2020年10月5日

ビジネスモデル変革の第一歩は見る視点を変えること。『デジタルファースト・ソサエティ』著者の福本勲さんに訊く、これからのDX(後篇)

さまざまな業界で話題となっている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。DXによるビジネスモデルの変革や新型コロナウイルスが与えた影響などについて、株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンターの福本勲さんにお話を伺いました。後編では、企業が生き残るためのエコシステムなどについて語っていただきました。


IT業界だけではなく、さまざまな業界で最近よく聞かれる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。本記事では「DXって何?」というところから更に一歩踏み込んで、”これからのDX” について紐解いていきます。

お話を伺ったのは、書籍『デジタルファースト・ソサエティ – 価値を共創するプラットフォーム・エコシステム』(日刊工業新聞社)の著者でもある、株式会社東芝の福本勲さんです。

前編の記事では、デジタル化が語られるようになった背景やDXによるビジネスモデルの変革についてお伺いしてきました。今回の後編では、昨今の新型コロナウイルスがDXに与えた影響や、最終的な「エコシステム」などについて語っていただきます。

株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
福本 勲(ふくもと・いさお)さん

株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト。中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)。1990年3月早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。
1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともにオウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)正会員となり、エバンジェリストなどをつとめる。その他、複数の団体で委員などをつとめている。

主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+IT(SBクリエイティブ)の『第4次産業革命のビジネス実務論』、Arm Treasure Data PLAZMAの『福本 勲の「プラットフォーム・エコシステム」見聞録』がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。

新型コロナウイルスが与えた影響は、DXの追い風になるか?

株式会社東芝デジタルイノベーションテクノロジーセンターチーフエバンジェリスト福本勲さん

ここ最近、「新型コロナウイルス」が企業に大きな影響を与えています。この現状が企業のDXに与えたインパクトについて、福本さんの考えを教えてください。
新型コロナウイルスの影響は業界によってさまざまですが、製造業においては、時代に合わなくなっていた旧来の制度や業務ルールを根本から見直す良いチャンスだと捉えられる側面もあると思うんです。もちろん、感染拡大そのものは危機ですが、DXに向かうきっかけにしなければなりません。

社会に価値を提供し続ける企業を目指すのであれば、”変わる” ということを選択肢の一つに取り入れることが重要です

これまで、計画どおりのレールからはみ出さずに取り組み続けていたところに、コロナウイルスという予期せぬ環境変化が起きた。働き方だって変えざるを得ない状況になったからこそ、うまくチャンスに代えて乗り越えていくことが大事だと思います。

取材の前半でも「トップと現場のギャップ」という話がありましたが、感染拡大をきっかけに、むしろ現場の人とトップの人たちがオンラインで、これまでよりも気軽に、直接会話できる機会が増えたという話も聞きますよ。
アステリア株式会社コミュニケーション本部 エバンジェリスト松浦 真弓
迅速な意思決定や変化が求められる今だからこそ、企業をつくる人、組織ごと変わるチャンスなのかもしれませんね。確かに、コロナウイルスの影響で、デジタル化のステージが一気に飛躍したというケースも見聞きします。

株式会社東芝デジタルイノベーションテクノロジーセンターチーフエバンジェリスト福本勲さん

私は著書の中で、デジタル化にはステージがあるということも書きました。
1つ目は「自社サービスの高度化・効率化」。そして2つ目は「プラットフォーム化による業界課題の解決」。これはお客様や業界の課題を、フルサービス型で実現するために最適化していくということです。これには業界を横断したプラットフォームやエコシステム(ビジネス生態系)が必須になります。そして3つ目、最後のステップとなるのが「広範囲な社会課題の解決」。これは社会インフラと連携して、社会課題を解決していくということです。

ここの話で重要なのは、ステージを追うごとに「どの立場からものを見るか」が変わっているということなんです。自分の会社から見るのか、お客様の業界から見るのか、それとも社会からものを見るのか… その立ち位置が変わるということは、視点が変わるということです。

コロナ禍で起こったデジタル化は、まだ自社内の手段だけが変わったところかと思います。そういう意味では、多くの企業がステージ1にようやく立てたという状態ではないでしょうか。次のステップアップをどのように実現していくか? というのが次の課題でしょうね。

企業が生き残るための「エコシステム」とは? DXが変える社会

書籍では、最終的なエコシステムの重要性を書かれていましたが、やや壮大なイメージで、なかなか自分ごととして捉えられない人も多いと思います。これはどのように解釈すればよいのでしょうか?
当たり前ですが、自社だけでビジネスが完結しているという企業はなくて、誰もが大なり小なり、エコシステムの中にいます。

