2020年1月7日

世界4位の囲碁AIを生んだのは日本企業だった! Googleやテンセントと戦う中小企業が、日本のIT業界に鳴らす警鐘

”なぜ日本企業はAI、ブロックチェーン、IoTを牽引できないのか?” 日本のIT業界のあり方について明確な危機感を示した書籍『テクノロジー・ファースト』(朝日新聞出版)。著者であり、囲碁AIにおいて世界4位の実績を持つ株式会社トリプルアイズ代表の福原智さんに、本書に込めたメッセージの背景について伺いました。


こんにちは! in.LIVE編集長の田中です。 AI、IoT、ブロックチェーンなど、様々なIT技術をめぐる世界中のニュースがメディアを騒がせている昨今ですが、実は「囲碁AI」における国際大会で、GoogleやFacebook、テンセントなどと互角に戦う日本の中小企業があることをご存知でしょうか?

それが、株式会社トリプルアイズ。CEOの福原智さんはもともとフリーのエンジニアであり、コストを恐れず技術の研究開発に取り組むことが、いかに世の中を変えることにつながるか? ということを、実体験を通じて感じてきたと話します。

2018年に出版された著書「テクノロジー・ファースト」では、そうした囲碁AI分野での経験と、日本のIT業界のあり方についてはっきりと警鐘を鳴らした内容がエンジニアたちの間でも話題となりました。 著者の福原さんに、本に込めた力強いメッセージの背景や、囲碁AIにおける今後の挑戦について伺います。

株式会社トリプルアイズCEO福原智さん 株式会社トリプルアイズ 代表取締役 CEO 福原 智(ふくはら・さとし)さん

山形大学理学部物理学科卒。2008年に株式会社トリプルアイズを設立。UEC杯コンピュータ囲碁大会に出場するなど、人工知能の研究開発に取り組むと共に、自社ディープラーニングシステムを応用したユーザー向けシステム開発を推進する。現在はIoTと組み合わせたAIoTサービスプラットフォームを開発中。BCCC(ブロックチェーン推進協会)の理事として設立に携わる。

世界4位の実力、囲碁AI国際大会で大躍進をしたのは日本企業だった!

今回福原さんの著書『テクノロジー・ファースト』を読んで、初めて御社が、囲碁AIという分野で世界4位の座を勝ち取っていたことを知りました。Googleが開発した「アルファ碁」などの名前は聞いたことがあったのですが…
そうですよね。日本ではあまり馴染みはないですが、囲碁というのは、将棋と違って全世界にプレイヤーがいるんです。Googleや中国の新興企業たちもこぞってAIの研究開発に注力している分野なんですよ。
そうなのですね! ちなみに、御社はもともとどういったきっかけで囲碁AIの研究を始められたのでしょうか?
トリプルアイズ福原智
私たちは会社を設立したときからAIを作ると決めていたので、まずは「どの分野で勝てるAIを作ろうか?」と議論するところからスタートしました。私はもともと将棋が好きで小さい頃から将棋道場にも通うほどだったんですが、すでに将棋AIはプロに勝てるぐらい強いものがあったので、だったら囲碁AIで勝負してみようかと。本格的に開発を始めたのは、2014年ぐらいですね。

その当時はチェスと将棋ではすでに人間がAIに敗北していたので、囲碁が最後の砦という感じでした。「囲碁AIがプロに勝てるようにはあと20年はかかる」とも言われていたんですよ。
田中伶
あの… すっっごく初歩的な質問で申し訳ないのですが… 将棋と囲碁って、ゲーム的には似たようなものなんでしょうか? AIを開発する上での共通点ってあるんですか?
トリプルアイズ福原智
古典的な盤上でのゲームという点では近しいのですが、一手ごとの選択肢の数はずいぶん違います。将棋は10の220乗、いまのスーパーコンピューターでも解析できない数字ですが、囲碁はさらにそれに140桁プラスして、10の360乗の選択肢があります。

囲碁のほうが将棋よりも140桁分ほど難しいといえば、イメージ湧きますかね?(笑)
田中伶
ひー!天文学的な数字で気が遠くなりそうです…(汗)。

こうした研究開発のためには長期的な投資も必要で、よほどの大企業で無い限り現実的ではないのかな、なんて単純に思ってしまうのですが… 囲碁AIの開発を始めた当時、社員数はどれくらいだったのでしょうか?
トリプルアイズ福原智
当時の社員数は60人ぐらいですね。最初は「社長がまた何か始めたな」っていう印象だったと思いますよ(笑)。東北学院大学の武田敦志先生にお会いして、オセロのAIを研究していた学生を会社に採用したことが、本格的な研究開発の一歩目となりました。

その社員と一緒に、2015年ぐらいから囲碁アプリを開発したり、経験値を積むために大会に出場するようになって、じわじわと社内の意識も変わったように感じますね。本気でやろうとしているぞ、って。

