2019年3月7日

ユーグレナが取り組むバイオ燃料開発の舞台裏 —ミドリムシが目指す、持続可能な社会とは?

太陽光、風力、地熱……化石燃料に替わる新しいエネルギーが求められて久しい日本ですが、現在注目を浴びつつあるのがバイオエネルギーです。「日本をバイオ燃料先進国にする」と宣言する、株式会社ユーグレナが進める『GREEN OIL PROJECT』を取材しました。


皆さんは、ミドリムシをご存知ですか?
植物のように光合成し、動物のように動くことのできるこの生物は“藻”の一種。小学生のころに教科書で学んだミカヅキモと同類と聞けば、ピンと来る人も多いのではないでしょうか。 このハイブリッドなミドリムシは栄養素がとても豊富なことから、健康食品、化粧品など、さまざまに商品化されています。さらに次の一手として、石油に替わる新燃料の役割も期待されているほど。実現に向けて先頭に立つのは、株式会社ユーグレナです。

2018年秋には、オイル精製のためのプラントも竣工。パートナー企業と共にまずは2020年の旅客機の有償フライトに向け、着々と準備を進めています。

今回は、株式会社ユーグレナのバイオ燃料事業課長である江さんに、バイオ燃料が求められている背景や『GREEN OIL JAPAN』の始動にまつわるエピソード、さらにはバイオ燃料がもたらす未来について伺いました。

株式会社ユーグレナ バイオ燃料事業部 バイオ燃料事業課 課長
江 達(こう・たつ)さん

神戸大学経済学部卒。新卒で総合商社に入社し、化学品のトレードから始まり自動車販売会社の事業運営等を経験、自動車メーカーへの出向経験もあり。その後、スポーツメーカーに転職し、サプライチェーンを管轄、物流改革を主導した。本当に世の中の為になるような、事業を創り出したいとの想いから、2017年よりユーグレナに入社し、バイオ燃料の事業開発に取り組む。

意外に近い「食料」と「燃料」の関係。0.05mmに秘められたポテンシャル

今日はよろしくお願いします。本題に入る前に、まずはミドリムシについて教えてください。
はい。ミドリムシは、5億年も前から生きている人類の大先輩なんですよ。ワカメやコンブの仲間でもありますが、体長はたったの0.05mm。髪の毛の直径0.07mmと比べるとイメージしやすいのではないでしょうか。単細胞生物なんですが、確認できているだけで59種類もの栄養素を持っており、その効果効能には大きな期待が寄せられています。当社は創業以来「ミドリムシ」に関する事業を展開していて、現在は食品のほか、ヘアケア商品やペットフードなど、健康機軸のプロダクトを広く展開しています。

ユーグレナの培養地である石垣島では、カフェも展開されているんですよね。日常に身近な商品が多いイメージだったので、現在ミドリムシを活用したエネルギー事業を進めていると知り、とても驚きました。これまでとはまったく異なるジャンルですよね。
そう思うでしょう。けれども、意外にそう遠くない関係性にあるんですよ。
いわゆるバイオマスと呼ばれる生物由来の資源は、僕らにとっても身近な食物が原料になっています。たとえば、大豆やトウモロコシ、ココナッツ。これらから油分を抽出してバイオ燃料にすると聞くと「そんなことができるの?」と思いもしますが、ブラジルではサトウキビ由来のエタノールをガソリンに混合することが法律で義務付けられていたりと、国策として取り組む国も少なくはありません。
まったくかけ離れた世界の話ではないんですね。
ええ。さらにバイオマスには、Food(食料)、Fiber(繊維)、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、Fuel(燃料)の五つの用途があると言われています。この視点からも食糧と燃料は近い関係にあることが分かりますよね。

当社は、ミドリムシにもこの『バイオマスの5F』に基づいた考えがあてはまることを以前から認識していました。
その構想が具現化し始めたのは、何がきっかけだったのでしょうか。
現在は国際的にバイオマスを活用する流れにあり、なかでも「バイオジェット燃料」は特に注目を集めています。国内でも航空会社やエネルギー会社が石油の代替品になるものを模索しており、ミドリムシに白羽の矢を立てたことがはじまりでした。そこから当社に声がかかり、ミドリムシを活用したバイオ燃料の開発がスタートしたんです。

