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デジタルテクノロジーを活用し、データを活用してビジネスモデルや働き方を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が企業の経営課題となっています。
このDXへの取り組みが遅れた場合のシナリオについて記憶に新しいのが、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」の「2025年の崖」です。同レポートでは、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した結果、レガシーシステムの維持管理費の高騰や、IT人材不足が進み、ITシステムの運用・保守の担い手不在から多くの技術的負債を抱えるとともに、業務基盤そのものの維持・継承が困難になることで、2025年までに年間で最大12兆円の経済損失が見込まれるという問題が指摘されました。
このように、DXへの取り組みが遅れることで企業業績に悪影響が及ぶことが認識されているものの、思うようにDXが進まない状況があるのも事実。どういった要因がDX推進を阻んでいるのでしょうか。
いくつかの統計調査を見ると、DXが進まない背景に「IT人材不足」があることがわかります。
経済産業省は2019年に「2030年にはIT人材は最大で約79万人不足する」という見通しを示しています。
出典元:- 経済産業省の調査(2019年3月)
また、DX推進を担うIT人材について、総務省が2021年7月に発表した「令和3年版 情報通信白書」によれば、企業でDXが進まない理由として挙げられたのは「人材不足」が53.1%を占め最多でした。
出典元:総務省「情報通信に関する現状報告(令和3年版情報通信白書)」
詳細はこちらの記事もご参照ください。
そして、IDC Japanが2021年11月2日に発表したDX動向調査の日本と世界の結果の比較によれば、国内企業の42.0%がDX推進上の課題として「必要なテクノロジーを持った人材の不足」を挙げ、世界の企業の22.7%と比較すると、19.3ポイントもの開きがあることがわかりました。
DXにおいて必要なスキルは一つではありません。実際にDXのプロジェクトを進めていくには、DXへの正しい理解や、プロジェクトを統括して進めることができるかなど様々な知見 が必要とされます。もちろんご紹介するものが全てではないものの、今回は持っていることでDXの推進に大いに役立つスキルを紹介します。
DXにはデジタル技術、ITデバイスの導入が必要不可欠です。そのため、IT関連の基礎知識は当然必要不可欠であると言えるでしょう。
深い専門知識こそ不要ですが、それでも一から習得するとなると、専門的な勉強が必要です。
そしてこれは技術職やDX人材だけが習得するというよりも、従業員全員が共通認識・言語として習得するべきスキルと言えます。
DXは、一度導入を完了すればそこで終わりというわけではなく、進化発展を続けるデジタル技術、その先進技術を取り込み、時代の変化に合わせて適応・変革し続ける必要があります。そのためにも、AIやIoTなどの先進技術知識を身につけるだけでなく、最新の情報をキャッチ・更新できるような情報ツールを活用するなど、情報収集の習慣を身につける必要があります。
デジタル技術の導入の際、多機能のサービスを導入してしまうと、ビジュアル性や機能の拡充をいくらでも追求できるためユーザーが使いこなせないという問題が発生します。必要な機能、使いやすさを見極めながら適切なサービスを導入するなど、多くのユーザーに利用してもらうためのUI・UX思考を持つことが重要です。
情報社会たる現代において、データの活用は年々重要になってきています。機械学習によって高度なデータ解析が行えるようになったり、統計データなどのビッグデータの活用が当たり前になりつつあります。
そしてDXを推進する上でデータ活用は切り離すことができません。データとデジタル技術を活用することで、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革して行くことができます。
最後に、DX人材として重要となるのがプロジェクトマネジメント能力です。DXを推進していくために、システム全体を俯瞰し、問題や課題を効果的に解決、さらにリスクの予測・回避をし効率的にDXを推進していくためにはプロジェクトマネジメントは重要なスキルとなります。
先では持っていることでDXに役立つスキルを紹介してきました。では実際にそれらスキル を使ってDXを行うためにはどのような役割を立てることが必要なのでしょうか。一口に人材不足といっても、必要とされる人材像や育成方法がわからないという企業もあるでしょう。この点について、ガートナージャパンは2021年8月、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に必要となる5つの役割」を公表しています。
