2018年4月3日
SNSに投稿された情報を元に、事故や火災など今どこで何が起きているかをリアルタイムに配信する「SNS速報サービス」。新聞社やテレビ局の多くの記者が利用するSpecteeのサービスについて、その裏で動いている技術やデマを判別する仕組みについてお話を伺ってきました。
こんにちは!in.LIVE編集部です。
最近、ニュースで「視聴者提供映像」というものを見る機会が増えたと思いませんか?
実はこれ、裏で動いているのはSNS上の情報を元にした速報サービス。株式会社Spectee(スペクティ)が提供するSNS上の情報を元にした速報サービスは、現在、新聞社やテレビ局など約130社が利用しているのだそう。でもこの速報サービスって一体、どんなものなのでしょうか?
株式会社Specteeの村上建冶郎社長にお話しをお伺いしました。
株式会社Spectee 代表取締役
村上 建冶郎(むらかみ・けんじろう)さん
1974年 東京都生まれ
米国 ネバダ大学 理学部 物理学科卒
早稲田大学大学院商学研究科 修了 MBA
エー・アイ・アイ株式会社(ソニー子会社)にて、オンライン・デジタルコンテンツの事業開発などを担当、2005年 米Charles River Laboratories入社、日本企業向けマーケティング等を担当、2007年 シスコシステムズ入社、チャネル・サービス・ディベロップメント・マネージャー等、2011年 同社を退社し独立。
――早速なんですが… 「SNS速報」って、そもそもどんなサービスなんですか?
実際に見てもらった方が早いかもしれません。これが弊社のサービス画面なんですが、SNSに投稿された情報を元に、事故や火災など、今どこで何が起きているかを24時間リアルタイムに配信しています。
情報ソースはTwitter、インスタグラム、フェイスブックで、投稿された動画や画像、テキストを拾い上げて、案件ごとに整理して表示しています。投稿者が投稿してから約1~2分で、「○○で火災が発生」といった形でスペクティに情報が表示されます。
これを元に、報道機関は取材ができるので、ニュースを見つけるまでの時間と手間を削減できるんです。
と、村上さんの説明中に、”ピロリロン♪” とアラート音が鳴り、「スペクティ 第9報 大阪府USJで、ジェットコースターが客を乗せたまま頂上で止まる」という速報をAIアナウンサーが読み上げる声が!
――おお~!まさにこれですね。
こんな感じで、速報が来ると自動的にAIアナウンサーが読み上げてくれるようになっているんです。同じ案件はまとめて、追加の投稿が入れば第○報……というように新しい情報を表示していく仕組みですね。この情報を元に、報道機関はカメラマンを現場に出したりヘリを飛ばしたりでき、いち早く情報を届けられます。
――実は私、報道記者出身なんですが、以前は火事や事故の場合、記者が発生を知るためには、警察や消防に「何か起きてないですか?」と定時で電話取材をしたり、警察や消防からの広報文を確認したり、といったタイムロスがあったと思うんです。スペクティがあれば、報道機関が発生に気づくタイミングがぐっと早くなりますね。
そうですね、街中にメディアへの「通報者」がいるイメージです。警察や消防に通報するよりも先に、SNS上の情報がアップされることも多いので、警察がまだ来ていない段階でメディアが現場に到着することもあるんですよ。
また、このサービスを経由して、メディアが視聴者にコンタクトを取って取材し、ニュースや新聞で画像や映像を使用する機会も増えてきました。よくニュースで「視聴者提供画像」を見ると思うのですが、その多くが弊社のサービスを経由しているものなんです。
――そうなんですか!
確かにここ数年で、ニュースで「視聴者提供映像」を見る機会が増えたのは、そんな理由があったんですね。実際に、SNS上からどんなふうに情報を拾っているんでしょうか。
ディープラーニングを使ってSNS上の映像や画像を学習し、そこからどんなことが起きているのかをAIが判断し、案件ごとにまとめて表示しています。弊社は画像解析の特許を持っていて、例えば「たき火」と「火事」の画像もAIで判別できるんです。
あとは、画像に看板や標識などが写っていたら、そこから文字を識別し、場所も特定できるようになっています。画像上の文字が不鮮明でも、AIが識別できるレベルにまで鮮明化できる技術も開発しました。
――すごい……!
村上さんは、なぜこのようなサービスを始めようと思ったんですか?
2011年の東日本大震災がきっかけでした。
当時、テレビや新聞では、現場の情報が中々分からず、むしろSNSで現地の人のつぶやきを見ている方がリアルに現状が把握できました。そこで、SNS上の情報をうまく整理して、メディアとして伝えられたら有用なんじゃないか、と思ったんです。
最初はSNS上の情報から地域情報などを配信する一般ユーザー向けのアプリをリリースしたのですが、展示会などで記者の方から「実は使っています」と声を掛けられる機会が増えてきて、現在のような報道支援ツールの形に変わっていきました。
――なるほど。ただ、SNS上の情報で気になるのはデマですよね。
2016年の熊本震災の時も、「動物園からライオンが逃げた」「ショッピングモールが燃えている」といったデマ情報が流れました。ああいったデマは、識別できるのでしょうか?
