前回からの引き続きとなる本対談も今回が3回目となる最終回です。話の内容としては、インフォテリアにおけるブロックチェーンついての取り組みを中心に、事業提携の話、平野の想いの部分まで話は広がりました。
目次
-財部氏 これまでの話(第1回、第2回)でブロックチェーンの概要と可能性、そして分かりづらかった技術の部分についてはよく理解することできました。最後になりましたが、インフォテリアがブロックチェーンに注力することになった経緯、そして今後どのように取り組んでいくのか、教えてください。 まず、ブロックチェーンに関してはいつぐらいから関心を持たれていたのでしょうか?
-平野 インフォテリアではあまり表に出してはいませんが、新しい技術への投資活動もおこなっています。これは、当社の戦略に合う技術の発掘や世界進出を目指すスタートアップなどの支援をベースに考えて投資をおこなっています。2年半ほど前からスタートアップ界隈では有名なインキュベータの「Yコンビネータ」を卒業したスタートアップ企業の方々と数多くお会いする機会があるのですが、その中でビットコインのコアテクノロジーを開発しているスタートアップ企業と接触する機会がいくつもありました。そこで調べていくと、どうやら「ブロックチェーン」はビットコインだけではなく、さまざまな分野への応用が可能であることが分かってきました。汎用的にこの技術が使えることが見えてきて、当社のパッケージソフトである「ASTERIA Warp」との連携可能性に気づいたのです。
-財部氏 2年半前となると、ビットコインはかなり話題となっていましたが、ブロックチェーンという言葉は知らない人がほとんどで、その技術だけを取り出す、という着想自体がなかったような気がします。インフォテリアではその頃からこの技術に注目していたということなのですね。
-平野 このあたりはインフォテリアの創業にも繋がる話なのですが、インフォテリアは当時生まれたばかりの技術XML(Extensible Markup Language)に着目し、その専業会社として創業しました。その理由は非常にシンプルでXMLの汎用性に大きな可能性を感じたからです。今回のブロックチェーンにも同じ可能性を感じているため、注力しているのです。
-財部氏 ブロックチェーンとXML、共通するのは「汎用性」ということなのですね。確かに、XMLは文書用フォーマットとして開発されたものの、さまざまな分野で使われるようになりましたよね。
-平野 おっしゃるとおりです。実はそのXMLにはルーツがあって、SGML(Standard Generalized Markup Language)という言語なのですが、SGMLをインターネット対応しシンプル化したものがXMLだったのです。データ処理の中核を担う技術であり、汎用性がある、ということがXMLとブロックチェーンの共通点とご理解いただけるとよいかと思います。
-財部氏 平野さんが注目している理由がよくわかりました。ブロックチェーンもXMLと同様にさまざまな応用可能性を秘めているということですね。ただ、以前からの話で推察すると、国内ではブロックチェーンのプレイヤーが少ないということはそもそも対応できる技術者もまだまだ限定的、ということなのでしょうか?
-平野 おっしゃるとおりです。このブロックチェーンという技術はこれまでお話してきたように可能性と既存システムに対して大きな破壊力を持っています。しかしながら、深い部分の技術で、開発したり直接利用するためにはその専門の知見、経験が必要になります。そして多くの組織ではブロックチェーン専門の技術者を育成したり採用したりすることは、研究所や大手金融機関などをのぞき多くの場合で現実的ではありません。それではブロックチェーンのメリットをあらゆる企業が享受するためにどうしたらよいのか。その答えがASTERIA Warpであると私たちは考えています。ASTERIA Warpを使うことで、プログラミングすることなくブロックチェーンが使えるからです。こう考えたことから、ブロックチェーン技術「mijin」を有するテックビューロ社と事業提携をおこないました。本当に良い技術であっても、利用ができなければ絵に描いた餅です。ASTERIA Warpを介在させることで既存のシステムとのつなぎ込みにかかる工数が大幅に削減され、専門の技術者がいなくてもなんとかなる。これでブロックチェーン技術の利用に関する障壁は大きく下がることでしょう。
-財部氏 先日、リリースとして公表されていた、さくらインターネット社はこの2社にどのように関係していくのでしょうか?
