2026年8月5日

アステリアが考える「フィジカルAI」とは?── Gravio担当者に聞く、現場×AIの現在地

生成AIの次に注目を集める「フィジカルAI」とは、いったいどのような技術なのでしょうか? 現実世界を “見て、考えて、動かす” 仕組みを基礎からひも解きながら、自動運転やロボット、警備、スマートオフィスなど、身近な活用例をご紹介します。さらに、アステリアの「Gravio」が歩んできた9年間を振り返りながら、企業が無理なく「フィジカルAI」の一歩を踏み出すためののヒントを探ります。


2022年末の「ChatGPT」の登場以来、突如として、世の中の関心が「生成AI」に集まりました。テキスト、画像、コード、音声といったデジタル空間におけるAIの処理能力は爆発的に進化し、ホワイトカラーの業務効率化は劇的な変化を遂げています。

しかし、私たちの生活や経済活動の基盤は、依然として「現実世界(フィジカル空間)」にあります。モノを運ぶ、家を建てる、作物を育てる、工場を動かす、介護を必要とする人を支える──。これらの現場では、いくら画面の中のAIが賢くなっても、現実世界に働きかける仕組みがなければ根本的な課題解決には至りません。

そんな中、テクノロジーの最前線は「画面の中」から「画面の外」へと急速にシフトしています。そのキーワードこそが「フィジカルAI(Physical AI)」です。

今回は、アステリア株式会社でAI・IoTを軸に製品展開するフィジカルAI事業部の小幡氏にインタビュー。「フィジカルAIとはなにか」という基礎知識から、市場の現在地、そしてアステリアのノーコードAI/IoTプラットフォーム「Gravio」が歩んできた9年間について、分かりやすく解説します。

お話を伺ったのは…
小幡 雅彦(おばた・まさひこ)氏

2019年 アステリア株式会社入社。現在はフィジカルAI事業部 マーケティング・マネージャーとして、ノーコードAI/IoTプラットフォームGravioのマーケティングを担当。大学卒業後は外資系PCメーカーにて、エンタープライズ向けセールスからブランディング、リサーチ、デマンドジェネレーションまでBtoB領域のマーケティング戦略の立案・実行に従事。日本ディープラーニング協会 G検定、生成AIパスポートの資格を保有。

アステリアのYouTubeチャンネルにて、小幡氏が解説する「5分で分かるフィジカルAI 〜アステリアが考える “AX” とは〜」も公開中です。ぜひあわせてご覧ください。

そもそも「フィジカルAI」って? 生成AI との違いとは

── 最近、ビジネスやテクノロジーのニュースで「フィジカルAI」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。そもそも、これは具体的に何を指す言葉なのでしょうか?

「フィジカルAI」という言葉が注目されるきっかけとして、もっとも大きな出来事は、2025年1月に開催された世界最大級のテクノロジー展示会『CES』でした。ここで、現在のAIブームを支えている半導体の大手・NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏が「フィジカルAI(Physical AI)」という言葉を強く打ち出したことで、世界的な注目が一気に高まりました。

NVIDIAの定義を紐解くと、フィジカルAIとは「ロボットや自動運転車など、“物理空間で稼働する自律型マシン” が、周囲を認識・学習しながら複雑な行動を取れるようにするAI技術」のこと。

ITやビジネスの文脈において「Physical」は「物理的」「現実世界の」と訳されます。つまり、これまではパソコンやスマートフォンなどの画面の中で動いていたAIの知能を、私たちが暮らす現実世界で活用し、モノや環境に直接働きかける技術の総称です。

── テキストや画像、音声などの「生成AI」とは、具体的に何が異なるのですか?

最も大きな違いは「重力、衝突、振動、照度といった、現実世界の物理法則を理解し、実際に動作・制御まで行う点」にあります。 従来の生成AIは、主にデジタル空間の情報処理を中心に発展してきました。一方でフィジカルAIは、以下の3つのプロセスをリアルタイムかつ自律的に回します。

【把握:五感に相当】
カメラやセンサーを使って、障害物、人の動き、温度、振動など、現実世界の状況を認識する。

【判断:脳に相当】
AIが収集した情報を分析し、その場の状況に応じた判断を行う。

【行動:手足に相当】
ハンドルやブレーキ、ロボットアーム、設備などを動かし、現実世界に働きかける。

代表例として挙げられるのが「自動運転車」や「ヒューマノイドロボット」です。自動運転車は、カメラで 歩行者を検知(把握)→ 衝突の危険を予測(判断)→ ブレーキを踏む(行動)という一連の流れを、コンマ秒単位で行っているんですね。

ヒューマノイドロボットについても同様です。近年はAIの進化によって「自分で見て、考えて、動く」能力が飛躍的に向上しました。人間に近い身体構造を持つため、人間用に作られた道具や施設、オフィス環境をそのまま使えるという汎用性の高さから、フィジカルAIの究極の形として期待されています。

なぜ今、日本で「フィジカルAI」が求められるのか

── フィジカルAIが、日本で急激に注目されるようになった理由はありますか?

