2020年3月4日

テクノロジーの力で保育施設を社会インフラに。ユニファが目指す、新しい保育園のかたち

「ルクミーフォト」「ルクミー午睡チェック」や次世代型保育園「スマート保育園」など、保育園に特化したサービスを展開する、ユニファ株式会社。同社がテクノロジーを通じて保育業界に生み出した価値とは。その成果とビジョンに迫ります。


こんにちは。ライターの香川です。
今回のテーマは、保育園×テクノロジー。思い返せば、保育園には我が息子も生後4か月からお世話になりました。手のひらサイズの連絡帳にびっしり書き込まれた日々のスケジュール、ご飯の量、午睡時間、成長の様子が書き留められたコメント。温まりあふれる何冊もの連絡帳は、わたしの一生の宝物です。しかし、それらが手元に届くまでには保育士さんの並々ならぬ苦労があることまで思い及ばずにいたあの頃。

今回の取材は、お世話になった保育士さんに改めて感謝の念を持つとともに、ユニファのつくる “新しい” 保育園が、それらの苦労を過去のものに変えてくれる確信と大きな期待を抱きました。代表取締役CEO土岐泰之さんに、話を伺います。

ユニファ株式会社 代表取締役CEO 土岐泰之(とき・やすゆき) さん

1980年生まれ。九州大学経済学部卒。2003年、住友商事株式会社入社。リテール・ネット領域におけるスタートアップへの投資及び事業開発支援に従事。その後、外資系戦略コンサルティングファーム ローランド・ベルガー、日経コンサルティングファーム デロイトトーマツコンサルティングにて、経営戦略・組織戦略の策定及び実行支援に関与。そして、二児の父として自身の「共働きの中での育児の大変さ、子育て環境を支えるサービスに必要性を痛感」した経験を基に、2013年5月、ユニファ株式会社を設立。全世界から1万社以上が参加した第一回スタートアップ・ワールドカップ(2017年)で初代優勝を果たす。

保育の現場には、50年前から変わらないプロセスが生きていた

今日はよろしくお願いします! 保育業界とテクノロジーとは、非常にユニークな組み合わせですよね。御社は創業の2013年当時から、この領域で事業をされていますが、まずはそのきっかけからお聞かせください。
キャリアと家族の両立に迷ってきた時代があるのですが、悩んだ結果として、家族を軸としたキャリアを築くことを決意しました。また、私の姉が保育士をしており、自分の子どもたちも保育園に通っていたという環境から保育士さんの仕事を目や耳にする機会は多く、「ずいぶんアナログな世界だなあ」とは常々感じていました。

そして、私も毎日のように自分の子の連絡帳を書いたり送迎したり、大変だと思いながらやっていましたが、もっと大変なのは保育士さん。写真販売一つをとっても、非常に手間のかかることをされているんですよ。撮影した写真をプリントサービスに持ち込んで、出力した写真を玄関の壁に見本として展示する。その後には、保護者から渡された代金を集計して注文する業務もあるわけです。こういった仕事の仕方は、下手したら50年前から変わっていないんじゃないか、くらいに思っていました。

わたしが子どもの頃もそういう仕組みだったように思います。
一方、保育士さんって年度途中に退職される方が多いんです。顔を合わせてもあまり笑顔を見せない先生もいたりして。待機児童問題や保育士不足がいまほど騒がれていない頃の話です。保育園に子どもを通わせている親の視点として、業務の構造やそのプロセスにも課題があるのでは、と思っていました。 

保育士の仕事は、価値のある尊いものです。自分の子どもを見ていても、本当に一緒になって育てていただいた、と大きなご恩を感じてもいました。この世界にテクノロジーを加え、人間がやるべきこと、事務作業等の機械に任せられることをしっかりすみ分けできれば、保育の現場は格段と良くなるはず。そう思い立ったことが起業のきっかけになりました。

顧客とは誰のことか。気付きを生んだ「ルクミーフォト」誕生秘話

会社を立ち上げて、まず最初に手がけたのが、子どもの写真や動画をオンライン購入できるフォトサービス「ルクミーフォト」ですよね。開発にいたるまでの経緯を教えてください。

そのころは、子育てをするうえで家族ともにいろいろな苦労をしてきたので、家族みんなが集まれる場所をつくりたいと思いました。そこで、子どもの写真をおじいちゃんやおばあちゃんと共有するサービスにしようと動き始めたのですが、途中で親世代が写真を撮って載せることを負担に感じ、疲弊するようでは本末転倒になる、と気づきました。

そこで、パパママですら見たくても見られない子どもの姿が見られるコンテンツはどうだろう、と考え直したんです。
両親ですら見られない子どもの姿、ですか。
そうです。たとえば、今日は保育園で誰と遊んだのか、何をして過ごしたのか。これらが毎日のように垣間見られると喜ばれるんじゃないか、と。