これは先ほどお話しした「どの視点でものを見るか」ということにも通じるのですが、お客様視点のサービスを提供していくというのは、自分が売っているモノやサービスだけを見るのではなく、足りない部分をほかのプレイヤーの技術やサービスを組み合わせるということ。ビジネスの提供側が、自ら他者と組んで、エコシステムをつくり、それをお客さまに提供していくことが欠かせません。

株式会社東芝デジタルイノベーションテクノロジーセンターチーフエバンジェリスト福本勲さん

たとえば、「つながる町工場」のように、まずは周辺の仲間を見つけようということですね。とはいえ、自身のビジネスモデルを俯瞰的に見て、参画できるエコシステムを探していくのは難しそうです。
自社ができて他社にはできないこと、また、他社は持っているが自社にはないことを見極めるのが重要です。小さな会社が1社では受けられない案件も、複数の会社がつながればワンストップでソリューションを提案できるようになり、大規模受注ができる体制につながることもありますから。

より大きな視点でのエコシステムになりますが、いま私自身も、ウェブメディア『DiGiTAL CONVENTiON』の編集長を務めています。これも企業のデジタル化における、人や知識、情報が集まる場所を作りたいという想いがあったからこそなんです。色々な人から意見や情報が新たなビジネスの可能性にも繋がります。

こうしたことを企業単位でやるだけではなく、その中にいる人が個々に動くことが大事だと今では考えていますね。
なるほど。企業という単位だけでなく、その企業を構成する「人」に着目するわけですね。その考えが前提にあった上での、書籍の執筆だったのですね。
そうですね。DXやデジタル化というテーマについては、AIやIoTなど手段の話に注目が集まることがほとんどです。しかし一番大事なのは、ビジネスモデルをどうしていくのか? ということ。企業における真の差別化、優位性につながるDXの理解を深めたいという想いで、この本を出版したいと考えました。

DXが進むことで、その対象はいわゆる製造業だけではなく、第一次から第三次までの様々な産業、行政や教育と、社会全体にまで広がると思っています。「デジタルファースト」がもたらす社会を最終的に目指していきたいという気持ちを込めて、書籍には「デジタルファースト・ソサエティ」というタイトルをつけました。多くの人にその想いが届けばと思っています。
DXが社会に良い影響をもたらすというところまで、私たちも貢献していきたいですね。ちなみに、企業活動に関わっていない人たち、たとえば学生や主婦など、一般の人たちがDXの促進に向けてアクションを起こすとしたら、どんなことができるのでしょうか?
そうですね。例えば、日常生活の中で、単純な効率化だけじゃなく「これ、こう解決できたらいいのにな」とか些細なアイデアでも積極的に共有したり、発信したりできると良いかもしれませんね。それがビジネスのタネになる可能性を秘めています。

最近はアイデアソンやピッチコンテストなども増えていますので、そうした一般の方の色々なアイデアに対して企業や自治体が協力してソリューションを提供していくことで、先ほどお話した「エコシステム」の一員になっていけるのではないかと思います。
DXは、もはや企業だけの課題ではなく、社会を構成するみなさん、ひとりひとりが自分ごととして取り組むべき課題だということですね。濃厚なお話を、有難うございました!

編集後記

以上、前篇・後篇にわたって、株式会社東芝デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリストの福本勲さんにお話を伺いました。

自社でいかにDXを推進するか? というのは、今や業界や業種を問わず、多くの企業抱えている課題でもあります。改めて強調すると、福本さんの考える「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の定義は、企業がデータやデジタルテクノロジーを使って、ビジネスモデルを変革し続けていくこと。今回の福本さんのインタビューを通して、ただ単純に今ある業務プロセスをデジタルに移行していくのではなく、自社のビジネスを俯瞰で見たり、利用者の視点で見たり、さまざまな視点を持ちながら「自社がいまどの場所に立っているのか?」を定期的に見つめ直していく必要があるのだと感じました。

福本勲さんの著書『デジタルファースト・ソサエティ – 価値を共創するプラットフォーム・エコシステム』を持った福本さんと松浦

福本勲さんの著書『デジタルファースト・ソサエティ – 価値を共創するプラットフォーム・エコシステム』(日刊工業新聞社)はこちらからもチェックいただけます。興味のある方はぜひお手にとってご覧くださいね。

本記事が、読者の皆さまにとっても「DX」というキーワードをより深いところで捉え、自社のビジネスの発展や、より豊かな生活に繋がっていましたら幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。