製造業では、単価や納期、設備の稼働状況といった数字はシステムに残ります。一方で、なぜその単価で合意したのか、設備のエラーの後に何を点検してどう直したのかという記録は、紙やExcel、メールに散らばったままです。数字は残るのに、理由は残らない。サイボウズの南崎健太郎氏は、この数字にならない記録を「宝の山」と呼びます。
アステリアとサイボウズは、kintoneと周辺システムの連携で協業してきました。今回は南崎氏に、製造業の現場でこの記録がどう扱われているのか、なぜ今それが問題になるのかを伺いました。
左から、サイボウズ 南崎健太郎氏、アステリア 山脇宏夢、森慶輔
目次
南崎氏は、サイボウズのエンタープライズ営業部に所属しています。
サイボウズ 南崎健太郎氏
南崎氏 前職が製造業ということもあって、『現場QCD改善スペシャリスト』という、ちょっと仰々しい肩書がついているんですけど、エンタープライズ企業の中でも製造業に特化して支援するポジションです。
前職では、製造業の会社で約8年、営業を務めました。
南崎氏 営業でしたが、お客さんから受注をもらうことはもちろん、受注後に正式品が無事に出荷されるまでを綿密にケアしていました。具体的には、要件整理から試作品管理、量産立ち上げ管理、出荷後のクレーム対応も含めて、すべての業務でトラブルシューティングを行っていました。
設計や品質管理など、工場のほぼ全部署と関わってきたことで、「工場にどんな部署があって、それぞれ何をしているのかが感覚としてある」と言います。その南崎氏は、製造業のデータには偏りがあると見ています。
南崎氏 製造業は、定量的なところには先進的に取り組んできました。それがゆえに、定性的なところはずっと放置され続けてきた。生成AIが登場して、そこが分析できるようになった今、課題が浮き彫りになってきているんです。しかもそこは宝の山なので、今すぐにでもシステム化してほしいと思っています。
南崎氏の言う「定性的なところ」とは、判断の理由や作業の経緯の記録です。
調達の業務を支えているのは、基幹システムです。ただ、そこに入っているのは数字だけだと南崎氏は言います。
南崎氏 調達には必ずワークフローがあるので、基幹システムが入っているケースが多いです。ただ、そこでの発注は本当に発注するためだけ。納期管理と発注、それに単価の管理くらいで、全部数字の情報なんです。
サイボウズ 南崎氏
数字の裏には、交渉の経緯があります。
南崎氏 購買は営業と同じで、サプライヤーと会話して、なぜその単価になったのか、なぜその納期になったのかというストーリーがあるんです。業務ではそのストーリーがすごく大事なのに、基幹にはそれがない。なぜ値上げしたのか、なぜ値下げしたのかが残っていないんです。
これが問題になるのは、担当者が替わるときです。
南崎氏 製造業の購買は、だいたい3年、4年でローテーションするので、引き継ぎが定期的に発生するんです。そうなったときに結果しか残っていないから、なぜ変わったのかが分からない。昔のメールを転送しておいたから、これを見ておいて、という世界なんです。なので、必要な情報を探し当てるのが本当に大変です。
交渉の経緯が散らばる理由は、組織の分け方にもあります。
南崎氏 細かい話ですが、発注する部署と価格を交渉する部署が分かれていることもあります。一緒になっていると(価格や発注先などを)コントロールできてしまうので、贈賄防止の観点で、コントロールさせないように分けているんです。
IoTの分野では、品質改善と設備保全がよく話題になります。どちらが重視されているのか、アステリアの森はこう尋ねました。
森 私個人としては、品質改善のほうが製造業では好まれるのかなと思うんですけど、いかがでしょうか。
南崎氏 両方大事です。ただ、ご相談いただくケースとしては、設備保全のほうが多いです。メンテナンスの時間を減らしたい、という要望が圧倒的に多いと思います。
取材の様子(手前がアステリア 森)
ただし、相談の出発点はセンサーやデータ分析よりずっと手前にあります。
南崎氏 そもそもシステム化が全くされていない、というところからなんです。完全にシステム化してうまくいっている会社は、上位層だけです。大多数はまだアナログで、まずシステム化したい、という相談がそもそも多いんです。
センサーを付けてデータを集めるところから始めるのか、と森が聞くと、南崎氏は「もっと手前です」と即答しました。点検表をどうするか、という段階の話です。
センサーを付けている工場でも、事情は似ています。
南崎氏 センサーの情報は取っているのに、点検は紙、というところもあります。エラーが起きればアラートは上がるようになっていても、その後の記録は紙やExcelです。
森 本来はそれが一番重要で、このタイミングで止まったとか、このセンサーで止まったというのが紐づいて、それが分析用のデータになるんだと思うんですけど。
南崎氏 さっきの基幹の話と同じで、定量的なところはシステム化されているんですけど、点検やメンテナンスの内容、原因の分析から改善までの内容といった定性的なところは、全くシステム化が進んでいません。
DXからAIへと話題が移っても、製造業の現場の悩みは変わっていない、と南崎氏は言います。
南崎氏 少し前はDX、今はAIですけど、いまだに紙やExcelをやめたいという声は根強いんです。特に製造業ではまだ多く残っていて、やめたいと思っているけど、やめられないお客さんが、エンタープライズでもかなり多いです。
システムがないわけではありません。
南崎氏 もちろんシステムはあります。主にSCM系ERPですね。ただ、日頃自分たちがやる業務では、紙やExcelが使われています。正直、システムを使うのは日常業務の1割もないと思います。ほとんどがExcelと紙とメールです。
紙が選ばれるのには理由があります。
