2018年10月23日

カミングアウトの範囲は自分で決める、JobRainbowが描く「LGBTフレンドリーな就職活動」とは

「すべてのLGBTが自分らしく働ける職場に出会えること」をビジョンに、LGBTに特化した求人情報サービスを手掛ける、
株式会社JobRainbow。世界でも珍しいビジネスモデルとして注目を集める、同社 代表取締役 星賢人さんに話を伺いました。


ご自身もゲイと話す、星賢人さん。生きづらさから中学時代は不登校を経験。そのときインターネットで知ったLGBTという言葉に「自分は一人じゃない」と救われたと話します。そんな星さんが、大学3年生のときに描いた未来は、LGBTの人が活躍できる社会。その一歩として、大学院在学中の2016年1月に、株式会社JobRainbow(ジョブレインボー)を設立、現在に至ります。
星さんに、起業の経緯、主力メディア『ichoose』のサービス概要、そして今後のビジョンについて伺いました。

株式会社 JobRainbow
代表取締役 星賢人(ほし・けんと)さん

24歳、東京大学大学院情報学環教育部修了、Forbes 30 under 30 に日本人として唯一、社会起業家部門に選出、孫正義育英財団正財団生、学生時代より早稲田ビジネスコンテストなど数々のビジコンで優勝/受賞経験を持ち、NewYorkTimes/朝日新聞/毎日新聞/フジテレビ「ホウドウキョク」/テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」など多数メディアに出演。一橋大学や立教大学と行った教育機関、千代田区などの行政機関、Facebook Japanやかんぽ生命、住友商事などの180を超える組織に対してLGBTに特化した研修・コンサルティングを提供する。

先輩、友人たちの就活の挫折。自分にできることを考えた

今日はよろしくお願いします。
御社は、LGBTベンチャーとして、現在はLGBTしごと情報サイト『JOBRAINBOW』、LGBT求人サイト『ichoose』の運営に加え、LGBTの求職者に向けたセミナーやイベントの開催、企業に向けてはLGBTに関する研修やコンサルティングを手掛けています。これら“働く”に特化したサービスが生まれた背景からお聞かせください。
大学時代にLGBTサークルを立ち上げたんです。メンバーも40人くらい集まって活動自体も楽しくやっていたのですが、就活時期になると、あれほどイキイキしていた先輩や友人の表情がどんどん暗くなっていく姿を目の当たりにしました。
つまり、就活がうまくいかない、と。
ええ。男女どちらかの性での就業を前提とした企業姿勢や面接官の心無い言葉に、トランスジェンダーの先輩は絶望し、大学も辞めてしまいました。また、最初から就職を諦めてフリーターになる友人も多く、LGBTであることが社会に出ていくハードルをこんなに高くしているのかと、立ち尽くす気分でした。

本来、LGBTであることと、その人の能力は、切り分けて考えられるべきですよね。
そうなんです。LGBTであることを理由に社会で活躍できない人がいることは、企業にとっても損失です。かたや、LGBTフレンドリーな会社も増えているし、LGBT当事者のなかにはオープンにして働きたい人もいます。その思いをうまくつなぎ合わせられれば、双方にとってWINWINになる。そう考えたことが、会社を立ち上げるきっかけになりました。
構想から設立までは、どのくらいの期間があったのですか。
2年近くありました。当時、大学生だったこともあり、漠然としているアイデアを深めようと、企業のインターンシップにも参加しました。そのうちの一つのマイクロソフト社には、LGBTの社内サークルがありました。そこでは、20人のLGBT社員が月一で集まって活動をしたり、会社に施策提言を行ったりしていました。

「会社の中でも LGBTを支援する体制って作れるんだ」。そう認識すると同時に、「こういう情報を知っていれば、友人らも希望を持てたんじゃないのか」と強く思い、事業モデルの大枠が決まりました。

その後、新規事業立案型のインターンに参加して自分の構想を発表したところ、ベンチャーキャピタルが主催するビジネスコンテストへの出場権利を獲得できました。そうやって場数を踏みながら、ビジネスモデルをブラッシュアップしていきました。
起業を決めたときの周囲の反応はどうでしたか。
共同創業者の姉(取締役COO 星真梨子氏)をはじめ、コンテストを通じて知り合ったビジネスマンや経営者の方たちは、すごく応援してくださいました。また、サービスを具現化する前に、130人のLGBTに対してユーザーヒアリングを行ったのですが、半数以上から「使いたいから、いますぐ会員登録させてほしい」といった声が上がり、反響の大きさを感じました。