今まで社内で温めていたミドリムシによるバイオマス構想の実現性と需要が高まったということですね。ところで、国際的にバイオマスの機運が高まっているとのことですが、日本で実用化が進まない理由は何かあるんですか。
日本はバイオマスの原料自体が乏しいんですよね。
それは、国土が狭いからとか……
それも一つの理由です。欧米で利用が拡大している原料は大豆や菜種などの植物が中心で、これらは「第1世代バイオ燃料」と言われています。一方、日本は農業大国ではないので作物の生産量もさほど多くはありません。そのため、油に転化しようものなら間違いなく食糧と競合してしまうんです。

日本はバイオエタノールを代替エネルギーとして使っていたりもするんですが、その実態はエタノールの全量をブラジルから輸入していて、落としどころとしては実に微妙なんですよ。他国が農業政策と連携しながら取り組んでいるかたや、日本は地球の裏側から高い輸送コストを払って、CO2を排出しながら運び出している状態なんですから。
笑うに笑えないですね…(汗)
この状況に限界を感じているから普及していない、というのが現実でしょう。
日本には、気候や国土の広さ、地理的な条件など、さまざまな事情から自給できない理由があるということですね。ところで、今までのお話から察するに、燃料は自国で調達することが国際的な主流になっているところもあるんでしょうか。
そうですね。なかでもバイオ燃料はその傾向が強いです。
ここには、主に二つの流れがあります。一つは、エネルギーセキュリティの視点です。現在、エネルギーは中東の原油に依存している部分が大きく、そこのみからの脱却が明確にあります。もう一つは、環境への配慮です。これまでのように資源を削って消費するのではなく、再生可能な燃料を活用して地球を大切にしようという動きが原則になりつつあります。

バイオ燃料先進国を目指し『GREEN OIL JAPAN』が始動。現在の進捗は!?

事業の話に戻るのですが、「ミドリムシがバイオ燃料として使えそうだ!」という手ごたえは、どの辺りでつかんだのでしょうか。
ミドリムシは、面積当たりの収穫油糧が極めて多いこと、さらには当社独自の屋外大量培養技術により安定的に供給できることが、これまでの研究から分かっていました。当社は培養に農地を使わないので、場所さえ確保できれば一番効率よく油をつくれそうだなと。調査の結果、ジェット燃料の性質に適合していることも分かったので、開発に向けて動くことになりました。

これが2010年とのことですが、現在までに苦労したことやターニングポイントになったことがあれば教えてください。
一つは、ミドリムシを燃料に適した形に培養する研究には労を割きましたね。一言にミドリムシっていっても、種類は100以上あるんで。
えっ、そんなにも!
油をいっぱい含む性質もいれば、そうでないのもいるんですよ。そういった選別を始め、活用に向けた研究は試行錯誤しながらノウハウを蓄積してきました。そのかいあって原油をつくるところまではたどり着いたのですが、実用化のためには製油所で燃料にする必要があります。これは欠かすことのできない部分なのですが、担う人が見つからなくって。

しかし、「ここまでこぎつけたのだからもう一歩進もう」と決断したことが、製造プラントの建設につながりました。精製技術に関するライセンス契約を米国の専門企業との間で締結し、2017年6月に着工。これが大きなターニングポイントになりました。

まさに何もないところから築いてこられたんですね。
そうですね。今後は販売価格をどう設定するのか?という具体的なこともしっかり考えていかなくてはいけないフェーズです。消費者の生活と密接に関わることなので、いまの原油価格とかけ離れてしまうと普及は難しい。もう一、二段階レベルアップする必要を感じています。そのために、たとえばミドリムシの培養に欠かせないCO2を安価で仕入れる方法も模索しています。

