企業活動についての洞察を短期間でも深めることができるのかと私自身も驚いたほどです。
ウェルビーイングにしても、レジリエンスにしても、言葉としてはかなり世の中に浸透してきましたが、経営者としては、まずはやってみることが大事だと思っています。やってみると何かしら問題が起こり、いろいろな指摘も入る。自分たちで考えながら、それらをひとつひとつクリアして突き進んでいく経験がないと、おそらく実践できないんですね。

ウェルビーイングについていえば、2007年から経営理念のひとつとして「幸せの連鎖」を挙げています。一人ひとりが幸せを感じることがビジネスの成長に、ひいては社会の発展につながるという考え方は、「ウェルビーイング」という言葉で出てきたとき、根底でつながっていると感じました。テレワークやワーケーションなどさまざまな実践を重ねていくなかで、社員からもさまざまなフィードバックがあり、それらの声をもとに今ではリゾートオフィスやバーチャルオフィスなどオフィスの「5次元化」を進め、多様な働き方ができるようにしています。

レジリエンスに関しては、東日本大震災をきっかけに、最初はBCP(事業継続計画)として全社員のテレワーク環境を整備しました。万が一に備えて普段から使いこなしていこうということで、全社でテレワークを実践。また、猛暑や台風上陸、雪が降った日も社員の自律的な判断でテレワークに切り替えるなど合理的な働き方が浸透し、さらにそれが定着すると、事業のポータビリティや生産性が上がるのです。つまり、場所の制約にとらわれず、どんな状況でも仕事ができるようになりました。結果として、コロナ禍でも生産性を落とすことなく、事業を継続することができました。そうなって改めてこれがレジリエンスなんだと実感するようになりました。

私としては、「ウェルビーイング」や「レジリエンス」が将来課題になると先読みして取り組んできたわけではなく、こうありたいと思う姿から必要なことを進めていったら、「ウェルビーイング」や「レジリエンス」などの言葉が後からついてきたというのが実感です。
実際に学生たちがコロナ禍をはさんでのIT業界各社の業績の変化を調べたところ、アステリアはしっかりと純利益を伸ばしていました。聞き取りから学生が最も着目したのは「事業のポータビリティ」という平野社長オリジナルの言葉で、直感的に伝わりやすい表現だと思います。先行研究では、システムのアーキテクチャーとして1980年代に「自律・分散・協調」の概念が提唱されています。アステリアでは、組織構造やコミュニケーションの流れなど、首尾一貫してこの思想でデザインされており、それが個々のウェルビーイングや、組織のレジリエンスにつながっている。知れば知るほど良い循環ができあがっていて、私自身も学ばせていただきました。

—-こうした取り組みは、リスクに対する守りの施策というイメージを持っている企業もまだまだ多いと思いますが、実際に業績の向上につながるということですね。

守りどころか、闘いだと思っています。リスクをゼロにすることではなく、リスクがあることを前提とした闘いなんですね。

たとえばウェルビーイングというと、従業員がサボるのではないか、そんな投資は無駄ではないかという声も挙がりますが、これまでのやり方では今後ビジネスが立ち行かなくなるのは間違いない。産業革命以降、人間の生産性は、いかに早くタスクをこなせるかが鍵でした。ところがこれからの時代は、ほとんどのタスクは生成AIとロボットが代替します。人間がどこで価値を出すかといえば、創造性にほかなりません。その創造性を最大限に発揮するには、いかに心身をウェルビーイングな状態に保っていくかが重要です。

今の環境を冷静に見極めて、自分たちのありたい姿を目指していこうとすれば必然的にそういう方向に向かうと思います。
先ほどの哲学的企業家の話につながりますが、効率化して利便性を高めていけば良い社会ができるのかという疑問から、さまざまな規制やルールが変わってきています。事業活動の方向転換も必要になりますが、明確な正解はなく、みんなが手探りしている状態です。こうした状況だからこそ、ものごとを1から立ち上げるアントレプレナーシップが必要になるのです。

たとえばグリーンアントレプレナーシップは、自然環境を守りながら持続可能なビジネスを目指すものですが、これを実現しようと思えば、人間だけでなく、地球や宇宙にとって良いこととは何かなど、まったく新しい視点で事業を考えていかなくてはなりません。これまでのように自社でコントロールできる範囲の問題にとどまらず、SDGsで言われているような貧富の差の問題、ダイバーシティの問題、気候変動の問題など、地球規模の挑戦課題ともいうべきものにどう取り組んでいくのか。平野社長の言葉を借りれば「幸せの連鎖」を、この難しい状況のなかでいかに実現していくかが、非常に重要になっており、意識の高い企業家の方々がどのように動いていかれるのか、私自身も期待を込めて注視しています。
私たちの取り組みが、少しでも世の中の参考になれば幸いです。その思いも込めて、アステリアでは、自分たちの取り組みを積極的に外部に発信するようにしています。日本の文化では黙々と取り組むのが美徳とされることが多いですが、多くの方に知ってもらうことによって、自分たちもやってみようというムーブメントにつながればと思っています。
社内でも社外でも、オープンに情報開示してコミュニケーションを取っていくことは、エンゲージメントを高めることにつながると思います。確かに日本では「陰徳」と言われ、ひそかに善行を積むことがよしとされる思想があるかもしれませんが、株主や顧客もグローバルに広がっている今、経営の考えをオープンに伝えていく方針によって、企業の哲学を理解しやすく、共感してくれる人も増えるのではないかと感じます。

—-今後に向けてどのように連携を図っていきたいとお考えですか。

これからの社会を作っていく若い学生たちと接していると、非常に多くの発見がありました。私だけでなく、社内のメンバーや幹部たちとも接点をいただいて、とても刺激になっているようです。とかく私たちはソフトウェア業界内の発想で物事を考えてしまいがちですが、世代も業界もまったく異なる新しい視点に触れることができるのは貴重な経験になっています。既存の常識にとらわれずアステリアが常にフレッシュであり続けるためにも、この先の社会がどうなっていくのかを見極めるうえでも、この連携を今後も続けていければと思っています。
ぜひよろしくお願いします。平野社長に会う前と後とで、学生たちの顔つきががらりと変わりました。最初は緊張していたようですが、実際にお会いしてお話を聞くと、俄然やる気が高まったようです。やはり平野社長からは、周囲の人をエナジャイズする経営者としてのパッションの強さを感じます。ダイヤモンドを磨くのはダイヤモンドといいますが、こうしたパッションを持つ経営者と触れることによって、学生たちもより磨かれていくのではないかと期待しています。
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この記事を書いた人
in.LIVE 編集部 アステリア株式会社が運営するオウンドメディア「in.LIVE(インライブ)」の編集部です。”人を感じるテクノロジー”をテーマに、最新の技術の裏側を様々な切り口でご紹介します。