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「中期経営計画2020」を発表

6月18日、インフォテリアの新たな中期経営計画を発表しました。

2018年度から2020年度までの3ヶ年計画。題して「中期経営計画2020」です。インフォテリアは今年創業20周年。「2020」には、「2020年度」という意味だけで無く、「これまでの20年」を踏まえた「これからの20年」の第一歩という意味も込めています。

その概要は、2020年度に売上収益50億円、営業利益10億円という計画です。売上収益については、海外売上50%、営業利益については、営業利益率20%という目標も同時に発表しました。

発表と同時に、インフォテリアの「イフラボ」でも説明会を実施し、YouTube ライブでも生放送しました。多くの方にご参加いただき誠にありがとうございました。

今回発表した大きな成長を実現するために、新技術のための研究開発チームの編成、新製品・サービスのマーケティング、そのための優秀な人材の採用などを積極的に行っていきます。それらの先行投資の結果、中期経営計画の初年度は前年比で増収にもかかわらず減益という状況となりますが、初年度での仕込みをもって、第2年度以降に大きく成長をしていく計画です。

これまで、インフォテリアの研究開発チームは開発中のものも含め製品毎のチーム構成になっていましたが、新しくAI/ML(人工知能)、IoT連携、ブロックチェーンの技術研究開発チームを立ち上げ、これらが全ての製品に必要な技術を提供することで、各製品の進化を早め、競争力を上げていきます。そして、エンタープライズ事業、ネットサービス事業、デザインサービス事業についてもこの中期経営計画においては毎年2桁の成長を目指しています。

ITの世界は大きく変わっていきます。しかも素早く。インフォテリアが世界市場の並み居る企業の中で勝ち進んでいくためには、社内外の投資が欠かせません。私は確信しています、「投資なくして成長なし」と。MicrosoftもGoogleもAmazonも自前主義に陥らず、積極的なM&Aで社外の技術や人を組み入れたことで今がありるのです。

そして、その投資を何処にするのかが極めて重要です。インフォテリアの投資領域は明確に絞りこんでいます。それが「4つのD」ーData, Device, Decentralized, Design。これは、これからの社会を大きくドライブしていく4つの要素ということもできます。他の日本企業で、ここまで明確に未来を見据えた投資領域の絞り込みをしている企業があるでしょうか?

新しい中期経営計画は、これからの20年の大きな成長のための第一歩であり、大事な道しるべです。その先のさらに大きな成長のために、私たちは中期経営計画の達成にコミットしています。

星に願いを、社名に念いを。

創業の時には、こんな日が来るとは考えてもみませんでした。

このたび、社名の変更を株主総会に上程することを開示しました。

20年間使ってきた「インフォテリア」を「アステリア」に変更します。

その狙いは、より独自性、認知性、拡張性の高い名前にして世界ブランドを確立することです。発表後には、現在の主力製品「ASTERIA」に集中するのかというコメントもいただきましたが、その全く逆で、今まで以上に、さらに多くのモノやコトを「つなぐ」ことへの新たな一歩です。

1998年の創業時に考えた「インフォテリア」という名前は、InformationとCafeteriaを掛け合わせた造語です。インターネットによる情報爆発が懸念されていたその頃、情報を使う側の必要に応じて必要な時にカジュアルに使うことができる場の提供したいという念いを表しています。しかし、あれから20年が経ち、社会におけるソフトウェアの立ち位置も変わってきました。これまでソフトウェアといえば情報技術(Information Technology)業界でしたが、これからソフトウェアはあらゆる産業の中に入り産業そのものを支えるものになっていきます。車も農業も社会インフラも。

新しい「アステリア」という名前は、ギリシャ語で「星座」という意味です。星座は、輝く星々を繋いでいくことで様々なカタチを創っています。

今回の社名変更は、Informationという枠の中だけでなく、世の中にある様々な輝くものをつないで行き、新しいカタチ、新しい価値を創っていきたいとの願いを込めているのです。

未練はあります。自ら考え、自ら育ててきた名前ですから。世の中で、「インフォテリア」に一番愛着を持っているのは私だと断言できます。でも、だからこそ、私が変えなければ他の人には変えられないだろうと考えました。社名変更を考え始めて5年、ようやく、その時が来たのです。

