2024年5月7日

すべての人の移動を楽しくスマートに。 気軽で身近な近距離モビリティ「WHILL(ウィル)」が目指す世界

徒歩圏内の移動をラクにしてくれる近距離モビリティの「WHILL(ウィル)」。日本のものづくりのノウハウと、スタイリッシュなデザイン性を併せ持つ一人乗りのモビリティで、日本はもちろん、世界中にユーザーが増えています。WHILL社のマーケティング・コミュニケーション部 部長の菅野さんに、現在の取り組みやウィルを通して目指している世界について伺いました。

すべての人の移動を楽しくスマートに。 気軽で身近な近距離モビリティ「WHILL(ウィル)」が目指す世界

外出する機会も多くなってきた今日このごろ、街中や商業施設などで、一人乗りのスタイリッシュな乗り物を見かけたことがある方もいるのではないでしょうか?

すべての人の移動を楽しくスマートに。 気軽で身近な近距離モビリティ「WHILL(ウィル)」が目指す世界 WHILL Model C2 提供写真

この乗り物の名は、徒歩圏内の移動をラクにしてくれる近距離モビリティの「WHILL(ウィル)」。日本のものづくりのノウハウと、スタイリッシュなデザイン性を併せ持つ一人乗りのモビリティで、国内はもちろん、世界各地に愛用するユーザーが増えています。

今回はWHILL社のマーケティング・コミュニケーション部 部長の菅野さんに、ウィルを通して目指している世界や、こだわりなどを伺いました。

菅野絵礼奈(かんの・えれな)氏|WHILL株式会社 マーケティング・コミュニケーション部 部長

菅野絵礼奈(かんの・えれな)氏|WHILL株式会社 マーケティング・コミュニケーション部 部長
大学卒業後、広告代理店に入社。車、食品・飲料、化粧品業界のマーケティングのコンサルテーションを行う。2020年1月WHILL社に入社。各製品のマーケティング・コミュニケーション戦略の立案と実行、全国のカーディーラーを巻き込んだ免許返納前から利用できる移動手段としての提案、家族に贈る文化醸成など、近距離移動の新たな価値を市場に浸透させるためのプランニングと実行を統括する。

「電動車いす」から「近距離モビリティ」へ

本日はよろしくお願いします!
以前、羽田空港で無料レンタルされているウィルの機体を見かけたことがあります。最近は施設で導入されているところも増えていますよね。
はい! 弊社は大きく2つの事業があって、機体を実際にユーザー様にご購入いただく販売事業と、ホテルや商業施設などでお客様を対象に機体を貸し出すレンタル事業の両方に力を入れています。
初めて見たときは、とにかくスタイリッシュでカッコいい! という印象でした。
「電動車いす」ではなくて「近距離モビリティ」という打ち出し方をされていますが、これにはどういった理由があるのでしょうか?
私たちの製品をまず誰に届けたいか? と考えたときに、100m先のコンビニに行くのを諦めてしまうような方に対して、機能もデザインも兼ね揃えた製品を作ろうと。
当初は ”電動車いす” として開発していたんですけど、介護保険を活用したレンタルのお客さまを獲得できていた一方で、”歩行に困っている方” にフォーカスしたときに、やっぱり電動車いすには少し抵抗があるというか、歩けなくなった人のための最後の砦、というふうに捉える方も少なくなかったんですね。

実際、いま日本では高齢者で歩行が困難な方は1200万人いると言われていますが、それに対して、電動車いすの出荷台数って2万台しかないんですよ。
1200万人の市場に対して、2万台!? つまり残りの1198万人は、車椅子に乗るほどでもないと思っていたり、そもそも歩行自体を諦めていたりということなんでしょうか。
そうですね。あとは、杖や歩行器のような器具を使う方もいらっしゃるんですけど、日本人に多いのは ”我慢しながら歩く“ ということ。健康のためには無理してでも歩かねば、と考える人も多いです。だけどやっぱりそうしていると歩く距離がだんだんと短くなって、気がつけば500メートル歩くのも辛い。近所の店に行くのを諦めるようなことも、たくさん起きています。

そこで、歩けない人の最後の砦としての電動車いすではなく、もっと気軽に移動を楽しめるようなモビリティとして再定義しようと。近距離移動を快適にするというウィルの良さを全面に出せるよう、”近距離モビリティ” と呼ぶようになりました。