背景について、ガートナーは「日本企業は経営トップのかけ声とともにDXを推進する傾向がある」点や、その結果、「どのような人材が必要かがわからず、育成もうまくいかない悪循環に陥っている」点を挙げています。
そこで、DXを成功させるためには、DXに必要な人材像を明らかにし、最適な育成方法を考えることが重要だとして、DX推進役であるCIO(Chief Information Officer)やITリーダーの役割として以下の5つの役割が必要だと提言しています。
DXによるビジネスゴールを定義し、新たなビジネスモデルを考えたり、DXに関する企画を考えたりする役割を担う。経営層や社内外の意思決定者とのビジネス面でのコミュニケーションにも責任を持つ。
ビジネスゴールの達成に向けた最適なデジタルテクノロジーの特定やテクノロジーの適用によるシステム面の影響の分析、予測などを担う。経営層や社内外のエコシステムのパートナーに対する技術面のコミュニケーションにも責任を持つ。
現場で実際にテクノロジーを活用する役割を担う。自動化、データ・サイエンス、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)などの新興領域に注目しがちだが、確実にDXを推進していくためには、通信ネットワーク、IT基盤、セキュリティ、クラウドなどの既存の領域の役割も重要である。
ソリューション、サービス、アプリケーションのユーザー・エクスペリエンス(UX)をデザインする。UX面のコミュニケーション、UXとデザインに関する知識の社内普及に向けた教育なども行う。
デジタル・テクノロジの導入に伴う働き方(業務、意識など)のシフトの主導、変革の目的やゴールの整理、変革のコミュニケーション計画の作成、関係者全員を巻き込んだ意識と行動変容に向けた施策の計画/展開などを担う。
このうち、DXの担い手として全従業員に求められるスキルが「ビジネス系プロデューサー」と「エンジニア」です。ガートナーは、前者について、「理想的には全従業員がビジネス系プロデューサーであるという意識を持って取り組むことが企業としてのDXの成功につながる」とし、後者についても全従業員が備えるべきスキルだとしています。
では、企業がこうした人材を育成するためにどのような準備を行えばよいでしょうか。
AIやIoT、RPAなどの導入、活用によって業務プロセスのデジタル化を進めることで効率化、自動化を進めていきます。たとえば、情シス部門のITサポート業務を、FAQサイトやAIチャットボットなどを使ってセルフサービス化(よくある質問とその回答を自動化)することで、サポート業務の人的負荷が軽減できます。
また、RPAを導入し日常的な定型業務を自動化することでバックオフィス業務の省力化を進め、業務効率化を図ることができます。これによって人的リソースを新たな領域に配置するなどの最適化を実現できるのです。
ノーコード、ローコードツールなどを駆使し、プログラミングのスキルを持たない非エンジニアでもシステムやサービスを開発できる環境を整備します。
DXで重要となるのが「データ活用」です。デジタル化によって企業内には多くのデータが様々なシステムに蓄積されています。それらを組織やシステムを越えて連携させることで、新たな製品やサービスの価値創出につなげることが理想的です。しかし、現実は、データやシステムが分断・孤立したままサイロ化しており、こうしたデータ活用のためのシステム連携をノーコード、ローコードツールを使ってスピーディに解決することで、本来のDXに取りかかることが可能になります。
エンジニアスキルが重要といっても、専門性の高いスキルをスピーディに全従業員に教育するのは難しい問題があります。そこで、変革をスピーディに進めていくために高度なプログラミングスキル不要のノーコード、ローコードツールを駆使し、IT人材以外のあらゆる人材をDX人材に変えていく取り組みが重要になってくるのです。
DX人材不足の根本的な解決は人材育成が最も有力な方法ですが、人材育成はやはり時間がかかる上に難易度も高く、簡単に実行できる事ではありません。
特に中小企業の多くは新しく教育するだけの余裕が無いという事も多いでしょう。そういった場合、人材育成以外の方法で対策する必要があります。
自社に人材が居ないのであれば、既に人材を有している他社 を活用するのが最も手っ取り早いと言えるでしょう。
アウトソーシングを活用することで、人材が不足してもDXを実施することができますが、当然ただ何も考えずにアウトソーシングを利用するだけでは完全なDXはできないでしょう。
前述した通り、DXというのは完了したら終わりというわけではなく、その先の技術の発展や新技術に対応していく必要があるため、その度にアウトソーシングに頼り続けるというような他社に依存した状態というのは危険です。
