2018年9月13日

社内にも明かされなかった10年越しの ”Xプロジェクト” 、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」開発秘話と来春の発売に向けて

2015年に発表されて大きな話題を呼んだ「ランドロイド」、いよいよ2019年春より販売がスタートします。あらゆる家電メーカーが挑戦するも断念してきたと言われる本製品の開発の裏側について、創業者である阪根 信一社長に伺いました。


皆さんこんにちは!編集長の田中です。
2015年、彗星の如く現れ、家電やロボット業界で大きな話題となった「Laundroid(ランドロイド)」を覚えているでしょうか。あらゆる家電メーカーが挑戦するも断念してきたと言われる「洗濯物を自動でたたんでくれる」ロボットです。

メディアで大きな話題となった2015年から3年が経った今。着々と開発が進み、ついに製品化、2019年春より日本での販売が決定しました。

そんなランドロイド、なんと10年以上の開発期間を要しながらも、そのプロジェクトの全貌は社員の家族や友人にも明かされなかったのだとか。社内でつけられた名称は ”Xプロジェクト” 。それまでロボットはもちろん、ハードウェアやソフトウェアを開発した実績もなかった同社が、この一見 ”無謀” とも思える、夢の製品をいかにして実現したのか?

開発から販売に至った裏側について、ランドロイドを開発するセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社の創業者である阪根 信一社長に伺いました。

代表取締役社長 阪根信一(さかね・しんいち)さん

University of Delaware(米国)にて化学・生物化学科専攻 博士課程終了。Glenn Skinner 賞(博士課程最優秀賞)受賞。 2008年7月FRP専業メーカーのスーパーレジン工業株式会社 代表取締役社長に就任。 2014年には、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社を設立。完全オーダーメイドのカーボンゴルフシャフトを中心としたカーボン事業、いびきや睡眠時無呼吸症候群を解消する医療機器「ナステント(nastent®)」を展開するヘルスケア事業、世界初全自動衣類折りたたみロボット「ランドロイド」を開発するロボティクス事業の3事業を推進している。 またNPO法人「icetee(1999年設立)」の代表を務めるなどボランティア活動にも精力的に取り組んでいる。

「できること」からはイノベーションは生まれない

本日はよろしくおねがいします!早速なのですが、ランドロイドが誕生したのは阪根社長の奥さまの「洗濯物を自動で畳んでくれるロボットがあれば」という一言がきっかけだったと聞きました。
そうです。もともと僕らは世の中にイノベーションを起こす条件として、「世の中にないもの」「人々の生活を豊かにするもの」「技術的ハードルが高いもの」という3つの条件をクリアする製品を開発しようとしていました。

そこである日、妻に『家の中で使うものでこれがあれば便利、だけど技術的に難しそうでまだ世の中に存在しないものは?』と聞いたんですよ。そこで返ってきたのが「自動洗濯物畳み機」という答えでした。
「技術的に難しそうなもの」という条件があったんですね。
簡単なものであればすでに誰かがやっていると思いましたし、皆が諦めてきた難しそうなテーマを選んでおかなければ、自分たちが一番になることは難しいと思っていましたね。

だけどきっと「洗濯物を自動で畳んでくれる」ということだって僕だけが思いついたわけではないはず。他の家電メーカーだって同じことを考えたことがあるに違いないのですが、ただ誰もが難しすぎて、または反対意見が多すぎて、開発を継続できなかっただけかなと思います。
うーん、確かに。でも世界の名だたる家電メーカーが実現できなかったテーマに「投資しよう!」と踏み切れることが、普通なかなかできないことというか…
アイデアを思いついた当時、若手技術者を集めてまずプレゼンしますよね。
「ついに良いテーマを見つけたぞ!自動洗濯物折りたたみ機だ!他の家電メーカーがどこもやってないんだ」と。すると技術者たちから「本当にどこもやっていないのか?」と。「そう、やっていないんだ!」と自信満々に言うと、「じゃあ無理ってことですね」と一蹴(笑)。