トリプルアイズ福原智

田中伶
アプリ開発という御社のビジネスにも活かしながら、研究を進めてこられたわけですね。御社の囲碁AIにおける最新の実績はどのような感じなのでしょうか?
トリプルアイズ福原智
2019年の囲碁AI大会では、国内1位、世界4位の成績でした。2017年の大会では、囲碁AIに使っていた裏の技術が評価されて「独創賞」も獲得しています。
田中伶
国内1位、世界4位! Googleやテンセントなど世界の有名企業が戦う舞台で、少数精鋭の日本企業が互角に勝負しているなんてすごいです。

日本の小さなIT企業が、Googleやテンセントと国際大会で勝負できた理由

田中伶
今回は世界4位という成績でしたが、毎年大会のトップにランクインしているのはアメリカや中国などの超大手企業なんですよね? 失礼ながら開発コストの差が随分ありそうな印象ですが、実際はどうなんでしょうか?
トリプルアイズ福原智
そうですね。中国などに比べるとマシンのスペックは 1/10 ぐらい、ラボの環境だって全く違うし、研究開発に費やす予算もケタ違いだと思います。「日本は天才エンジニアを無駄遣いしている」と中国人エンジニアに言われたこともありますよ(笑)。

ただ、逆にそうした逆境でも戦えるようにエンジニアたちは工夫するしかないので、技術のブレイクスルーが起きることも時にあります。

正直、学生のアイデアひとつにお金をしっかり出せるアメリカの環境などと違って、日本は個人の研究者が自分で稼いだお金を使って開発しているんですよね。それゆえ、研究開発するにしても費用に上限がどうしてもあります。
田中伶
確かに、すぐにビジネスにならないことにお金を費やせる企業っていうのは希少ですよね…。
トリプルアイズ福原智
お金やリソースの問題だけではなくて、エンジニアの気持ちを理解できる経営者がいないのかもしれません。特に大手企業の経営陣って、3年〜5年の任期なので、その間に黒字を出さないといけない。もちろんそんな短期間で分かりやすい成果が出せる研究なんてなかなかないので、正直、研究って単純に経営の邪魔なんですよ。

「すぐに結果が出ない研究に1億円使うってどういうこと?」ということになる。その経営スキーム自体に無理があるのではと思っています。
田中伶
御社の場合はその投資を惜しまなかったからこそ、国際大会で結果を残すまでに至ったわけですよね。
トリプルアイズ福原智
そうだと思います。あともう一つは、この囲碁AIの研究に「価値を感じるか?」ということですね。そもそも研究開発においてどう価値を算出するのか? というのは難しい話なんですが、当社はテクノロジーを第一にやってきたので、研究開発の価値がよく分かるんですよ。

実際にうちの会社でも、囲碁AIの研究の過程でエンジニアが育ったり、研究のなかで顔認証や画像解析のアルゴリズムに使える技術が生まれたり…。研究開発を因数分解して理解すれば、その一つひとつの技術が「副産物」として様々な事業に活用できることが分かります。

それが分からないと「ただ囲碁のゲームやってるんでしょ?」となっちゃうんです(笑)

テクノロジー・ファーストの背表紙

田中伶
なるほど、研究開発の副産物…。研究結果ばかりに目がいってしまって、その考えはなかったです。
トリプルアイズ福原智
本でも書きましたけど「ゲーム研究なんかするやつはクズだ」って、ゲーム情報学の第一人者である松原仁先生だって散々言われてたわけですよ。”研究は真面目でストイックであるべし” ”ゲーム研究は娯楽の要素が強すぎる” と。

一般的な会社では、すぐにビジネスになるものにこそ価値があるとされていますが、そうした価値観こそが日本のAI研究の壁になっていると言えるでしょうね。
田中伶
なるほど…。
トリプルアイズ福原智
研究する上ではお金が必要で、お金を集めるところから始めないといけない。実験の器具やサーバーも高額なので、昔はノーベル賞を受賞した人たちも、皆もれなくお金持ちだったんです。こういう前提は企業経営に関わる重要な部分ですが、MBAでは教えてくれないことです。

それに、先ほどの研究開発の副産物の話にも繋がりますが、大会に出ることで、他の国のエンジニアたちが使っている最新の技術に触れることもできます。アカデミックな傾向が強い大会では情報をエンジニア同士でどんどん交換していくので、私たちも、世間で騒がれるよりもかなり前の段階でディープラーニングの技術に触れることができました。
田中伶
福原さんがエンジニア出身の経営者であったからこそ、そうした研究開発の価値にも気付けたのでしょうね。
トリプルアイズ福原智
私は、囲碁AIの大会って、自動車のF1レースと一緒だと思ってるんです。技術を競う世界大会ですから。実際、F1の大会で優勝し続けているメルセデスベンツはその技術力が会社そのもののブランドになっていますよね。世界のエンジニアと競う大会っていうのは、エンジニアにとっても非常に有意義なものなんですよ。

