2019年6月20日

学習評価の仕組みが変わる!? “教育ブロックチェーン”がもたらす、自分らしさが正しく評価される未来

教育分野にもブロックチェーンを活用したサービスが登場しています。その内容とは一体どんなもの? ブロックチェーンが紡ぐ未来の教育の在りかたをin.LIVEが覗いてきました。


金融をはじめあらゆる分野で活用の進む「ブロックチェーン」。
この波が教育分野にもじわじわと近づきつつあります。とはいえ、教育とブロックチェーンがどのように結びつくのか、まだまだピンとこない方も多いはず。

なぜ教育現場にブロックチェーンが必要なの? 活用することで日本の教育はどう変化するの? そんな疑問を解決すべく、教育ブロックチェーンの先駆者的存在である、株式会社ソニー・グローバルエデュケーションの高橋さんのもとを訪ねました。

株式会社ソニー・グローバルエデュケーション
中長期企画部 ブロックチェーンプロジェクトリーダー
高橋恒樹(たかはし・こうき)さん

慶應義塾大学卒業。ソニー株式会社に入社し、クラウド開発・運用を担当。株式会社ソニー・グローバルエデュケーションにて、ロボット・プログラミング学習キット「KOOV」等主要サービスのクラウド基盤構築・運用に従事。2017年より教育領域へのブロックチェーン技術適用に携わる。

地域格差を是正、人材育成にも!? ブロックチェーンで生まれる教育の新たな局面

今回は“教育ブロックチェーン”をテーマにお尋ねしたいと思います。と言いつつ、実際のところ何からお聞きするとつかみやすいのか……
教育ブロックチェーンは、壮大な話かつ実体が無いぶん、分かりづらいですよね。まずは、現在の日本の教育現場を切り口に、私たちが目指しているブロックチェーンの基盤からお話ししましょう。

香川さん、現在、学びの場と聞くと、どんなものを思い浮かべますか? 
学校や塾、最近はオンライン学習もありますし、家庭での自宅学習も学びの場のひとつですよね。
そうですよね。しかし、それぞれの場所で通知表や学習カルテといった形で学んだ実績をまとめているものの、これらが集約されている場所はありません。つまり、いろいろな場所や教材で学んだことを証明したり連携させたりする環境が今の日本には無いという状況です。
そう言われると、そうですよね。けれども、これが今後何か問題を引き起こすのでしょうか。
実は深刻なんですよ。“教育格差”という言葉を耳にしたことがあると思うのですが、この格差には大きく二つあります。一つは、経済格差です。お金を払って子どもを習いごとに通わせたり、先端的な教育を授けたりする裕福な家庭がある一方、学校には通えるけれどお金のかかる部活や習い事には参加できない、進学を諦めざるをえない家庭がある。これは想像しやすいですよね。

そして、もう一つ地域格差があります。例えば北海道のような広大で、しかも人口減少が著しいエリアだと、たとえばプログラミングの授業を行うにも対応できる先生の確保が難しいという実情があります。本来なら教育機会は均等でなければならないのに、実際に現場で起きているこういった状況を確実に把握し、手を打たないことには、これら教育格差の解消は難しいんです。

そこで必要になるのが、ブロックチェーンだと。
そうなんです。すべての人のすべての学習情報がブロックチェーンに集約されていれば、そこからデータを切り出して教育機会が不十分な人向けの対策を講じることができます。たとえば、遠隔授業が行えるインフラの整備、教職員の適切な配置、習熟度別の学習プログラムの設計も検討材料になるかもしれません。このように教育機会が正しく分配されれば、格差は是正されます。さらには世界中が教育ブロックチェーンでつながるようになれば、国や地域による格差を無くすことも可能になるでしょう。
まさに国家レベルの取り組みですね。
教育機会が平等に行き渡れば、今度はブロックチェーンが個人の能力を伸ばすほうに活かされることになります。特定分野の学びに秀でている人、成績優秀ながらも経済的事情で進学を断念せざるを得ない人に対し、企業や大学がバックアップする動きが出たりと、新たな教育の分配理論の展開も望めます。ブロックチェーンは、人材育成による国力向上につながる可能性をも秘めているんですよ。