菅野絵礼奈(かんの・えれな)氏|WHILL株式会社 マーケティング・コミュニケーション部 部長

ウィルを初めて見たときに、良い意味で「電動車いすには見えない」と思う方も多いんじゃないかと思います。すごくカッコいいんですよね。
ありがとうございます。2023年11月に開催されたジャパンモビリティショーに出展し、広い会場内の移動サービスとしても貸し出したのですが、その時は本当に多くの方に「これ何?」と興味を持っていただいて、約2000人の方に試乗、利用してもらいました。これまでハードルの高かった電動車いすが、気軽で身近なモビリティとして受け入れていただいているのを見て、すごく嬉しかったです。
徒歩10分ぐらいの距離であれば、わざわざ車を運転するよりもウィルに乗ったほうが早そうだし、安定して走行できるし。日常的に生活する圏内で活用するのは便利そうですよね。でも…… 金額的にはどうなんですか?
販売価格は、フラッグシップモデルのC2が48万7000円。世の中にある電動車いすと同じくらいの価格です。さらに別のモデルは25万円程度で販売していて、一般的な電動車いすと比べるとかなりお手軽です。さらに介護保険レンタルができるモデルについては、月額約2700円でレンタルできます。
一番高額なモデルでも、50万円以内! 正直、思っていたよりも現実的な価格で驚きました。ちょっとしたお出かけをいつまでも楽しんでもらうためにも、自分の親にもいつか買ってあげたいなあ…!

乗る人を美しく見せる、デザインへのこだわり

ウィルといえば、スマートなデザインが目を引くのですが、機体のデザイン性というのは、創業当初から注力されていたポイントなのでしょうか?
そうですね。弊社の代表はもともと日産のプロダクトデザイナーだったというのもあって、デザイン性にはこだわって大切に設計しています。やっぱり乗る人が明るい気持ちになるとか、もっと乗りたくなるということを突き詰めたときに、機能性だけではダメで、見た目のかっこよさもすごく重要なポイントなんです

もちろんそれは機体のビジュアルが単体で良いということではなく、乗っている人を美しく見せられるとか、利用者をちゃんと引き立たせて悪目立ちをしないとか。
なるほど。悪目立ちしないというのも大事なんですね。
具体的に言うと、まず簡単な形状の組み合わせであること。ウィルの機体は、丸や三角、四角など、それぞれがシンプルな形状の組み合わせになっています。

あとはシートのところ。弊社ではゴーゴーラインと呼んでいるのですが、普通の椅子や車いすは真横になっていると思うんです。だけどそうすると、ただ椅子に座ってるだけで、前に進んでいる感じがしません。そこで、あえて斜めのラインを設けることで、利用者は自分が能動的に前に向かっているような、そんな動きのあるデザインを心掛けてます。
この辺りは利用者の方の声から開発に至っているんですか?
そうですね。もともとは Model C2 があったのですが、利用者の方から「さらに軽くて折りたためるものが欲しい」ということで Model F が生まれ、さらに歩行困難な方に限らず「もっと日常的にカジュアルに乗り物として乗れるようなものがほしい」という声から、歩道を走れるスクータータイプとしてハンドル型の Model S が誕生しました。

歩道を走れるスクータータイプとしてハンドル型の Model S

ハンドル型の Model S は、自転車に乗ってたような感覚で乗れるんですよね。
はい。自転車に乗るのがちょっと怖くなってきた、というお客さまに選ばれています。ハンドルがついていますが、これらもすべて道路交通法上は ”電動車いす” の規格。時速6キロ以下で歩道を走れます。もちろんヘルメットも不要ですよ。

百聞は一乗にしかず! WHILL社の近距離モビリティに乗ってみた

今回インタビューをさせていただいた私も「Model C2」を試乗させてもらいました! コンパクトな見た目ですが、実際に乗ってみるとしっかりと安定感もあります。

「Model C2」を試乗

多機能な操作パネルなどがあるわけではなく、手元はシンプルなボタンとハンドルだけ。 ボタンを押すと、4段階で走行スピードを選ぶことができます。

「Model C2」を試乗

その下にあるのは、360度ぐるりと方向を変えられるハンドル。上下左右に倒すことで、行きたい方向にスーッと、なめらかに進んで行きます。

「Model C2」を試乗

走り出しが本当にスムーズですね! 一定のスピードで走行するから怖い感じもないし、なにより操作がシンプルなので、初めての人でも簡単に使いこなせそうです。
そうですね。ウィルの特徴として、その場でくるっと回転することができるので、人がたくさん歩いているような場所でも周りにぶつかることなく方向転換ができます。
実際に乗ってみるとよくわかるんですけど、なめらかにぐるっとカーブするんじゃなくて、一度止まって、その場で方向転換して真横に進むことができるんですよね。これ… すごい! これまでのどんな乗り物でも体験したことがない動きなので、すごく新鮮です。
これはウィルが独自に開発した「オムニホイール(全方位タイヤ)」が実現しているものです。もともとは電動台車やロボットの駆動輪として使われるものなのですが、5年間かけて改良してきました。大小10個の車輪を組み合わせているので、振動を減らしつつ、お店の入り口や歩道と車道の間にある小さな段差もラクラク乗り越えることができるんですよ。

「Model C2」を試乗 WHILL Model C2 提供写真

実際に試乗してみて、みんなまずは乗ってみてほしい〜!という気持ちが増しました。想像以上に操作が簡単で驚きです。シニアの方も、初めて乗車する方も、安心安全に走行できそうですね。