LGBTファーストのサービス設計で、ユーザーを順調に拡大

最初に形にしたサービスは、LGBTしごと情報サイト『JOBRAINBOW』ですよね。改めて、具体的なサービス内容を教えていただけますか。

JOBRAINBOWのトップページ
口コミをベースにした企業情報の集約サイトです。たとえば、『マイクロソフト社には、LGBTサークルがあります』といった情報をユーザーが自由に書き込めるというもの。僕たちだけで情報を集めるには限界があるし、オフィシャル化されていなくても、社内の空気としてソフト面が備わっている企業もたくさんあるので、そんな声を拾いたいと思い、スタートしました。
情報を集めるのはうまくいったのでしょうか。
実は、ネガティブな口コミも一定数集まってしまったことに悩まされました。さらには、会社設立の2か月後に僕が1年間留学したこともあり、出足は順調とは言えませんでした。ただ、この間に会社を任せていた姉から、「口コミサイトではなく、求人情報をベースにしたサービスに切り替えないか」と提案を受け、留学先でベースをつくりました。
それが、2017年6月にローンチした『ichoose』ですね。月間アクティブユーザーは、11万人(2018年8月時点)、求人情報は100社に迫る勢いだとか。
ローンチ直後のユーザー数が数百人だったことを考えると、この1年の間に大きく伸びたなあと感じます。
サービス設計で、「ここだけは外せない!」といった、こだわりの部分はありますか。
秘匿性を担保できるようにした点は大きいですね。 たとえば、エントリーシートは男女だけではなく、色々なセクシュアリティが選べるようになっています。カミングアウトする範囲も、社員全員が知っている状態で入社したいのか、人事と上司だけが知っていればよいのか、ユーザー自身が決められます。

LGBTって言うと、“LGBTの人”のように、十把ひとからげの人物像をイメージする人が多いと思うのですが、当然ながら実際は個人です。一人ひとりがそれぞれ違うことを考えているぶん、配慮項目も細分化しています。たとえば、性適合手術を受けるための休暇を必要とするのか、更衣室やトイレの使用はどうしたいのかなど多岐にわたるのですが、LGBTの人が安心して働くうえで重要なことだと考えています。

情報掲載に関する企業からの問い合わせも多いと聞きました。
LGBTの取り組みをしていることを当事者に届けることでブランディングにつなげたいと考える会社もあれば、採用に困っている、かつ当事者が働いている/オープンな環境があるといった掛け合わせの会社もあります。どちらにしても、ありがたいお話です。
とはいえ、掲載をお断りするケースもあるそうですね。
そうですね。配慮ある対応ができない企業の情報は、取り下げるようにしています。ただ、なるべくそうはならないよう一定基準を満たしていない企業には、当社のコンサルティングサービスを受けていただくことを掲載の条件にしています。
掲載までのハードルが高い、なんて声が聞こえてきそうですが……
人的、金銭的コストの負担を考慮されるケースもありますが、多くはLGBTの理解に取り組むことを、おおごとに捉えている節はありますね。

現在、日本国民の7.6%が LGBTと言われていますが、これは、血液型がAB型の人とほぼ同程度とも言われています。そう聞くと、LGBTの人って想像以上に身近にいると思いませんか。LGBTへの理解に取り組むのは、決して時期尚早ではありません。今後、押し寄せてくるダイバーシティの波への準備をしないほうが、よほどリスクだと思っています。
聞けば聞くほど、LGBTファーストのサービス設計なんですね。でも、ここって、『ウチがやっていることは、ビジネスなんだ!』って立ち戻れる部分でもありますよね。
そうなんです。成果型報酬をメインのサービスにしていた時期もありましたが、活躍できるのか分からないけれども、とりあえず入社できそうな会社を求職者に勧めることに、後味の悪さを感じていました。

本来なら求職者が決断すべきところなのに、当社の利益を優先するかのような活動の仕方は、ユーザーへの裏切り行為でもあるし、理念と違うことをやると、やがてサービスとしても成り立たなくなります。今は月額課金サービスを基本展開とし、本質的な部分で採用につなげられるよう、僕たちも工夫を重ねています。

社員の理解がLGBT当事者の居場所を作る

サービスをご利用になった企業やユーザーからの反応を聞かせてください。
カミングアウトをして働くことに自分も家族も不安を持っていたという方から、「『JobRainbow』をきっかけに転職が叶い、家族と一緒に泣いて喜びました」と連絡をいただいたときは嬉しかったです。その方の転職先は、経営者もLGBTの方だったそうです。