私も子どもに「今日何して遊んだ?」って聞いても、笑顔で「忘れた~」って言われることがしょっちゅうありまして。でも、当然ですよね。2、3才の子どもに説明を求めるほうに無理があります。このように親子であっても離れて過ごした時間をコミュニケーションで埋めるのは難しい。そのときに1枚でも写真があれば、そこから話が広がり、家族のコミュニケーションが豊かになると思いました。そして、このサービスは、写真を壁張りして集計注文するといった保育士の工数のかかるアナログな作業の負担を軽減できるのでは、と気づいたのです。
その土岐さんの気づきが「ルクミーフォト」には随所に盛り込まれているんですよね。
保育の現場は、新しい仕事を加えることが基本的に難しい。むしろ、今ある仕事をどれだけ引き算してあげられるのかが大きなポイントです。そこで当社は、写真の撮影から販売までを一貫してデジタルにシフトさせました。

これまでは、保育士がデジカメで撮影した写真をSDカードからパソコンに移し、ネットにアップロードして園児ごとに選別していました。一方、ルクミーフォトはiPod touchに搭載したアプリを介して撮影すれば、写真がクラウド上に自動にアップロードされていきます。さらにアップロードされた写真は、AIが子どもの顔を認識し、保護者のマイページに自動表示されるようになっています。つまり、保育士の仕事は撮ることが中心になる。
お話を伺うだけでも、あらゆる工数がカットされたことがよく分かります。
これによって技術的にもできることが増えたので、次は写真の引き伸ばしができる等、付加サービスに着手しました。ただ、一部の保護者からは喜ばれたのですが、保育園側の関心は大きくなかった。それもそのはず、保育園が重視しているのは、山盛りにある現場の仕事がどれだけ楽になるのか、ですから。

私自身も保育の現場を体験してみましたが、こんなにも大変なことを毎日やっているんだ、と身にしみて感じました。これらあらゆる経験から、私たちがいま一番幸せにしなきゃいけないお客さんは、保護者でも子どもでもなく、現場の保育士だと明確に気づきました。現場で本当に喜ばれるプロダクトをつくろうと決意を新たにしました。

「ルクミー午睡チェック」が保育の効率と質を同時に変えた

その後生まれたのが、乳幼児の安全なお昼寝を見守る、医療機器によるヘルスケアサービス「ルクミー午睡チェック」です。こちらはどういうプロダクトですか。
子どもの体動を観測できるセンサーです。このセンサーはBluetoothでタブレット端末とつながっているので、お昼寝前に園児の衣類に付けておくと、5分おきに一人ひとりの体の向きや体動のデータを取得でき、それがタブレット端末のチェックシートに自動的に反映される仕組みです。

乳児のうちはうつぶせ寝による死亡リスクが非常に高いですが、うつぶせ状態が続いたり体動が止まったりすると、アラートが出るようにもなっています。

牛乳びんのふたを少し大きくしたくらいの、こんなにも小さくて軽い装置が重要な役割を果たしているんですね。開発に至ったきっかけを教えてください。

保育士はお昼寝時間になると年齢にもよりますが5分おきに「午睡チェック」なるものをしなきゃならないんですよ。これは、園児一人ひとりの体の向きを目視し、その結果を矢印でシートに記入する作業なんですが、私はこれを見たときに衝撃を受けまして。

連絡帳も大変だと思っていましたが、これはもう苦行の域です。これこそアップデートすべき過去の遺産と感じました。
お昼寝中の静まった空間に保育士さんが小さなテーブルを持ち込んで、連絡帳をせっせと書いている光景をよく覚えています。

そうです、そうです。5分おきにシートに書き込まなければいけないので、連絡帳と並行して対応したりもするんですよね。保育士さんはお昼ご飯を食べる時間もしっかり取れなかったりもします。
土岐さんは、はじめからこの形を想定されていたんですか。
最初はベッドの脚にセンサーを付けて、体動が止まったらアラームが鳴るようなものをイメージしていました。このときは、手書きの書類を無くすことよりもリスクを無くすことを考えていました。ですが、途中で都内の保育園の多くが、ベッドよりもマットを使っていることに気づいたんです。しかし、マットは体動は分かるものの体重移動の感知が難しく、構造的に体の向きが取れないんですね。そうなると手書きの書類を無くすことはできません。だったら、直接園児に装着できる形が良いんじゃないかと考え直しました。

ゼロから作ると時間もお金もかかります。既存プロダクトで使えるものが無いか調査していたら、アメリカの会社が私たちのイメージに近いものをすでに展開していました。さっそくコンタクトを取って条件を詰め、開発に着手しました。
6,250施設35万人(2019年9月末現在)の園児に導入されていると聞きます。保育士さんの反応はいかがですか。
医療機器としてご案内していることもあり、「意外に小さいし、ゴツくないですね」「これなら乳幼児につけても安心ですね」という反応は多いですね。
ルクミー午睡チェックによって、保育士さんの負担はどのくらい削減されたのでしょう。
2時間の午睡中に5分おきのチェックが発生していたぶんを削減できたとして、0才児担当の保育士で月当たり5~10時間は、他の業務に充てられるようになったのではないでしょうか。 やはり、テクノロジーによって業務が楽になるだけでも、安全安心になるだけでもダメ。ルクミー午睡チェックのヒットの要因は、保育の効率性と質の向上を同時に実現できたところだと思います。