背景には「技術の進化」と「深刻な社会課題」という2つの歯車が噛み合ったことがあります。

まず技術面では、生成AIによってAIの“脳”そのものが爆発的に進化したことが挙げられます。言語や世界の概念を深く理解できる脳ができたからこそ、「次はこの脳を現実世界(肉体)で動かそう」というフェーズに自然と移行したわけです。

そしてもう一つの動機が、日本の深刻な少子高齢化に伴う「人手不足」です。製造、物流、建設、介護、農業といったいわゆる「現場(エッセンシャルワーク)」での自動化・省人化は、もはや『あれば便利なもの』ではなく『事業継続や社会機能の維持に関わる重要なテーマ』になっています。

こうした背景から、市場予測も凄まじい勢いで伸びています。フィジカルAIの世界市場規模は、2025年の約78億ドルから、2040年には約4,000億ドル(約60兆円)規模にまで急成長すると試算されています。年率に直すと約34%の超高成長市場です。

メディアでも、日経クロステックなどが「2026年は“フィジカルAI元年”と記憶されるかもしれない」と報じるなど、まさに今が転換点です。

日本政府もこの波を捉えており、成長戦略の筆頭に「AI・半導体」を掲げ、その主要技術としてフィジカルAI(AIロボット)を明記しています。10.5兆円規模の投資を進めながら、2040年までに世界市場の約3割にあたる「20兆円規模」の市場獲得を国として目指しているような状況です。

※ 出典:
経済産業省/内閣官房「AIロボティクス戦略」関係府省連絡会議(2026年3月26日)
読売新聞オンライン「戦略17分野、40年度までに370兆円超の官民投資」( 2026年6月20日配信)

アステリアのノーコードAI/IoTプラットフォーム「Gravio」が辿ってきた変遷:工場IoTから「映像×生成AI」の現場実装へ

── アステリアでも、2017年頃から「フィジカルAI」の領域に取り組んできたのですよね。

はい。アステリアでは、2017年6月にエッジコンピューティング用ミドルウェア「Gravio」をリリースして、この分野に取り組んできました。「フィジカルAI」という言葉自体はここ1、2年で急速にバズワード化しましたが、私たちが取り組んできた事業の本質は、9年前からずっと変わっていません。

── リリース時には、どんな社会課題に注目していたのでしょうか?

Gravioの歴史を振り返ると、当初の現場のニーズは、完全に「IoT(モノのインターネット)」の文脈が中心でしたね。特に、製造業の工場などでの導入が多かったです。

例えば、大規模な食品工場の中でのニーズ。最新の空調設備を導入していても、どうしても場所によって温湿度のムラが発生してしまい、特定の工程において品質にばらつきが出てしまう。その結果、生産ラインが止まってしまうという課題を抱えている現場がありました。

そこで私たちは、機械のすぐ近くに温湿度センサーを配置し、そのデータと連動させてエアコンの強弱を制御し、目詰まりをなくして生産性を上げる仕組みを提供しました。当時は「現場にAIを導入する」というよりも、「現場のリアルな状況をセンサーで認知してデジタル化する」というような【五感(把握)のIoT】が中心の時代だったんです。

”職人の匠の技” と呼ばれてきたような技術を、センサーで計測してデータ化する用途も多かったですね。

── Gravioを活用した、アシックス社のスマートファクトリー化については、過去にin.LIVEでも紹介していましたよね。そこから、時代や現場のニーズはどのように変わっていったのでしょうか?