企業からは、「本質的なダイバーシティの促進につながり、職場での多様性がより可視化された」「LGBTに限らず、人が違うのは当たり前という考えが社内に根付いた」といった声をよく聞きます。一社で10人以上を採用した企業もあるんですよ。

それは、すごい! 採用活動の結果が企業文化の醸成につながっているんですね。
ところで、これからダイバーシティの取り組みを始めようと考えている会社は、何から用意すればよいと思われますか。
LGBTの人が、「この会社にいてもいいんだ」と感じられる風土を社内に作ることが大切だと思っています。これはすごく簡単なことです。皆で理解する場を設けたり、トップがメッセージを発信したりするだけなので。

しかも、お金は一円もかからない。これだけで、7.6%いるLGBTのエンゲージメントを高め、生産性も上がると考えると、超コスパの高い投資だと思うんですよね。まずは、気持ちの部分で受け止められるようにすることが大事と研修の場でもお伝えしています。

LGBTの生涯をトータルサポートできる未来を目指して

現在は、就業支援に特化したビジネスを展開されていますが、次の一手はすでにお考えですか。
短期的には、今の『JobRainbow』を通して、LGBT当事者と企業のあいだにある情報の非対称性を埋めることで、サービスの価値向上を目指していきます。具体的には、AIを活用し、個人の志向性に合った適切なジョブマッチングを実現したい。テクノロジーをうまく使いながら、LGBT一人ひとりが自分らしく働ける職場との出合いを創出したいですね。

そして、中長期的には、就職の前後に関わるサービスを提供したいと考えています。たとえば、教育、住宅選び、結婚、保険加入、そして介護まで、あらゆるライフイベントをサポートしたいな、と。
LGBTであることが、障壁になることって多いんですか。
同性パートナー同士だと、家を借りるにも家主から拒絶されたり、近所から嫌がらせを受けたりすることがあるんです。結婚式を挙げるにも宗教上の理由で式場の利用を断られたり、介護もLGBTであることをオープンにしていると周りと馴染めなかったり。生まれてから死ぬまで、当たり前にいかないことがまだまだ多いのが実情です。だから僕たちは、LGBTの全てのライフイベントを支えるインフラサービスを、ワンプラットフォームで叶えていきたい。そんな思いが事業構想としてあります。

実現にあたっては、ブロックチェーンの活用を視野に入れています。現在の日本は、同性カップルの婚姻が法的に認められていないので、例えばアメリカで婚姻契約を結んでいるゲイカップルが日本に来ると、結婚していると認めてもらえない状況が起きたり、日本人が外国人の同性パートナーと同性婚を認めている国で結婚した場合、その国では婚姻関係が認められるけれど、日本では認められていないという不一致が起きたりしているんですよね。

その点、ブロックチェーンは、国家が認めていない形の契約であっても、その信頼を保証する根拠になりうるものとして活用できるので、僕たちのサービスとは相性がよいと考えています。

いつか婚姻関係が法的に認められたときに、パートナーの保険金の受け取りや、扶養家族の認定をさかのぼって受けられる等のベネフィットがありそうですね。
そうですね。日本でも事実婚状態にいるカップルはたくさんいるので、それをブロックチェーン上に保存し、不可逆的な契約として認められれば色々な恩恵を受けられるようになると思うんですよね。

ほかにも、同性婚を認めていない国やLGBTであることによって差別を受けてしまう国の人が難民になった場合も、ブロックチェーンを通じて婚姻関係を結んでおけば、難民申請を出したときに相手を家族として呼び寄せることも可能になると思っています。
世界で共通して情報の信頼性を担保できることは、非常に大きな価値なんですね。
そんな世界を実現すべく挑戦していきます。
JobRainbowのビジョンに勇気づけられ、今後の展開を待ち遠しく感じている方が、日本のみならず世界中にたくさんいると思います! ぜひ実現させてください。今日はありがとうございました。

編集後記

就活で傷ついた先輩・友人の思いを種に、すべてのLGBTに向けて、大きな花を開いてみせた星さん。その熱意とアイデアは、ダイバーシティが急加速するこの時代、求められるべくして生まれたサービスなんだと感じました。

JobRainbowのコーポレートサイトには、『ダイバーシティからインクルージョンへ』という文言が踊っています。この言葉を知り、考えるだけでも、多様性という言葉の捉えかた、意識が変わってきませんか?

星さんに話を伺ったあとは、なおさらこの言葉を強く胸に刻みたいと思ったのでした。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。

関連リンク

株式会社JobRainbow

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この記事を書いた人
香川妙美
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。