そう誰もが口をそろえて言うような状況でした。
ごもっともと思ってしまうような…(笑)。
その状態から地道に説得されていったんですね。既存の技術や過去の成功に頼らず、こういう商品が欲しいから作ろうというのはなかなか自信を要する決断ではないかなと思います。素朴な疑問なのですが、きっとできるはず!と思える自信や情熱はどこから来るのでしょうか?
自信があったというか、自分たちが想像できるものはかならず出来るはずだとは思っていました。 自分で起業してイノベーションを起こしたいというのは前々から思っていましたが、「自分たちの得意技術や出来ることを使ってイノベーションを起こそう!」というのが、一番よくある失敗だと思っていたんです。世界中の天才たちがイノベーションを起こすために努力している時代ですから、そんな都合の良いイノベーションはもう起こりようがないんですよ。

そういう意味では、技術や分野を絞らずに挑戦したというのが、振り返ってみて良かったことだったと思いますね。

御社が開発されている無呼吸症候群を予防する「ナステント」や完全オーダーメイドの「カーボンゴルフシャフト」を見ても、分野を問わず開発をされていることがよくわかります。

ランドロイドをきっかけに初めて御社のことを知って、すでに別の業界で様々なイノベーションを起こされていることを知った方も多いかと思うのですが、こうした製品もランドロイドと同じく「こういうモノがあれば良いのに!」という必要性から生まれているんですね。ちなみに… プロジェクトとして立ち上がったものの実際の製品化に至らなかったケースもあるのでしょうか?
ありますよ。「アルツハイマーの診断薬」なんですけど、これは開発から実験の段階で、資金のハードルにどうしてもぶつかってしまいましたね。ラットでの実験が終わり、次は猿の実験と進んだところで開発を停止せざるをえない状況になってしまいました。
じゃあもしかするとまた開発を再開される可能性も…?
ありますね。資金的にもう一度チャレンジできる時期が来れば、また着手するかもしれません。

なぜ洗濯物が自動で折り畳めるの?「画像認識×人工知能×ロボティクス」の掛け合わせ

ランドロイドの開発において特に苦労されたこと、印象に残っていることはありますか?
苦労はまあ沢山ありましたね… やっぱり振り返って一番大変だったのは、基本の技術がブレイクスルーするまでではないでしょうか。

まずランダムに積まれた服をロボットアームが一枚つまみあげ、広げて展開する、それがズボンなのかシャツなのかを何の衣類なのかを認識する、認識した結果に基づいて、事前に学習させた教師データ(※)どおりに畳む。その一連の技術を開発することが、想像以上に大変でした。

※教師データ:《teaching data》
機械学習の教師あり学習において、人工知能のニューラルネットワークがあらかじめ与えられる、例題と答えについてのデータ。この大量のデータをもとに、ニューラルネットワーク自体が出力結果の正否を判断し、最適化を行う。
人間であれば目で見て考えて一瞬にできることですが、機械を通してやろうと思うとそれぞれがものすごく高度な技術の組み合わせなのですね…!「これでいけるぞ!」と確信がもてるまでにどれぐらいかかったのですか?

うーん、開発を始めてから大体8年くらいはかかりましたね。技術のブレイクスルーが起きるまでは、開発チームと手探りで色々な技術を試してみるという日々でした。

そもそも洗濯物を自動で畳むと発想したとき、ロボットアーム、カメラ、人工知能の3つの技術の組み合わせで出来るのでは?という考えはありました。ただ、画像認識だ!じゃあカメラを買おう!で、買ってきたは良いけどどうやって制御するんだっけ?っていう… 本当にそんなレベルからのスタートです(笑)。
うおおおそこから… その状態から今の実用化までたどり着いているのが逆に不思議になってきました(笑)。開発者の方の不断の努力なしには叶えられなかった技術なんですね。

一切情報を漏らさなかった10年間、Xプロジェクトが業界の話題を奪うまで

苦労のもとにようやく開発されたランドロイドは、2015年、IT技術の見本市として知られる「CEATEC」でお披露目されて、またたく間に話題になったのを今でも覚えています。