インフォテリア株式会社は、今年創立20周年、そしておかげさまで東証一部に上場しました。

私が、小さな頃から憧れをいだいていた会社も、東証一部に上場した1958年に、東京通信工業株式会社から、ソニー株式会社に会社名を変更しました。世界に大きく羽ばたくために。

私たちインフォテリアも、創業時より目指している世界市場に大きく羽ばたくために、より大きな翼を広げることにしたのです。それが、これからの新たな20年にかけて私が社名変更に込めた念いです。

https://www.infoteria.com/jp/ir (開示資料)

ICOの光と影

ICO (Initial Coin Offering)が話題沸騰です。

私が基調講演を務めさせていただいた、日経BP社主催の「1日で理解するICO」のセミナー(2017年11月16日)でも決して安くない金額にもかかわらず、満員御礼。BCCCで開催したICOセミナー(2017年12月8日)は椅子が足りずに通路にまで椅子を出して対応したほどです。

その理由は、調達金額の大幅な伸びによります。2017年のICOでの資金調達額は全世界で4,000億円(相当)を超え前年の40倍に迫る勢いで、1件での最大調達金額は300億円(相当)にもなります※1。ブロックチェーンを軸とするスタートアップの資金調達においては、これまでの主力資金調達先であったベンチャーキャピタルからの投資額を超えています。国内でも、既に100億円(相当)を超えるICOが実施され、スタートアップ企業や個人投資家の間で熱気が高まっています。

この調達金額は、ビットコインなどの仮想通貨高に支えられたものですが、一時的な現象と見ないほうがよいでしょう。これから、仮想通貨が価値交換の基盤として一定のポジションを確立することは間違いなく、それに伴って、ブロックチェーンが支えるデジタルトークンを使った非中央集権的な価値交換が普及して「トークンエコノミー」の時代が訪れます。そして、ICO はその端緒として、資金調達側にとっても、資金提供側にとっても革新的な幅の広さと自由度を与えるのです。

一方で、この熱気には気を付けなければなりません。それは、これから詐欺的ICO(他のICOの偽装、トークンを発行しない等)や失敗ICO(交換所に上場出来ない、調達金額が大きく不足する等)が激増することが目に見えているからです。ですから、「ICOに参加をしないか」という話を聞いた場合には、まずは疑ってかかることです。

さらに、ICOという名前から「IPOの仮想通貨版」という誤った認識が多いことにも気を付けないといけません。下図にあるように、多くのICOの調達金額は、ICOで発行したデジタルトークンを仮想通貨取引所に上場する前の調達のことを指しています。

ICOの理解がないままに「儲かりそうだから」といって、ICOに参加するのは極めて危険です。すでに、金融庁でも注意喚起を発し、BCCCでもステートメントを出している通り、法律も、会計基準も、税制もまったく追いついていません。つまり、参加しても法律やルールによって保護されるものは何もない前提で考えなくてはなりません。さらに、国外では、韓国や中国のようにICOそのものを現時点では禁止している国もあります。何が起こっても100%自己責任ということを改めて認識してください。

ICOの本来の意義は、そのプロジェクトに賛同や参加をして一緒に価値を上げ、価値を享受していくというところにあります。自らが賛同できる応援したいプロジェクトに対して、これからの新しい形のエコノミーに参加をしてみるということなら、大いに価値があります。

デジタルトークンや仮想通貨で形成されていく新たな「トークンエコノミー」は、社会を「階層・規律・統制」の時代から「自律・分散・協調」に変えて行く破壊力を持っています。ICOが気になる人は、短期的な損得に囚われず、その意義と価値を「自ら」考えて取り組むことをおすすめします。

※1:出典:CoinSchedule.com

ブロックチェーンのリスク管理に取り組む

私が代表理事を務めているブロックチェーン推進協会(略称:BCCC)において新たに発足する「リスク管理部会」の説明会を昨日実施しました。会員企業、入会検討中の企業の方々に数多くご参加いただき、また、TV、新聞などメディアの方々にも多く取材いただき、ブロックチェーンに関するリスク管理への関心の高さを強く感じました。

特に仮想通貨周辺では、既に詐欺コイン(Scam Coins)やMLM(Multi-Level Marketing)などの怪しいものが出没しており、消費者庁などへの相談件数が増えているようです。さらに、この10月には日本で初めてと言えるICO(Initial Coin Offering)が予定されており、今後ICOを謳った怪しいビジネスが勃興するものと懸念しています。