「Gravio」を製造現場で導入している、株式会社アシックスのスポーツ工学研究所内のカスタム生産部

今お話ししたようなニーズはもちろん現在もありますが、Gravioで接続したい「接続先」や「データの種類」は急速に増えてきました。もちろん「導入される現場」にも変化があります。

実は、大きな転換点となったのはコロナ禍なんですよ。
一時はオフィスが縮小し、テレワークが中心となったものの、現在は「オフィス回帰」の波がきています。 オフィスに再び多くの人が集まるようになると、今度は「会議室が足りない」「利用効率を高めたい」といったニーズが出てきました。いわゆる「スマートオフィス」の需要が急速に高まったんですね。

ー 確かに、会議室の空予約があったり、広い会議室を少人数で使っていたり、非効率な使われ方をしているオフィスは多くありそうです。

そうでしょう。こういった課題を、デジタルで解決できる技術はすでに多くあります。
例えば、システム上で予約されているにも関わらず、10分経っても誰も部屋に入ってこない場合ーー人感センサーやカメラがそれを検知して予約を自動キャンセルして、空調を弱めてくれたら良いですよね。

こうした「オフィスの空間効率化」において、Gravioのニーズが爆発的に高まっています。これまでGravioの導入先は、工場や製造現場がメインだったのですが、オフィスや商業施設、病院など、人が集まる空間へと広がりを見せました。

── なるほど、面白いですね。Gravioで扱うデータにも変化はあったのでしょうか?

はい、これがまさにフィジカルAIへ合流していくプロセスなのですが、以前のような温湿度や開閉センサーといった「数値データ」だけでなく、カメラの「映像・画像データ」からAIで状況を判断してアクションを起こす、というニーズへシフトしていきました。

人間でいうところの五感のデジタル化から、より高度な「目(カメラ)」の活用への進化です。そしてこのカメラ画像の処理こそが、近年の「生成AIの進化」によって劇的なブレイクスルーを迎えることになります。

アステリアの恵比寿オフィスにも導入されている ”社長のおごりワイン” 。AIカメラで2人以上の被写体を認識すると、ワインセラーのロックが解除される仕組みになっている

クマ検知から警備まで ── 物理的な人手不足を補うAIの眼「ビジョンランゲージモデル(VLM)」

── 「映像・画像データ」からAIで状況を判断してアクションを起こすという点においては、まさに「生成AI」の登場が大きなブレイクスルーになっていますよね。

はい。従来の画像認識AIの作り方は、非常に泥臭く、コストがかかるものでした。
特定のモノや状態を判定させるために、人間が何万枚、何十万枚という画像に一枚ずつ「これは不良品」「これは正常」とラベルを貼り、AIに学習させて専用のAIモデルをゼロから作る必要があったのです。これには莫大なお金と時間、手間、そして専門知識が必要でした。

しかし今、生成AIが驚異的な進化を遂げたことで、状況は一変しました。
現在の最先端トレンドは「VLM(Vision Language Model:ビジョン・ランゲージ・モデル)」と呼ばれる技術です。VLMを利用することで、画像に関する質問に回答する「VQA(Vision Question Answering)」も可能になっています。

生成AIに、現場の画像や映像を入力して、「ここで何が起きている?」「人間は何人いる?」「危険なことは起きていない?」と、自然言語(プロンプト)で問いかけるだけで、AIがリアルタイムに答えを出してくれるようになりました。生成AIが登場するまでは、個別の判定のために何万枚も画像を学習させていましたが、そうした時間も必要性もなくなりつつあるのです。

── 実際の現場では、この生成AI×画像処理はどのように使われ始めているのですか?

非常に分かりやすい例で言うと、自治体などからの注目が高い「市街地へのクマの出没検知」や、公共スペースにおける「防犯・警備セキュリティ」の現場です。

いま、物理的な警備や防犯の現場は、深刻な人手不足に直面しています。これまでは、工場の壁一面に何十台ものモニターを並べ、24時間365日、人間がじーっと監視し続けるという運用がなされていましたが、そんな人員を確保することはもう困難です。

ここにVLMを組み込むことで、防犯カメラの映像をAIが常に監視し、「不審な動きをしている人がいる」「荷物が不自然に放置されている」と判断した瞬間だけ、人間のスタッフにアラートを通知し、そこで初めて人間がモニターを確認すればいい、というような運用が可能になります。

── これまで人力でやっていたことが、IoTのセンサーに置き換わり、さらに生成AIで判断までできるようになったことは大きな前進ですね。

はい。ただ、ここで重要なのは、「AIが『不審者を発見した』『棚が空いている』と答えを出すことは、業務のゴールではない」ということです。 出た答えを受けて、実際にどうアクションを起こすかという「後工程の利活用」こそが、現場で必要とされるソリューションだと思います。

AIが出した「棚が空いている」という結果を受けて、現場のパトライトを光らせるのか、店員のスマートフォンに通知するのか、補充ロボットを物理的に動かすのか、あるいは、離れた本社の管理者のSlackやLINEに画像を添付してアラートを送るのか……。