着想から発表までの約10年の間、洗濯物を自動で畳んでくれるロボットが開発されているなんて、業界で誰も知らなかったわけですよね。
ランドロイドのプロジェクトは ”Xプロジェクト” と呼ばれていて、開発者たちにも「家族や友人にも絶対に漏らすな」と徹底していました。社外はもちろんですが、実は社内にもほとんど知らされていなかったんですよ。
ええ!社内の人も10年間知らなかったんですか!そんなことがありえるのか…
そうなんです、ゆえに採用にはかなり手こずりましたね。面接に来てくれる技術者の方にどんな仕事をさせてもらえるのか聞かれても「それは言えません、入社したらお伝えします」と(笑)。

何を開発するかの事前情報なしで入社するなんて!そのタイミングでジョインされたメンバーはなかなかツワモノですね(笑)。2015年のCEATEC、製品を発表したときのメディアや市場の反応はいかがでしたか?
展示の準備期間はブースに黒幕を張って、誰からも見えないようにしていました。誰もが知る大手メーカーのブースの間に陣取ったスペースに囲いをして、周りからは「セブン・ドリーマーズって誰だ!?」と思われていたと思います。

しかもCEATECの一般開催の前日にメディアデー(メディア向けのお披露目会)があったんですが、僕らはそれを知らず、黒幕を張ったままだったんです(笑)。メディアデーが終わったあと、唯一情報を事前に撮影していただいていたテレビ東京のワールドビジネスサテライトでランドロイドが紹介されると、たちまち話題になって。

通常、一般開催中にメディアの方が会場に来られるのは珍しいそうなのですが、僕らのブースには連日多くのメディアの方が集まっていました。それまでずっとシークレットでやっていた技術者たちも、その大反響を見て感動して、ようやく「自分たちは間違ってなかったんだ」と思えたんじゃないかなと思います。

おおお… なんだか鳥肌が立ちます。10年もの間、極秘プロジェクトとして進められていたんですもんね。
正直かなり不安だったと思いますよ。
技術者たちは、自分たちの技術に自信はあったものの、本当に市場に受け入れてもらえるのか?馬鹿じゃないの?と一蹴されるんじゃないかとか。実際にお披露目して世の中の反響を見て、ようやく安心したんじゃないでしょうか。

着想から13年、今も進化を続けるランドロイド

2019年春からは、ようやく一般に販売開始されるんですよね。ランドロイドを待ち望む声も多いかと思いますが、事前予約などの反響はいかがでしょうか。
既に始まっている先行予約では、多くの予約をいただいています。正式に受注してランドロイドがお客様の元に運ばれるのは来年の春になります。
来年の春からは「自宅にランドロイドがある」という人が実際にいるわけですね!いいなあ、見に行きたい!一般に流通して利用者が増えるほど、畳む衣類のデータもどんどんクラウドに蓄積されていくと思うのですが、現段階で教師データはどのように貯められているんでしょうか?
めちゃくちゃ地味なんですが、実際に何千枚の衣類を購入してひたすら写真を撮って、データとして保存しています。
え!衣類データを一枚ずつ撮影!?なんて泥臭い作業なんだ…!
今日も社内のチャットで「皆さんの家にあるタオルを持ってきてください!」とか行き交っていましたよ(笑)。担当が色々な古着屋さんを巡って、様々なパターンの衣類を集めてくるんですけど、例えばタオルとかって古着屋さんでも取扱いがないので社内頼みだったりで…。
そっか、確かに!でもタオルだけでもそんな種類ってあるものですか?
タオルだけでも形は千差万別なんですよ。教師データが多ければ多いほど、正解率も上がっていくので、レアな服を探すために担当のスタッフが頑張っています。
す、すごい… そうした膨大な衣類のデータがあるからこそ、各家庭での衣類を間違いなく畳むことができるんですね。他に開発中の機能はありますか?
あまり詳しいことは言えませんが、今のランドロイドではできない「裏返しになった衣類を元通りにする」「ボタンを止める」「靴下のペアリングをする」というのは、将来モデルでは実装できるようにしていきたいですね。
ここまでの話を聞くと、靴下のペアリングも簡単にできそうなのに!
微妙な色味の違いだったり、片方が縮んでいたり、画像認識でも捉えられないことが実は色々とあるんですよ。でも「お父さんの服」「長女の服」といったかたちで、洗濯物を畳んで仕分けすることはできます。
畳むだけじゃなくて、仕分けまで!?賢い〜〜欲しい〜〜〜!今のところ、お値段はどれくらいなのでしょうか。 ここまでの話を聞くと、靴下のペアリングも簡単にできそうなのに!
2019年春の時点では、185万円〜(税抜)を予定しています。 ただこれも向こう7年ぐらいでもう少し一般的に手の届く範囲でご提供ができるようになればと考えています。大きさも少し小型化していければいいですね。

