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初蝉に

私の師匠、堀場雅夫さんが旅立たれました。

享年九十。半年ほど前にお会いした時(写真)には、まだお元気だったのですが。

年に2回、事業報告を行い、指導をいただきに京都を訪ねていましたが、つい先月に予定されていた訪問は、堀場さんの体調がすぐれないということで延期になり、ご連絡をお待ちしていたところでした。。

堀場さんとの出会いは、20年前の1995年に遡ります。とは言ってもこの時は、私が一方的に影響を受けただけです。勤めていた会社がIBMに買収され、会社を辞めようかと考えていたところ、出会った本が堀場さんの「イヤならやめろ!」でした。辞めようとしている私の背中を押してくれると期待して読んだのですが、そのメッセージは「イヤというほどやったのか!?」という問いかけ。

私が辞めたい理由は、IBMというスーツな企業に買われたという「イメージ」だけで、その環境で「イヤというほど」頑張ったわけではないことに気がつかされました。そこで、私は辞めることを止め、IBM傘下でしばらく頑張ってみることにしたわけです。堀場さんの本に出会っていなかったら、なんとなく辞めてしまっていたでしょう。

1998年、「イヤというほどやった」と確信が持て、またその上で、自分のやりたいことのためには独立が最適だと確信ができたので、インフォテリアを創業しました。創業にあたっては、辞めずに頑張った最後の3年間で多くの米国の友人の起業を目の前で見ながら学んだ「米国型の起業」を日本に持ち込むことを企図しました。

それは、融資を一切受けずに投資によって多額の資金を調達し、スピードをもって企業を成長させ、IPOまたは売却によって投資家にリターンをもたらすという方法です。米国のソフトウェア企業の片棒を担いでいた私からみると、当時の日本のソフトメーカーは、日銭稼ぎに走り、融資で運転資金を調達し、新規の研究開発がなかなかできないという状況に陥っていました。それをなんとか変えたかったのです。

そこで私は、起業直後から投資家巡りをしました。そして「米国のように先行評価でベンチャー企業を成長させる」いうことを旗印に日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)という独立系VCを興したばかりの村口和孝氏に出会いました。話を聞いてみると、なんとNTVPには、堀場さんが出資されているではないですか!1999年3月に、インフォテリアはNTVPからの出資を受け、堀場さんは間接的な株主となりました。同時に一連の資金調達について報道発表を行いましたが、その会見には京都から堀場さんも上京しご登壇いただき、それが最初のリアルな出会いとなりました。

その時のスピーチは今でも鮮やかに覚えています。堀場さんは日本にもっとベンチャーを増やそうとの思いを語られ、特に心に残ったのは「日本の株は1株の単位が高すぎる。株式を馬券のように細かくすればもっとベンチャー投資が増える。」(注:当時は商法で1株5万円と決められていた)、「競馬などのギャンプルに毎年8兆円も費やしている。その1%でもベンチャーに回せば日本の起業環境は変わる。」と話された一節です。これがご縁で、私は毎年2回京都に伺い、事業報告と同時に経営指導を行っていただくことになりました。

それからインフォテリアの経営はしばらく厳しい時期が続きましたが、変わらずご指導いただき、2007年には東証マザーズに上場することができました。上場の感謝のパーティーは、どうしてもご報告と御礼がしたかったので、堀場さんの予定に合わせて日程を組ませてもらいました。そしてスピーチでは「世の中には本物と偽物がある。平野洋一郎は本物や。」と、身に余る言葉を頂戴し、感涙しました。

それからもずっと、年に2回京都を訪ねて、その時その時の事業の状況、経済の環境に沿って様々な指導をいただきました。堀場さんの部屋でランチをご一緒しながらのミーティングが多かったのですが、ある時、夕方の時間を指定されました。単なる時間の都合と思っていたら、「あんた、頑張ってここまでやってきた。ご褒美や。これから祇園に連れていく。」と。堀場さんと楽しい夜を過ごさせていただいたこともありました。

