2018年1月25日
エストニアで2014年に可決した「電子居住権(E-レジデンシー)」。実際にこの権利を取得したアステリア社員にその具体的な背景や期待できる展開について聞いてみました。
こんにちは!in.LIVE編集部です。
突然ですが、ロシアとヨーロッパの間に位置する国、エストニアが、世界で初めてとなる世界で初めての「電子居住者」の受け入れをしているのをご存知でしょうか?
積極的な電子化を進めているエストニアでは、2014年に「電子居住権(E-レジデンシー)」法案が可決。国籍を問わず誰でも申請することができ、電子居住権を取得すれば、現地に法人を開設したり、銀行口座の開設や納税をオンラインで行えるのだそう。
エストニアはEU加盟国でもあるため、この電子居住権を得て現地法人を立ち上げれば、EU市場にもアプローチができるというわけで、諸外国からすれば画期的な仕組みですよね。
医療現場での電子カルテ制度や、学校の教育現場の身近なところはもちろん、インターネット投票、内閣の閣議のシステム化など政治的な局面においても電子化が進むエストニア。こうした様々な取り組みは、政府の運営する専用サイトでも確認することができます。
安倍首相も取得したというこのエストニアの「電子居住権」。
in.LIVEを運営するアステリア株式会社でブロックチェーン事業推進室の副室長を務める森も、この電子居住権を取得した一人ということで、今回具体的に話を聞いてみました。
森 一弥(もりかずや)
アステリア株式会社 ブロックチェーン事業推進室 室長 ストラテジスト。2012年よりアステリア勤務。2017年3月までは主力製品「ASTERIA WARP」のシニアプロダクトマネージャーとしてデータ連携製品の普及に務め、特に新技術との連携に力を入れる。 2017年4月より新設されたブロックチェーン事業推進室にて実証実験やコンサルティングなどを実施。またブロックチェーン推進協会(BCCC)では技術応用部会を立ち上げ、技術者へブロックチェーンアプリケーションの作り方を啓蒙している。
アステリア株式会社 ブロックチェーン事業推進室 副室長 ストラテジスト
私はアステリアのブロックチェーン事業推進室で、日々ブロックチェーンを使った様々な実証実験やコンサルティングを業務として行っているので、以前から様々な行政サービスがカード一枚で完結するエストニアの電子政府化の取り組みには注目していたんです。
エストニア発の企業といえばスカイプなどが有名ですが、それ以外にも、ブロックチェーン業界では、大規模に分散されたデータの改ざんをリアルタイムに検知できる(※)「ガードタイム」もエストニア生まれとして知られています。
※日本経済新聞出版社「ブロックチェーンの未来」より引用
これまでも個人的に、生産地の情報などがブロックチェーン上に書き込まれた農作物を購入しに行ってみたり、様々な仮想通貨を使ったサービスを作ったり、製品ブログ「つないでみた」シリーズでプライベートブロックチェーンとの実証実験をしてみたりと、ブロックチェーンまわりの技術の流れを身をもって体験することを意識して実践してきました。
今回の電子居住権も、100ユーロの手続料で誰でも簡単に申請できると知って、すぐに審査に申請しましたよ。
報道もされているとおり、現地法人が設立できるというのが一番大きなメリットではないでしょうか。EU市場にアクセスができるということで、今はEU離脱を発表したイギリスの起業家たちもこぞって申請をしていると聞きました。こうした国の方針を通じて、これまでエストニアの名前も知らなかったような世界中の人たちが居住権を取得しに来ているのも、国のPRという観点からみても面白いですよね。
私自身は、教科書で学んだだけのことを語るのは嫌なので(笑) 具体的なメリットなどはあまり考えず、まずは純粋に、自分が当事者として体験してみようと思って申請しました。
手続きはすべてオンラインで、名前や住所などと、電子居住権に申請する簡単な目的などを入力するだけです。クレジットカードで100ユーロ(約14,000円)を支払えば、審査が始まります。
一ヶ月ほど経って審査終了のお知らせが届きました。 電子居住者のIDカードは、エストニア大使館に取りに行くことになっていて、私も実際に受取りに行ってきました。
実際に受け取った証明はこんなセットです。 USBカードリーダーもついていて、IDカードから直接データを確認することもできます。
現時点でEU市場で何かサービスをするという予定はありませんが、こうして行政サービスでこんなことまでできるんだ!というのが分かると、今後のアイデアも広がるかなと思います。
今日本では、最新の技術を使って地方創生などの施策をしようとすると「地域通貨」などのソリューションに偏りがちですよね。エストニアは人口が130万人と日本の沖縄県よりも少ない中、国の経済を活性化させようと国外からの参入を図った試みはすごく面白いなと思っていました。こんな風にもっと色々な選択肢があると分かれば、もっとアイデアも広がりますね。
現在は電子居住者には、現地での法人設立と銀行口座の開設という権利がありますが、居住権や選挙での投票権というのはありません。もっと国外からも出来ることが今後増えるのかもしれないので、楽しみですね。
これもやはりブロックチェーンのことですが、世間の関心を集めているのはビットコイン絡みなので、例えば過去にアステリアでも実施した株主投票でのブロックチェーンの活用や、ブロックチェーンを利用した電子契約書など、これからもっと増えるであろう使いみちに興味があります。
ブロックチェーン技術というのはあくまで基盤技術でしかないので、そのデータベースをどうした分野で使うか、また利用者側に「ブロックチェーンを使う」ことをいかに感じさせないかということも探っていきたいです。アステリアの強みは「つなぐ」ことなので、例えばIoTのデータをブロックチェーンに書き込んだり、ブロックチェーン×IoTの分野での可能性も事業の芽になっていくのではないかと思っています。
そうです。アステリア社長の平野が代表を務める「ブロックチェーン推進協会(BCCC)」では、2018年1月22日に「技術応用部会」という部会が開設されました。
BCCCの目的であるブロックチェーンの普及に向けて、ただ知識を学ぶだけではなく、実際に使ってみる・触ってみるということを目的としています。部会長として、こうした国外での事例などにもアンテナを張って、実際に身をもって体験しながら実用化を探っていきたいですね。