教育ブロックチェーンで、学んだ実績はより正しく評価される

大きな視点では、教育格差を無くす。その次は、秀でた能力を持つ個人を伸ばす。これらを可能とする力がブロックチェーンにあるということですが、利用する個人に視点を変えると、どのように活用していくことが想定されているのでしょうか。
大学入試や就職活動の際に、正しい情報という前提のもと経歴書として利用されることが目的の一つにあります。
なるほど、エントリーシートや履歴書に代わるものになるということですね。となったときに、ふと生じた疑問なんですが、学校や塾、オンライン学習など、どこかに所属して学んだ情報は、所属元がブロックチェーンに保存してくれるようになると思うのですが、個人の活動ってどうなんでしょう?

たとえば、自転車で日本一周しながらボランティア活動に取り組んだ、YouTuberとして一目を置かれている、というような。コーヒーで起業する15歳が出てきたりと、学校教育の型にはまらない経験を持つ人が今後どんどん出てくると思うんです。そういった個人に紐づく活動は、どのようにブロックチェーンに保存され、また活用していくことになるのでしょうか。 

それは、いわゆるポートフォリオ評価というものですね。テストの成績だけでは評価できない活動の実績やプロセスも評価しよう、という考えかたです。現在、教育業界のトレンドになりつつあり、こうした多面的かつ総合的な活動は、2020年の教育改革以降、大学入試や就職活動でいま以上に評価されていくと予測されています。それを見込んで、個々の活動ログをポートフォリオに蓄積する取り組みが行われています。

そのツールとして使われている一つが、株式会社サマデイが提供するeポートフォリオサービス、「Feelnote(フィールノート)」です。現在、このFeelnoteと我々のブロックチェーンを実験的に接続する取り組みもスタートしているんですよ。この動きが本格化すれば、進学や就職の仕組みがドラスティックに変わっていくことになるでしょう。
その時代の入口に、わたしたちはいま立っているんですね。
eポートフォリオの考え方は、当社代表の礒津も非常に重要と話しており、その一部が当社のプロダクトにも実装されています。たとえば、当社が開発しているロボット・プログラミング学習キットのKOOVアプリでは、ユーザーが投稿した作品群を一覧表示できるようになっています。最初はシンプルな作品ばかりだったのが数年後には非常に複雑な作品が並ぶようになった、というようにレベルアップしていくプロセスを時系列で追えるんですね。 このように、いつ、どこで、どんな学習をとおして努力を重ねてきたのか、が見える化されることはとても大切です。大学入試や就職においても、そのプロセスが重要な評価対象になっていくでしょうから。

価値を見いだせなかった学習履歴にも光が当たるようになる!?

KOOVで学んだことが履歴として保存され、評価に加えられるとなったら、進路によっては有利になりますね。あらゆる学びが取りこぼされることなくまとまっていくことは、一つの物差しでは図れない時代を生きる子どもたちにとっても、自分の強みを見つめなおしたり、発見したりする手立てになりそうです――と、ブロックチェーンを用いて学習履歴をしっかり残すことの意味は理解できました。
それは良かったです!
ただ、もう一つ分からないことが……信頼性や不可逆性を担保するのに、なぜブロックチェーンでなければならないのでしょうか? その人の能力を証明できることは大切ですが、「自分は、その能力を持っています」と人前で自らアピールする力も重要だと思うんです。データやツールに頼る必要のないところまでデジタルが介入していくのはどうなのかな、何もブロックチェーンじゃなくても良いんじゃないかと思ってしまったのですが。
そう思う人も多いですよ。それは日本に偽造の証明書が割と少ないからなんです。海外では卒業証書や免許状が偽物だったってことは、結構多いそうです。ブロックチェーンを使えば、こういった不正は確実に行えなくなりますので、まず成績証明が担保される利点は大きいです。

ブロックチェーンは、対改ざん性を保つ、複数のステークホルダーがいる、という点が大きなポイントです。あらゆる学習履歴を集約して保存できる場所が必要とされていますが、その環境は中央集権的なものではなく、分散して保存されるほうが望ましいと考えられています。なぜなら、誰かに書き換えられる、あるいは自分で書き換えることが不可能になるからです。つまり、安全でオープンな環境をブロックチェーンでつくると、安全な場所に保存されている情報だから信用できるということになる。すると、これまでは価値のある情報だからブロックチェーンに入れていたけれども、これからは細かい学習履歴でも価値のある場所に保存することによって、一つひとつが価値を持つようになるんです。