南崎氏 特に製造ラインにいる現場作業員の方は作業が目的で、システムに入力したり記録したりするのは、メイン業務ではないんです。作業者にとっては、あくまでものを作るのが仕事なので、システムを使うのは面倒なんです。紙なら誰でもすぐに書けます。それを、スマホやキーボードで入力してくださいとなると、当然嫌がります。
システムを入れる側が「使ってください」と言っても、現場は動きません。
南崎氏 使ってもらわないと、システムはうまくいかないんです。基幹システムは小回りが利かないので、柔軟なシステムでないと現場の要求に応えられず、結局、紙やExcelになってしまいます。
紙やExcelに書いた記録のその後を森が尋ねると、南崎氏の答えは「転記」でした。
南崎氏 シンプルに転記していますし、場合によっては記録して保管で終わっています。基幹システムに入れなければいけないものは転記しますが、それ以外は個人での活用にとどまる。会社として、組織としてデータを活用していこう、というところまでは至っていないケースが多いです。
しわ寄せは、歩留まりの改善を担う人に来ます。
南崎氏 基幹システムに入っているデータや、現場で見たデータを個人のExcelでまとめて、集計して、分析して、改善していく。だから、集計を取りまとめる作業の時間が圧倒的に多いんです。本当にやりたい分析は、そこが終わらないとできません。
ここには、ASTERIA Warpで手伝える部分と、手伝えない部分があります。
森 集計の部分は、ASTERIA Warpを使えばできるかもしれません。でも、個人ごとにExcelが違う、紙がそもそもデータになっていない、というところは、私たちでは太刀打ちできません。
Excelの扱いに困っているという声は、アステリアの営業の現場でもよく耳にします。
山脇 Excelでも、入力のフォーマットがバラバラになっているんです。取引先から受け取るものは仕方がないとしても、担当者ごとにそうなっているので、データを整形し直さなければならない。どこにどのデータが保存されているかも分からず、管理ができていない。どうすればいいか、という相談は、製造業のお客様から結構来ます。
アステリア 山脇
森 AI-Readyというのは私たちがよく使う言葉で、AIに学習させるためのデータを持っていきましょう、という話です。kintoneからすると、AI-Readyに持っていくために、どういう使われ方をしてほしいですか。
アステリア 森
南崎氏が挙げたのは、会社の「歴史と文化」でした。
南崎氏 AI-Readyにしていくには、その会社の歴史と文化を知る必要があります。なぜこういうルールになったのか、なぜその改善をしたのか。そこは文脈、つまり定性的な情報の塊で、それをシステム化するのはkintoneが得意なところです。
その文脈がないと、AIの答えは的を外します。
南崎氏 例えばAIに、品質改善でこういうことをやりたいと相談しても、一般論しか返ってこない。『それはうちのルールではできないし、違うんだよ、うちのことを知らないから』となってしまうんです。
南崎氏 定性的な情報をしっかり記録していないと、なぜこの価格が変わったのか、なぜこの品質改善をしたのかという文脈が分かりません。定性的なところをどんどんシステム化していけば、かなり精度の高いAI活用ができるはずです。
価格が変わった理由は、調達の章で見た、引き継ぎのたびに探されていた情報です。
何を記録すべきかは、会社ごとに違います。
南崎氏 ちゃんとしたデータの中身は、各社で絶対に違います。こういう改善ルールがあるから、というのが会社ごとにあって、例えば、空気中のほこりを数えていることも、他社から見れば、なぜそこまでするのか分からなかったりします。だから、まずは自社にとってちゃんとしたデータとは何かを言語化することが、第一歩だと思います。
森は、この話を工場のルールと調達の両方に重ねて、このように語りました。
森 そのルールは大事ですよね。基板は精密機器だから、少しのほこりでもダメなんです。この会社は何を作っていて、このルールはなぜそうなのか。企業の文化もあるし、このサプライヤーと取引しているのは、こういう歴史があるからだ、ということもある。それを全部つかむために、kintoneでデータを集めていくわけですね。
南崎氏が「宝の山」と呼んだのは、この理由と経緯の記録です。アステリアが考える順番は、まず現場が記録を残せる仕組みを用意し、そのうえで基幹システムの数字と結び付けること。後編は、調達の単価改定を例に、その具体的な形から始めます。
サイボウズが主催する年に一度のイベント「Cybozu Days Japan 2026」が、2026年11月12日(木)・13日(金)に幕張メッセで開催されます。kintoneと連携するサービスを提供する140社以上のパートナー企業がブースを出展するほか、ユーザー企業の担当者が登壇するセッションも多数予定されています。アステリアは、ASTERIA WarpとPlatio Canvas AIの両製品で出展します。
アステリアでは、kintoneとASTERIA Warpの連携事例を32社分公開しています(2026年9月時点)。
南崎 健太郎(みなみざき けんたろう)
サイボウズ株式会社 エンタープライズ事業本部 エンタープライズ営業部 現場QCD改善スペシャリスト。前職は住友電気工業で約8年、スマートフォン・パソコンメーカー向けのプリント回路基板の営業として、要件整理から量産立ち上げ、出荷後のクレーム対応までを担当。
山脇 宏夢
アステリア株式会社 パートナー営業部 第2グループ。サイボウズ担当5年目。
森 慶輔
アステリア株式会社 エコシステムサクセス室 副室長。
PM・SE・マーケティングなど多彩なバックグラウンドを持つ「データ連携」のプロフェッショナルが、専門領域を超えたチームワークで「データ活用」や「業務の自動化・効率化」をテーマにノウハウやWarp活用法などのお役立ち情報を発信していきます。
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