アウトソーシングを利用しつつ、そこから自社で内製化できる部分や技術・ノウハウを吸収する事が、真のアウトソーシング活用といえるでしょう。リスクの分散です。
DXは言ってしまえば改革です。改革とは旧態依然のものを新しいものへと変革することであり、改革には大きな変化に対する負担を伴います。
しかし反対の立場、根本から発想すれば「最初からDXに適した土壌なら変化は小さく負担は少ない」とも言えます。今すぐにDXを実施する事ができなくとも、デジタルに適した土壌を作るために企業文化・組織文化(改革体質)を形成していく事は可能です。
何よりも大事なのは、デジタル技術に適用するためのデジタル・ITに対する理解であり、DXという程では無いにしろ、デジタルを扱う事に抵抗の無い環境さえ出来てしまえば、いざ実施する時に効率的に進めることが可能です。
今現在の話では少々難しい対処法ではありますが、DX人材を採用するという手段も存在します。しかし、DXが推進されている現在において、既存のDX人材というものは大抵が他の企業に採用されてしまっているため、一から探して見つかるかと言えば厳しいと言わざるを得ないでしょう。
勿論、DX人材不足からDX人材育成を始めている企業も居るため、いずれはそういった教育を経たDX人材を雇うことができる余裕が生じる可能性もありますが、すぐに解消することは難しいでしょう。
人材育成の手法の一つにリスキリングというものがあります。これは企業・業務に必要なスキルを習得させる事を言い、大雑把なイメージとしては人材育成と同じです。人材育成との違いを挙げるとすると、人材育成は新人などの若い人材を一からDX人材として育て上げるような意味合いが強く、対してリスキリングは必要なスキルのみを習得させるという意味合いが強いと言えます。
必要なスキルのみを習得させるという関係上本腰を入れた人材育成よりも低コストで行えるというメリットがありますが、同時に本格的なDX人材の育成には向いていない、あるいは素質のある人間をDX人材に育てるといった条件が必要になります。
リスキリングについての詳しい情報はこちらの記事をご覧ください。
最後に人材育成を行った事例をご紹介しましょう。今回ご紹介する事例は2つ、「株式会社高田工業所」と「弁理士法人サトー」になります。どちらもデータ連携ツール「ASTERIA Warp」を活用して人材育成を行っています。
株式会社高田工業所は1940年に創業し、基礎素材産業をはじめ、さまざまな産業設備の設計から調達・製作・建設・メンテナンスまでを担う産業プラントエンジニアリング会社です。歴史ある企業ですが決して古い考えに囚われる事はなく、積極的にデジタル化にも取り組み業務やシステムの効率化を進め、ノーコードツールも導入・活用していました。
導入したノーコードツールkintoneによって一通りのDX及び人材の育成は行えていましたが、将来的により幅広い業務を連携するために、ノーコード連携ツールである「ASTERIA Warp」を導入しました。
kintoneを活用する事で生じた課題「データの複雑化・肥大化」をASTERIA Warpの導入によって整理・効率化する事ができ、対応可能な業務範囲が大幅に広がるという効果を実現しました。更に外部委託していた頃よりも、内製化によって50%のコスト削減に成功し、デジタル人材育成を後押しする形でASTERIA Warpが使用されています。
詳しい事例についてはこちらのページをご覧ください。
弁理士法人サトーでは慣習的に紙の書類によって業務が行われており、特許申請などの一部作業こそデジタル化していたものの、この紙を使った業務のせいでテレワーク化ができなかったため、ノーコードツールとしてkintoneを導入し、解決を図りました。しかし、kintoneのみでは特許管理システムとの連携が上手くいかず、むしろ業務が滞る逆効果になってしまう所で、データ連携ツールであるASTERIA Warpを導入した所無事に特許管理システムと連携する事ができ、コロナ禍による課題であったテレワークを実現することに成功しました。
詳しい事例についてはこちらのページをご覧ください。
企業はDX推進を成功に導くため、まずはDXのゴールを明確にし、ゴールに向けた自社のDX戦略に合わせてどのようなスキルがどの程度必要か、自社のビジネスゴールの達成に重視する能力を見極めて人材獲得や育成を考えていくことが重要となるでしょう。
これと併せ、IT人材以外のあらゆる人材をDX人材に変えていく取り組みを継続していくのです。これにより現有人材の有効活用と、スピーディなDXを実現することが可能となり、DXの本質である「システムやデータ連携によってどんな価値を生み出すか」に、より多くの人材リソースを割くことが可能となるのです。
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