-平野 ブロックチェーンを利用するためには、ブロックチェーンを稼動させるための複数のコンピュータが必要となります。そのコンピュータの部分をさくらインターネット社が担います。「さくらのクラウド」がなければ、ブロックチェーンを使ってみるために自前でコンピュータを複数台用意しなければなりません。しかし、この協業によって、手元でコンピュータを用意することなく「さくらのクラウド」上に、ASTERIA Warpとmijinがインストールされた状態で実際に利用してもらうことができるのです。また、ASTERIA Warpがあるため、ブロックチェーンに関する技術を有していなくても利用することができます。技術が普及するためにはまず利用をしてもらうことが必要です。そのために、さくらインターネット社とも提携し、このような取り組みを共同でおこなっています。
-財部氏 まさに気軽に試すことができる、ということですね。先ほどおっしゃっていた、金融以外での利用を試すような取り組みもできそうですよね。平野さんが金融以外での利用可能性を考えている分野について少し教えて頂けますか?
-平野
たとえば、食品のトレーサビリティのシステムは、流通業における分かりやすい例として挙げられるのではないかと思います。食品は製造後、流通、販売という経路を経て私たちの食卓に上ります。今や、各経路を記録することは当たり前ですが、その記録した情報は悪意のある者の手で改ざんする可能性は充分にあり得ます。
他にも、製薬の治験データなども挙げることができます。治験のデータが改ざんされることはあってはなりません。このような、改ざんされては困るデータというのは世の中に多く存在します。そのあたりについては比較的早い段階での導入が進んでいくのではないでしょうか。
-財部氏 病院などの個人データなどもそういった範囲に含むのでしょうか?治験などと異なり、個人データだから取り扱い方法に違いがあることを考慮すると、また異なってくるのでしょうか?
-平野
さすが、鋭いですね。おっしゃるとおり、個人データは少し状況が異なります。実は最初に、「オープンな場所においても改ざんできない」と説明しましたが、ビットコインはそもそもがオープンな場所にデータが置かれていて誰でも見ることができるものです。オープンだけど、改ざんはすることができないのです。もちろん匿名ではあるものの、「Aさんがここで送金した」という取引データは丸見えの状態なのです。
だから、個人データである、カルテなどはそれが見えてしまうようだと個人が特定できないと言ってもよろしくないですよね。そこで、枠で囲ってあげて参加できる人を特定の人にする、といったことを可能にするのがプライベートブロックチェーンなのです。
一方で、もともとビットコインのコアテクノロジーだったからこそ、オープンかつパブリックであることがブロックチェーンでした。テックビューロ社の「mijin」はそこを乗り越え、プライベートなブロックチェーンを実現させたことで、現時点では国内唯一の技術ということで大きな注目を浴びているのです。
-財部氏 「国内唯一」というのはインパクト、大きいですね。最後にひとつ、このブロックチェーン技術の普及を進める中で壁になることはなんですか。
-平野
これまで話してきたとおり、専門的な人材が少ないということはネックにはなりますが、ASTERIA Warpの存在によって、ハードルは大きく下がると考えています。
むしろ、ハードルと考えているのは2点です。ひとつ目はこのメリットの大きい技術を既存の技術の代わりに利用してもらえるか、ということ。テックビューロ社との事業提携のプレスリリースにもあるとおり、既存システムと比較してコスト面で大きな削減が見込まれるため、目先の売上を確保したい既存のシステム構築会社にとっては決して面白いものではありませんから、短期的に抵抗勢力になることが考えられます。しかし、こうした価値のある技術はいずれ普及します。これは過去のITの普及過程が証明しています。
2点目としては規制や法律などです。どうしても法律や規制はその性質上、時代の後追いになります。しかし、今の時代はそうしたところで足かせが発生することは国際競争的にマイナスになりかねません。昨年ぐらいから徐々に国でも動きが出てきていますので、日本が国際競争力を保ち続ける、という大局的な視点で、その取り組みが進んでいくことを願ってやみません。
-財部氏 フィンテックのキーテクノロジーと言われる「ブロックチェーン」、じつは金融にとどまらず時代そのものを「革新」する可能性に満ちていること、平野さんのお話から実感しました。インフォテリアの今後の取り組みに、注目しています。ありがとうございます。
以上にて経済ジャーナリスト財部誠一氏とインフォテリア代表平野の対談は終了となります。3回に渡って掲載してまいりましたが、ブロックチェーンについての理解が深まったようでしたら、インフォテリアとしては冥利に尽きます。 対談内にもございましたが、インフォテリアとしてはブロックチェーンの普及に引き続き邁進をしていきます。2016年3月4日にも「FinTechビジネスセミナー」と冠したセミナーを実施致しますので、ご興味ある方はこちらからお申し込みください。
最後になりましたが、今回のお話に関して本ウェブサイトへの掲載についてご快諾を頂きました財部誠一氏にこの場を借りまして深くお礼を申し上げます。
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