ユニファの新たな挑戦。「スマート保育園」で、保育施設を社会インフラに

さて、土岐さんは、2017年に開催された世界最大級のスタートアップ・ピッチコンテストイベント「スタートアップワールドカップ」で、見事初代優勝を果たされました。inLIVEでも優勝記者会見の模様をレポートさせていただいています。優勝後に大きく変わったことってありましたか。

一番は、海外の投資家から声をかけていただけるようになり、資金調達の選択肢が広がったことです。加えて、現在、当社のエンジニアは3割が外国人なのですが、それぞれアメリカやイギリス、インド、バングラデシュ等から10を超える国から、東京に移り住んで働いてくれています。

彼らに当社の可能性を示す際、スタートアップワールドカップで優勝し、グローバルで評価されていることを話せた点は、非常に有用でした。このように優秀なエンジニアを採用でき、離職がほとんど無いことを踏まえると、採用面の大きな後ろ盾になっていると感じます。
御社のその可能性をますます感じられる施策が、「スマート保育園」構想です。今年1月にはモデル園の募集を全国で開始されました。プレスリリースには、“保育現場が抱える各課題に対してAIやIoTなどの最新テクノロジーを活用したサービスを導入”“保育士の「心」と「時間」にゆとりをもたらし(中略)保育の質の向上を推進する”とあります。

スマート保育園の普及は、「子どもが好きだから」に代表される、保育士さんが保育士を目指す動機と、よりリンクした働き方が実現しやすくなるのではないでしょうか。保育士を目指す人も増えそうですよね。

我々は、保育士が普通に頑張ればもっと感謝され、もっとやりがいの生まれる仕組みを、テクノロジーの力で実現したいと考えています。 現在、若手保育士の離職率は15%を超えてきています。これは、若手看護師の2倍近い離職率と言われて、その理由として、①長時間労働、②安全安心に対する不安、③人間関係――の三つが大きく考えられます。

ですが、これらは、私たちのサービスを使うことで解消につながります。たとえば、ICTサービス「キッズリー」は、登園降園の管理、連絡帳の記入、帳票管理といった業務をデータ上で行えるため、事務作業の生産性向上、業務時間の短縮につなげられます。安全安心の面は、「ルクミー午睡チェック」で担保できる部分も大きい。

人間関係の問題も組織診断ツールの導入によって、早期発見、早期対処が可能になります。これらによってユニファが保育士の定着率の向上をバックアップしていきますが、一番大切なのは、本来備わっている仕事へのやりがいです。保育とは本来、子どもたちのみずみずしい成長の瞬間に立ち会いながら、未来をアシストできる仕事のはず。その本質にしっかりつなげることで、まずは離職率の大幅な低減に挑戦したいと思っています。

子どもの可能性を可視化することで、家族の幸せに貢献したい

土岐さんのこの思いは、保育士さんはもちろんのこと、若い共働き世代にとっても心強いメッセージだと感じます。今後の展開をますます楽しみにしつつ、最後にユニファが目指す世界についてお聞かせください。
まず、ユニファのプロダクトがパッケージ化された「スマート保育園」の展開を進めていきます。加えて、「ルクミー午睡チェック」の次の市場として、家庭なども考えています。

保育園を基点に事業ドメインを広げていく、ということですね。
ええ。そういう意味では、保育園で得た情報をコンシューマー向けに活用することも考えていきたいです。たとえば、保育園で図鑑を熱心に見ているお子さんの家庭にその情報を届けたり…。
おお。それは、親の知りえない子どもの世界が、AIによって広がる可能性を示唆していますね。
離乳食、幼児学習をはじめ、子育て世代が必ず通る悩みってありますよね。子どもの月齢・年齢で何をどうすればよいのか。そこには、子どもそれぞれの資質も加味する必要があるでしょう。いろいろな情報があって、そのどれもが良さそうなんだけれど、うちの子には実際どうなんだろう、という分からない部分をデータに基づいてガイドしていくことは、今後一番の価値になると思います。
想像以上にすごい未来が待っている感じがします。
当社の役割は、まだ話すことのできない小さな子どもたちの声を、パパママが拾えるようにデータによって可視化することだと思っています。そして、子育てを支える保育園をはじめ、家庭やそのた子どもたちがかかわるところでの情報を活用していくこともまた目指す未来の一つです。
一つのサービスから広がった枝葉が、有機的につながっていきますね。近い未来に、アッと驚く展開を見せていただけることを心待ちにしています。
今日はありがとうございました!

編集後記

取材前までプロダクト一つひとつに関心を見いだしていたわたしにとって、土岐さんが語る事業のスケールは驚きの連続であると同時に、ビジネスを奥深くまで洞察して考え抜くアントレプレナーシップに大きな刺激をいただきました。

デジタルシフトによってドラスティックに変わろうとしている、保育の現場。数年後、保育士がなりたい職業の上位に入るようになっていたら、日本の未来は明るくなりそうですね。子育て世代を本気でバックアップしていく土岐さん率いるユニファ社、これからも目が離せません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。