今の食洗機ぐらいのレベルで普及させられるようにしたいと考えてます。
うう〜!早く欲しい!

日本代表として出場したスタートアップワールドカップとグローバル展開について

Fenox社が主催する「スタートアップワールドカップ 2018」では、日本代表企業に選出されていましたが、全世界から集まった企業が競うシリコンバレーでの決勝戦はいかがでしたか?
基調講演で来ている方も著名な方ばかりでしたし、すごく勉強になりましたね。ピッチコンテストの方では残念ながら優勝することはできませんでしたが、会場のオーディエンスの反応も良く、笑いも起きたりしてかなり手応えはありました。結果的には、負けるならきっとこの企業だろうなと思った、MIT発の医療ベンチャーが優勝しました。

スタートアップワールドカップをきっかけに出資検討をしたいと声が掛かることもあったので、結果的にすごく良いPRの場にもなったと思います。
御社はすでにパリや中国、アメリカに海外拠点を抱えていますが、グローバルで戦うために大事にされていることはありますか?
基本的に現地で人を採用をするということでしょうか。 その土地のことは現地の方の方がよく知っていますし、日本人が現地に出向いてドライブできるものでもないと思っています。中国法人には中国人の社長、アメリカ法人にはアメリカ人の社長を置くことは大事だなと。
ランドロイドの海外からの反響はいかがですか?
そうですね、アメリカの方は想像以上に価格にシビアだったり、中国の方は他に比べると若年層の新しいモノ好きな方からの問い合わせが多かったり、色々反応にも違いがありました。ただ発売前の反響は日本とはあまり変わらないので、実際に販売が始まってからどのような結果になるのか、今から楽しみですね。
私も今後のニュースを楽しみに見ています!開発秘話から今後の展開まで、イノベーションへの情熱溢れるお話を聴かせていただきありがとうございました。

編集後記

以前、スタートアップワールドカップの決勝戦・壮行会でお話を伺ってから、ぜひ取材をさせていただきたい!と思っていたセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの阪根社長。世界にイノベーションを起こそうとする情熱と、簡単には諦めない強さをお話の端々から感じました。

阪根社長によると、平均的な4人家族の場合、一生のうちにランドリー行為(洗濯から収納まで)に費やしている時間は1万8000時間にのぼるそう!こうした当たり前の日常を疑い、挑戦を続けることなしには、イノベーションは語れないのだと感じさせられました。

来年の春からの販売に向けて、今年7月には表参道に「ランドロイド・ギャラリー」をオープン。ショールームとして製品をデモを体験できるほか、「コ・イノベーション・ベース(co-innovation base)」と称して、様々なジャンルの専門家たちと交流を図るソーシャルイベントスペースとして使用できるようになっています。

近い将来、私たちの生活の一部になるかもしれない「ランドロイド」。ぜひ今後のニュースにもご期待ください!

関連リンク

ランドロイド https://laundroid.sevendreamers.com/
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ https://sevendreamers.com/

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この記事を書いた人
田中 伶
田中 伶 アステリア株式会社 広報・IR室。メディアプランナー。 大学在学中に人材育成会社を立ち上げ、その後はスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げなどを経験。話題のビジネス書や経営学書の解説をするオンラインサロンを約5年間運営。難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。