思い出は尽きません。日本経済新聞の「交遊抄」に取り上げていただく機会があり、その時も堀場さんとの出会いと交流を書かせてもらいました。できるだけ絞って原稿を書いたのですが、指定の文字数の3倍ほどにもなってしまい、かなり削った上で、堀場さんにもレビューしてもらい無事掲載となりました。(参考:「ソーシャルメディア時代の交遊抄」)その他にも、私が現在理事長を務めているMIJS (Made In Japan Software)コンソーシアムのイベントに基調講演でご登壇いただいたこともありました。

私が、堀場さんを師と仰いだのは、堀場さんが技術者社長としてベンチャー企業を興し、成長させ、一代で世界に役立つ企業を作り上げられた人だからです。元技術者で世界を目指している私がまさに目指す存在だったからです。ご縁があって、直接ご指導いただけることになり、他には相談できない経営課題なども含め、様々なご相談をさせてもらいました。(参考:「100年に一度の危機ではない!」)そして、その度に明快なアドバイスをいただいたのですが、いま脳裏に蘇る幾多の堀場さんの言葉を振り返れば、堀場さんのメッセージは一貫して「他に惑わされるな。王道を行け。自ら信じた道を行け。」だったのだと感じます。

まだまだ、その背中を追いかけ、指導をいただきたいと思っていた堀場さん。

先週末、堀場さんが愛されていた京都に赴き、思い出の地を回りました。

けたたましい初蝉の声の向こうから、
「もう頼らずに行け」と天国の師の声が聞こえたような気がしました。

師匠、安らかにお眠りください。

株主総会のお土産の舞台裏

今年のインフォテリアの株主総会のお土産は、ワインショップで有名なエノテカ様のジャムとクラッカーのセットでした(写真)。

国内の上場企業は約3,500社ありますが、そのうちの約73%が株主総会のお土産を用意しているそうです(東洋経済新報社2014年調査)。そのお土産はどうやって選ばれているのでしょうか?選び方については、特段決まりは無く各社各様ですが、件の調査によると消費者向け商品のメーカーは自社商品をお土産にされるケースも多く、お菓子などの食べ物も定番のようです。また、人気アーチストを抱えるような会社は、アーティストのグッズやライブという珍しい形もあります。

さて、インフォテリアはどうでしょうか。メーカーですから、できれば自社製品といきたいところですが、企業向けのソフトウェア製品のため、株主総会に参加される株主の個人の方々には、適切ではありません。また、法律で決まっているわけではありませんが、あまり高額なお土産を出すのも株主平等の原則からすると適切ではなく、だいたい500円〜1,500円ほどの品が相場のようですから、価格レンジとしても合いません。

そこで、インフォテリアが上場直後の株主総会から始めたのが、その年度に新たにお客様になっていただいた企業の商品をお土産にするという方法です。そして、その中でもインフォテリアのコーポレートカラーであるグリーンの商品か、包装にグリーンが使われている商品をお土産にすることにし、上場以来、いままで続けています。これまでの歴代の株主総会のお土産は以下の通り。

開催年 企業名 おみやげの商品 ユーザー
2008年 ベネトン様 グリーンのエコバッグ ASTERIA
2009年 味の素ゼネラルフーズ様 コーヒーギフト ASTERIA
2010年 ライオン様 石鹸とキレイキレイ(ハンドソープ) ASTERIA
2011年 日本食研ホールティングズ様 そらドレ(ドレッシング) Handbook
2012年 エーザイ様 ユベラ贅沢ポリフェノール(高級サプリ) Handbook
2013年 敷島製パン(Pasco)様 抹茶フィナンシェ(お菓子) Handbook
2014年 ツムラ様 バスハーブ(入浴剤) ASTERIA
2015年 エノテカ様 いちじくのジャムとクラッカー ASTERIA

毎年、新しいお土産を考えるのは、大変ではありますが、複数の候補のなかから絞り込んでいくのは楽しくもあります。

来年は、どんな候補が出てくるのか?それは、今年度の営業の成果でもあり、楽しみです。来年のお土産が気になる方は、是非インフォテリアの株主になって株主総会に出席してください(笑)