ここを司っているのが、まさに「Gravio」なんです。

現場のデータをもとにAIが導き出した「答え」を受け取り、それを物理デバイスや業務システム、ロボットなどの様々な後工程へとノーコードで繋ぐ、言わば「フィジカルAIのラストワンマイルを担うつなぎ役」として機能しています。

周りのAIやハードウェアの環境が劇的に進化したからこそ、私たちの9年間ブレない「つなぐコンセプト」の価値が、今まさに最高潮に高まっていると言えるかもしれません。

Gravioで収集するデータと、連携・活用先をまとめた図

アステリアが提唱する「広義のフィジカルAI」と現場目線の「4つのステップ」

── 先ほど、フィジカルAIの代表例として「ヒューマノイドロボット」や「完全自動運転」というお話がありました。しかし、一般的な企業がこれらを明日から現場に導入するというのは、コスト面でも技術面でもハードルが高いように感じます。

まさにそうなんです。世の中の大半を占める中小企業にとっては、導入コストを含め、実務に組み込むにはまだ多くの技術的・経済的課題が残されています。

だからこそ、アステリアでは「広義のフィジカルAI」という考え方を提唱しています。
ロボットの形をしていなくても、「センサーやカメラで現実世界の状況を把握し、AIが判断して、現場のアクション(通知、設備制御、業務フローのトリガーなど)にダイレクトにつなげる仕組み全体」は、広義のフィジカルAIである、という捉え方です。

これなら、何千万円もするロボットを買わなくても、今あるカメラやセンサー、そしてGravioのようなソフトウェアがあれば、今すぐ現場に実装することができますよね。

── 一足飛びに完全自動化を目指すのではなく、段階的にアプローチできるということですね。

その通りです。私たちは現場への無理のない定着のために、フィジカルAIの導入には「4つのステップ」があると考えています。

まずはステップ1の「人に働きかけるAI」から始める。これだけでも、現場の巡回コストや監視作業の負担は劇的に減ります。身近なところからスモールスタートし、成功体験を積み重ねながらステップを進めていくことこそが、現場に受け入れられる、本当に役に立つフィジカルAIの実装プロセスです。

まずは、業務の棚卸しを行って「人がやるべき仕事」と「テクノロジーで代替できる仕事」を整理してみてはどうでしょうか。また、現場の業務やノウハウを可視化・データ化することも重要です。熟練した職人の経験や勘、いわゆる「暗黙知」をセンサーやデータとして扱えるようにする取り組みも始まっているので、これまで属人化していた現場の知恵を組織の資産として継承できるようになります。

── 最後に、アステリアがフィジカルAI領域で目指す未来について教えてください。

私たちが目指しているのは、「誰もが現場でAIを当たり前に活用し、価値を生み出せる世界」です。 AIを一部の専門家だけのものにするのではなく、日々現場で働く人々が、自分たちのアイデアで活用できるものにしたい。

テクノロジーがどれだけ進化しても、私たちの生活の基盤は現実世界にあります。ハードウェアとソフトウェアをノーコードでつなぎ、現場のデータを継続的な価値に変える。

単なるソフトウェアベンダーとして製品を売るのではなく、現場に深く根を張る伴走パートナーとして、これからもアステリアはフィジカルAIの未来を現場の皆さんと一緒に切り拓いていきます。

編集後記

デジタル空間にとどまっていたAIが、現実世界の課題を直接解決する「フィジカルAI」の時代。少し先の話に思えるかもしれませんが、アステリアが歩んできた9年間のGravioの変遷── 工場の環境情報の見える化から、コロナ後のスマートオフィス需要、現在のAIを活用した巡回・監視の自動化にいたるまでの道のりを聞くと、すでに私たちの身近なところで実用化が進んでいることが分かります。

取材の中で、もう一つ興味深かったのが、Gravio独自のユニークな仕組み。
ソフトウェアの月額サブスクリプションの中で、シンプルなデザインのハードウェア(センサー)を無償でレンタル提供し、初期コストや導入のハードルを下げる取り組みを行っています。

スモールステップで取り組むフィジカルAIは、人手不足に悩む多くの企業にとって、非常に現実的な選択肢になるのではないでしょうか。 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

アステリアのYouTubeチャンネルにて、小幡氏が解説する「5分で分かるフィジカルAI 〜アステリアが考える “AX” とは〜」も公開中です。ぜひあわせてご覧ください。

Gravio 製品サイト https://www.gravio.com/jp

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。