”すべての産業革命はエンジニアから始まる” ー 日本のIT企業が世界で戦うために

田中伶
著書『テクノロジー・ファースト』の中では、日本のIT産業はなぜ世界に負けたのか? といったテーマにも触れられていますが、福原さんが考える日本のIT企業が世界で戦うために必要な策とは何でしょうか?
トリプルアイズ福原智
そうですね、難しいですが… 日本企業に必要なのは、お金、マーケティング力、グローバル戦略の3本柱ではないでしょうか。Facebookみたいなサービスも、日本だってつくろうと思えばつくれるんです。

ただ、いわゆる「マーケティング」に包括される、サービスの思想や価値観を普及させる力が弱いように感じます。サービスを通じて世の中の人々の価値観を変えていくような気概が足りなかったり、言語の壁を乗り越えられなかったり、ということも多いですね。
田中伶
つくる技術は追いついているのに、ということですね。先ほどの「日本は天才エンジニアを無駄遣いしている」という話が身にしみます…。
トリプルアイズ福原智
あとは、事業スキームにおいての違いもあります。 中国のテンセントがなぜ強いのかというと、ゲーム事業で眠っている大量の遊休サーバーをうまく活用して、ゲームをしていない間にひたすら囲碁のディープラーニングをさせたりしているんですよ。これは膨大なデータを集めているテンセントだからこそ実現できるスキームで、たとえ日本が国のサーバーを使っても太刀打ちできない強さがあります。

とはいえ現状は厳しくても、やはり追いついていきたいという気持ちはもちろんあります。当社の場合は、画像認識と機械学習のモデルがシンクロしたときが勝機になるでしょうね。正攻法だと厳しいぐらいの差がついているので、新しいアルゴリズムを開発させて、新しい戦い方を模索しているところです。
田中伶
事業スキームの差…。なるほど。でも1位を獲った企業も、その座を維持するためには半永久的に研究開発を続けなければいけないわけで、終わりはないですよね。
トリプルアイズ福原智
そうですね。実は以前、世界大会で5位を獲って喜んでいたエンジニアをきつく叱ってしまったこともあります。自分が厳しすぎるのかと思ったこともありましたが、世界1位を目指せ、というのは社員にもメッセージとして伝え続けています。

日本の中小企業だって世界1位の技術力を目指せるということや、そうした実績を日本全体に発信することを通じて、日本の今の研究開発への気概や経営者たちの意識を変えることに期待しているんです。そういう意味では、やはりゴールはないですね。
田中伶
社長の囲碁AIにかける情熱と執着が伝わるエピソードですね。 テンセント、Facebook、Google、と互角に戦う日本企業があることは、今増えてきているスタートアップ企業などにとっても大きなモチベーションに繋がりそうです。

トリプルアイズ福原智
”テクノロジー・ファーストの会社だけが未来を見る” というのは、自著の中でも最も強く発信したかったメッセージです。私たちが国際大会で戦ってきて思うことは「いかに中国やアメリカが本気でやっているか?」ということなんですよ。それもエンジニアではなくて、経営者が。今やらなければいけないという気概をひしひしと感じますし、日本との危機感の違いはなんだろうか?と思わずにはいられません。

新人エンジニアたちが、海外の大手ベンダーのシステムを使いこなすための資格取得に躍起になったり、いわゆる「終わらないシステム」「動かないシステム」を仕様書通りに下請けとして開発したり… そんなことでエンジニアたちを疲弊させている場合ではないんです。

それよりも、これから急速に進化すると言われているAIやIoT、ブロックチェーン、ビッグデータといった技術をいち早く抑え、いわゆる「産業革命4.0」に乗っていかないと。今後ITが絡むすべてのビジネスにおいて、AIやブロックチェーンは共通の要素や技術になっていくわけですから。

そして、そうした流れを推進していくのは、私たちテクノロジー・ファーストな中小企業だと。ITや技術が持つ力を身を持って経験している私たちだからこそ、自由な発送で研究開発に取り組んでいきたいですね。

編集後記

以上、いかがでしたか? 福原さんの著書『テクノロジー・ファースト』は、特にエンジニアたちから「よくぞはっきり言ってくれた!」といった感想や意見が多く寄せられているそうで、これからのIT企業の経営者が持つべき視点や危機感について具体的にまとめられています。私も、今回実際にお話を聞いて、トリプルアイズの囲碁AIにかける情熱はもちろんのこと、企業における技術の研究開発の重要性についてじっくりと考えさせられることになりました。

日本企業が「産業革命4.0」で世界と戦うために必要なこと、踏み込んで知りたいという方はぜひ本書もあわせてチェックいただければ幸いです。

最後まで読んでいただき、有難うございました!

<関連リンク>

『テクノロジーファースト なぜ日本企業はAI、ブロックチェーン、IoTを牽引できないのか?』https://www.amazon.co.jp/dp/4021002782

株式会社トリプルアイズ https://www.3-ize.jp/
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この記事を書いた人
田中 伶
田中 伶 アステリア株式会社 広報・IR室。メディアプランナー。 大学在学中に人材育成会社を立ち上げ、その後はスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げなどを経験。話題のビジネス書や経営学書の解説をするオンラインサロンを約5年間運営。難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。