そうですね。デマ情報は本当にたくさんあって……。
実はスペクティには嘘を判別するアルゴリズムがあり、写真が加工されている場合は、実は結構簡単に分かるんです。投稿者の過去の投稿を解析することでも、時間や場所が明らかに矛盾している場合は嘘だと判別できます。ただ、見破るのがすごく難しい例もあるので、過去のデマ情報をデータベース化したり、頻繁にデマを流す人をブラックリスト化したりして、判別の制度を高めていますね。
先ほどの熊本震災の例で言えば、「ライオンが逃げた」というデマは、投稿された画像が実は海外のサイトからの「拾い画像」で解像度が低く、自動的にデマだと判別できました。ただ、「ショッピングモールが燃えた」の方の画像はかなりリアルで、AIは嘘を見抜けませんでした。
ただ、これもその後AIに学習にさせ、判別の制度を高めていますので、今はあまりそういったことはないですね。
――嘘を判別するアルゴリズムですか!面白いですね。
ちょっと意地悪な質問かもしれないんですが……、SNS上にはデマだけでなく、本人は「正しい」と思って投稿したけれど実は間違っていたという「勘違い」情報もあると思うのですが、これはAIで見抜けるのでしょうか。
実は、明らかなウソ情報は大体見抜けるんですが、本人の思い込みや勘違いで投稿された場合は判別が難しい場合もあるんです。例えば、スペクティでは、事故だけでなく、SNS上で話題になっていて、ニュース性が高いと思われる情報も掲載しているんですが、以前ここで貸衣装会社「はれのひ」の話題が上りました。
成人式当日の朝「事務所が真っ暗で、もぬけのから」などと明りの消えた店舗写真の投稿があり、スペクティ上でも配信しました。ただ、その後確認すると、実は投稿者の勘違いで、写真に写っていたのは「はれのひ」の店舗ではなく、別の場所だったんです。
投稿した人は「ここが店舗だ」と思いこんでいたし、嘘をついている要素が一切ないため、AIでは見抜けなかったんですね。ごくごくまれですが、そんなケースもあります。ただ、こういった勘違いの場合も見抜くことができないか、解析を進めています。
――投稿者の勘違いまで見抜けるようになったら…と考えると、すごいですね。自分自身が勘違いで投稿してしまうことがないように、すべてのSNSに搭載してほしいぐらい(笑)。ちなみにスペクティのようなサービスは、海外にもあるんですか?
そうですね。アメリカはかなり進んでいます。ただ、我々のサービスの方がノイズが少なく、報道機関の意見を取り入れて細かくチューニングしているので、情報の精度はなかなり違いますよ。
利用者である報道機関の意見を取り入れて開発したものの一つが、AIアナウンサーの「荒木ゆい」です。 元々は「ずっと画面に張り付いていないといけないのは不便」という報道側の声から生まれたサービスなのですが、より自然な読み上げ方にこだわりました。
――先ほど速報を読み上げてくれたAIですね!ぱっと聞く限りでは、人間が読んでいるのかと思ってしまいそうなほど流暢でした。
日本で開発されているAIを使った読み上げでは、一番スムーズに読めると思いますよ!
開発では、アナウンサーがニュースを読み上げる音声を機械学習させ、より伝わりやすい読み方を習得させました。今では長文もスムーズに読めるんです。
――ちなみに……「荒木ゆい」って、何か名前の由来があるんですか?
ええと、「荒木」は、弊社のある荒木町から取りました。「ゆい」は……、新垣結衣さんと一字違い、ということで(笑)
――なんと、ガッキーから(笑)!
細かい設定も色々あって、現在27歳で、キー局を退社した後に独立し、現在はフリーアナウンサーとして頑張っています(笑)。実際に、ラジオ番組などに声の出演を果たしたこともあります。
――今後の活躍が楽しみですね!
最後に、今後どんな姿を目指していくのか、ビジョンをお聞かせいただけますか。
私たちは、我々自身がメディアになろうという考えはなくて、メディアを運営する方のプラットフォームをつくりたいと思います。それも、単純にSNSから情報を拾って並べるだけでなく、アウトプットまで意識し、メディア側がコンテンツをつくるのに必要なものがすべてそろっているというものをつくりたいですね。
弊社では、AIが自動的に記事を生成する技術もリリースしていますので、あとは背景やけが人の有無など、取材でしか得られない情報を足せばすぐに記事として出せるような状態にすれば、メディアをつくる作業はすごく楽になりますよね。コンテンツをつくるのには、膨大な時間と手間がかかり、メディアの現場は長時間労働になりがちなので……。
ルーチンで決まっている仕事はAIに任せて、記者がより深い取材に時間がかけられるようになれば、よりよいコンテンツにもつながると思います。
――報道の在り方も大きく変わっていきそうですね。本日はありがとうございました!
以上、いかがでしたか?
テレビでよく見かける「視聴者提供映像」。その裏側を聞いてみると、非常に高性能な技術の活用と、今後の報道の在り方も変わるような進化がありました。報道という正確性やスピードが求められる現場において、こうした最先端の技術が積極的に活用されていること、意外と知らない方も多かったのではないでしょうか。
メディアに関わる人にとって「こんなものがあれば!」と思うようなサービスを次々と生み出していた株式会社Spectee、今後の報道現場はもちろん、記者の働き方をも変えてくれそうです。
最後まで読んでいただき、有難うございました!