CO2って、実は市場では高値で取引されているんですよ。ドライアイスとかね。置き宅配が増えたので食品の鮮度を保つためにもものすごく需要があるところなんですが、一方で発電所が電気をつくるために排出するなど矛盾があります。こういったCO2をうまく取り込めることができれば、バイオ燃料の価格もそのぶん抑えることができる――といった考えをもとに、現実的な商業価格を実現する研究は進めてはいますが、ここの苦労は現在も続いています。
御社は、日本をバイオ燃料先進国にすることを目指す『GREEN OIL JAPAN』の宣言のなかで、2020年にバイオジェット燃料による日本初の有償フライトの実施を盛り込んでいます。ここには、どんな背景があるのでしょうか。

先ほどの話の続きにもなるんですが、国際的に航空輸送が急増しつつあり、各国で燃料の見直しが進んでいるんです。

すでにアジアを含めた20か国以上がバイオジェット燃料の有償フライトを実施しているのですが、日本は試験飛行が数回あるのみで世界に後れを取っています。2020年は東京オリンピック開催年でもあり、世界に向けて日本の技術力を打ち出すまたとないチャンスでもあります。そんな国の思惑もあり、バイオジェット燃料の開発に拍車がかかっています。
進捗はいかがでしょうか。
すでに最終段階に来ており、現在はバイオジェット燃料の国際規格の認証を待っているところです。おそらく今年の夏頃には通るかと。実現度は高いですよ。
そして、バイオジェットより一足早く、バイオディーゼルが実用化に向けて進んでいるんですよね。
ええ。いすゞ自動車さんの協力のもと、すでに実証走行が始まっています。同社が走らせているシャトルバスの燃料にミドリムシおよび使用済てんぷら油を原料とするバイオディーゼル燃料を10%混ぜています。燃料の品質安定性が担保されれば、今夏から市場に向け供給をスタートする予定です。

今の便利を少し我慢することで、持続可能な社会を

最後に伺いたいのですが、バイオ燃料の普及は、今後私たちの生活にどのような影響をもたらすと考えていますか。
今の生活はとても便利なんですが、もしかしたらその便利をちょっと我慢する将来が来るかもしれませんね。そういう意味では、私たちユーグレナは、世の中を便利にしているというよりも、持続可能な社会にするための社会のあり方を示す方向に目を向けています。その一つがバイオ燃料なのかなと思っています。

端的に言うと、バイオ燃料ってどんなに安く製造しても、石油燃料よりも1.5倍くらいは高くなってしまうと想定しています。けれども、石油はいつか尽きてしまいます。そこに向かって価格もいまの2倍3倍と段階的に上昇していくでしょう。しかし、我々のバイオ燃料は再生可能なので、価格据え置きのまま安定供給し続けることができます。「昔は、一リットル100円で買えていたのに、いまは150円するんだよね」という感覚は残るかもしれませんが、その負担をみんなで共有することによって、将来のいっそうの不便を回避できると思っています。

我々が理解しないといけないのは、いまの日常は “地球を傷めつけている状況のうえで成り立っている” ということ。「この日常をずっと繰り返していくと、いつか地球は滅びるだろう」。そんな危機感を誰もが大なり小なり抱えていると思うのですが、その時期は自分たちの世代ではない。だから、なかなか自分ごととして捉えられないまま日々過ごしているのではないでしょうか。

ユーグレナは、そんな時代だからこそ、“未来の危機”に真剣に取り組む企業でありたい。これから世の中もそういう方向に進んでいきます。100年先を見据え、産業と自然が共生できる新しい社会を築いていきたいですね。

編集後記

いかがでしたでしょうか。
今回の取材では、ミドリムシの持つポテンシャルの高さと、バイオ燃料を取り巻く国内外の情勢を学びながら、たくさんの気づきを得ることができました。同時に、環境を意識した取り組みが今後生活者レベルでもより求められていくことになるとも感じています。

世の中の新しい動きの裏側には、どんな課題が潜んでいるのかまで考えを巡らせられれば、明日からの行動にも変化が出そうですね。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
香川妙美
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。