すべての人の移動を楽しくスマートに。施設でのレンタル事業と自動運転モデルへの想い

さらに2019年には自動運転モデルも発表されていますが、こちらはどういった経緯で開発がスタートしたのでしょうか?
私たちが目指す「シームレスにどこでも快適に移動できる社会」を実現する上で、ユーザーが操作しなくても行きたいところに自動的に運ぶという発想は自然なかたちで生まれました。自動運転モデルは、いま国内外の空港や病院などで導入されています。

WHILL社が目指すのは、すべての人の移動を楽しくスマートにすることです。機体を所有している人だけが使うものではなくて、あらゆる人たちが、それぞれ行った先々で気軽に活用できる移動インフラとして、エレベーターやエスカレーターを使うのと同じ感覚で活用してもらえたら嬉しいなと思っています。

菅野絵礼奈(かんの・えれな)氏|WHILL株式会社 マーケティング・コミュニケーション部 部長

エレベーターやエスカレーター! 確かに移動をラクにするという点で、全く同じ役割をもっていますよね。そもそも広い商業施設だと目的地までの行き方がわからなくて迷うこともありますが、自動運転モデルなら、初めて行った施設でも行きたい場所に間違いなく連れて行ってくれる安心感があるような…。

それに、誰かを乗せたあとに自動で元の場所に戻したりと、レンタルをする施設側としても管理しやすいイメージがあります。
そうですね。こちらは施設側の管理画面なんですが、今それぞれの機体がどこにあるか把握できたり、アプリを通して利用者に電話をかけたりすることもできるんですよ。利用者の満足度をあげながら、同時に現場の人手不足も解決してくれる、頼もしいツールです。

WHILL管理用アプリ

最近では、東京ディズニーリゾート®・オフィシャルホテルのグランドニッコー東京ベイ 舞浜などでもウィルのレンタルが開始されましたよね。特に家族3世代で訪れるような施設では、おじいちゃんおばあちゃんはお孫さんとずっと一緒に行動できなかったりすることも多いですよね。
ウィルがあることで、3世代ですごく楽しめたとか、疲れないので長く滞在できたとか、そういった声が挙がるのは嬉しいですね。外出した先でみんなに迷惑をかけてしまうかも… なんて考えると、外出自体を避けるようになってしまうので、ウィルのレンタルサービスがみんなのお出かけを後押ししてくれたらいいなあと思っています。
施設の中でウィルに乗っている人を見かけたら「私もあれ乗りたい!」って、インフォメーションセンターに駆けつけてしまいそうです(笑)。こういうサービスがあるからまたこの施設に行きたい! となれば、利用者数の増加に繋がりますし、施設側としても非常に嬉しいですよね。

エレベーターやエスカレーターのようなインフラにしていくには、やっぱり全体としての台数が多いこと、そして利用している人を当たり前のように見かけるというのは大事なんだと感じました。

ライター田中伶

免許返納前後の新たな選択肢に。ウィルを通して目指す世界

最後に、菅野さんがWHILL社で働いていて「人と技術をつないでいる」と感じられた瞬間があれば教えていただけますか。
「人と技術をつなぐ」というのは、まさにウィルの製品そのものかもしれません。技術者たちの長年の技術の結晶である製品が、利用者やその家族の生活までもつないでいると思います。

IoTのセンサーが付いた機体にはいわゆる見守りのような機能があって、アプリを通じて、ウィルに乗ってどこへ外出したかが遠隔で分かるんです

ウィルを購入した方のためのアプリ画面。転倒を感知した際は家族に通知される

またウィルを購入したりレンタルした方に「WHILL ID」を発行して、IDを通じて機体のメンテナンスのお知らせを送ったり、購入後も快適なウィルライフを送っていただけるような仕組みを整えています。そしてゆくゆくは、外出先の施設でのレンタルをより簡易的にできるようにするといった、便利に使うためのシステムを構築したいと考えています。そうやって、自分と家族、そして今後は自宅とさまざまな場所をつなげていくことができればいいなと。

それは楽しみですね。歩行困難な方にとっても、その家族にとっても、そして多様な人々が利用する施設の方にとっても、ウィルが頼もしいツールになりそうです。
そうですね。実際、現在115社の自動車ディーラーさんでウィルを取り扱っていただいているんですが、免許を返納したあとの移動手段としてウィルをご提案いただいているんです。だけど色々データを見てみると、実は免許返納前から、自転車の代わりにウィルを使うという方も多くいらっしゃることも分かっています。

「長距離の移動をするなら車だけど、徒歩圏内であればウィルが便利」ということをもっと打ち出していって、これからも車とウィルが共存できることをアピールしていけたらと思っています。
たしかに! 自動車ディーラーにとっても、ウィルのおかげでお客様との新しい接点ができるわけで、ビジネスチャンスでもありますね。

機能・デザインともに、世の中の「こんなの欲しかった」という声をまっすぐに捉えて生まれたのがウィルなんだということがよく分かりました。今日はありがとうございました!

すべての人の移動を楽しくスマートに。 気軽で身近な近距離モビリティ「WHILL(ウィル)」が目指す世界

関連リンク

・近距離モビリティ「ウィル」 https://whill.inc/jp/

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。