なるほどなあ。価値のある情報を保存する、というよりも、価値のある場所に保存することで情報に価値が生まれるというのは面白い発想です!
逆に、いまの自己アピールって、どこか言ったもん勝ちみたいなところがありますが、近い将来は「信用に足る裏付けがあるから、今ここでアピールするんですよ」と言えるようになるんです。
アピール下手な人が自信を持って自己PRに臨めるようになり、大風呂敷を広げられる人はいなくなる。いわば、正しい評価を受けるというごく当たり前のことが当たり前に行われるようになるということですね。
そうですね。そして、今は学校に行って卒業することがある種のアピール材料を手に入れるチャンスなわけですが、これからは学校に行かなくても何をしていたのかが残っていれば、後付けで成績を付ける、評価することもできるようになります。
あれ? となると、学校が必要なくなるってことですか!
それはさすがに言い過ぎかもしれませんが、学習のために一定の時間を過ごし、テストを受けるための学校からは、進化していくことになるでしょうね。
就活のスタイルももちろん変わることになりますよね。
そうなると思いますよ。情報科学系の学部を卒業していないからエンジニアになれない、とそこで終わるのではなく、たとえば幼少期にKOOVで学んだことをはじめ、制作したロボットの変遷、これまでに書いてきたプログラムの履歴など、これらの情報を志望企業に開示することで、道が拓けることも十分ありうるでしょう。職業選択の幅は、グンと広がるはずです。

教育ブロックチェーンが社会実装される、その日を目指して

高橋さんのおかげで、教育ブロックチェーンとは何か、何ができるのかが、短い時間でだいぶ理解できました。ちなみに教育ブロックチェーンの活用を視野に入れている企業は、御社以外にも存在しているんですか。
そうですね。先ほどお話したFeelnoteに加え、富士通株式会社が提供する「Fisdom(フィズダム)」というプラットフォームなど、国内を見ても数社ありますし、今後もますます増えていくと思います。そんな環境のなか、当社はブロックチェーンの教育利用が必要と世界に先駆けて提唱している立場上、先頭に立って挑んでいこうと思っていますし、教育ブロックチェーンはコンソーシアムを組んで構築していく必要がありますので、協業先も積極的に募りながら、確かなカタチへと進めていこうとしています。
実験を重ねて精度が高まったのなら、いよいよ実社会にというスケジュールでしょうか。足下では、小学校の必修科目が増える、大学入試が変わる、とそちらへの関心が高まっていますが、視野をもっと広げると、教育がさらに大きな枠組みに進もうとする未来があることに気づかされます。
今までの繰り返しになりますが、これからは学校だけが学びの場でなくなる社会へと変わっていきます。教育分野には、学校や習い事、自己啓発などフォーマルな学習から、日々の仕事や生活でのインフォーマルな学習まで目的意識の異なる幅広いカテゴリーの上に、国内海外の制度の差異など業界特有の課題が多くあります。それらを AI やブロックチェーンといった先端的なテクノロジーのもと解決し、革新的なサービスの創出につなげることが、当社の長期的なゴールです。

いまは成績履歴をブロックチェーンに保存する実験をしている段階ですが、最終的にはどのサービスを使って勉強しても教育ブロックチェーンにデータが蓄積され、それを個人が自ら管理できる社会を目指していきます。

新たな教育環境の幕開けが待ち遠しいです。今日はありがとうございました。

編集後記

本取材は、現在、子育て真っ最中のわたしにとって、いま子どもに与えられている、また授けている学びのすべてに確かなる意味があることに改めて気づかされる機会になりました。子どもたちが自分らしく活躍できる社会の実現は、日本の新しい可能性を切り拓くことにつながっていくのでしょう。

デジタルがもたらす未来の大きさに素直に驚きながらも、その未来に大きな期待を寄せたい。そんなふうに感じたのでした。

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この記事を書いた人
香川妙美
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。