ブロックチェーンに関するリスクは、上記に述べたような既に顕在化しているものにとどまらず、今後ブロックチェーンに関連して始まる新しい事業やサービスには、常にリスクが伴うと言っても過言ではありません。(図)

説明会最後のパネルディスカッションでは、既に全国の警察から仮想通貨アドレスの照会を多数受けているBCCC副代表理事の杉井靖典(カレンシーポート代表取締役CEO)が、同社で構築しているデータベースやその考え方を紹介するなど、具体的な内容に踏み込んだ例も示して会場から高い関心を得ていました。

ブロックチェーン推進協会のリスク管理部会では、顕在化しているリスクだけではなく、これから顕在化するであろう潜在的リスクに対してもその内容を検討・研究し、またその対策や情報共有などについて活動する予定です。部会長には、静岡県警のサイバー犯罪対策テクニカルアドバイザーを務められている、株式会社Geolocation Technology社長の山本敬介氏に着任いただき、まずはKYC(Know Your Customer:本人確認)、AML(Anti Money Laundering:資金洗浄対策)等に役立てる上で、問題のある人物や組織に関するデータベースの方法論やその整備から始め、さらに金融以外のリスクに関してもテーマとしていく計画です。

<リスク管理部会事前説明会の式次第>

  • リスク管理部会設立の背景
    • 代表理事:平野洋一郎(インフォテリア)
  • リスク管理部会の活動概要案
    • 部会発起人:小塚直志氏(エス・ピー・ネットワーク)
  • 顕在化しているリスクの具体例
    • 部会長:山本敬介氏(Geolocation Technology)
  • 今後のリスク管理に関するパネルディスカッション
    • 副代表理事:杉井靖典氏(カレンシーポート)+上記3名

インフォテリアグループの新オフィス in シアトル

今日は、インフォテリアグループの新オフィスがあるシアトルに来ています。本日4月20日付けで、英国ロンドンに本社、米国シアトルに子会社があるThis Place社が正式にインフォテリアグループとなったからです。

シアトルは、私たちIT業界でいうと、MicrosoftやAmazonの本社のある場所として有名です。他の業界としては、StarbucksやBoeingの本社としても知られていますし、スポーツでは、イチローのいたSeattle Marinersが(日本では)有名ですね。

This Placeのシアトルオフィスはデザイン会社らしく、とても自由な雰囲気です(写真)。このオフィスは、私たちのスタッフだけでなく、クライアントの皆さんも一緒に働くというコラボレーションオフィスになっています。デザインとは、いまやイラスト、アイコンなどの「絵」だけを意味しません。デザイン思考という言葉にも象徴されるように、ビジネスのあらゆるところに、デザインの要素を取り込むことができるのです。

お客様とどのように一緒に仕事をするかもデザインの一つ。This Placeでは、お客様を自社オフィスに招いて、同じフロアで机を並べて仕事をしています。ミーティングをどのように行うかもデザインの一つ。This Placeでは、ミーティングルームもありますが、ソファースペースや、ホワイトボード壁の前などでいつでもミーティングができるようになっています。実際にミーティングルームより、そのような場所でのミーティング方が多いようです。

 

これから従来型の仕事がどんどんロボットやAIに任せられるようになり、人間はよりクリエイティブな仕事ができるようになります。その際に重要なことが、刺激のある、楽しい仕事であること。高い目標やハードルがあっても、それを強いモティべーションにできるチームがあること。これは、インフォテリアの中期計画のスローガンである「おもしろ おかしく」にも通じることですし、私が以前から推奨している「笑ってお仕事」にも通じることで、インフォテリアグループ全体に取り入れて行きたいことです。

インフォテリアは、今日から、日本、米国、中国、シンガポール、英国に拠点を持つ、ソフトウェア×デザインのグローバルカンパニーとなります。ビジネスのあらゆる面でデザインが重要になっていくこれからの時代。世の中に提供する成果物だけでなく、私たち自身もソフトウェア×デザインを実践し成果を出すチームとして成長していくのです。

サクラサク – 駐日英国大使館にて


4月4日に英国のデザイン戦略コンサルティング企業This Place Limitedの買収について発表を英国大使館で行いました。英国大使館は、敷地内に多数の桜があり、ちょうど見頃。大使館の経済・投資担当ディレクターのChris Heffer氏からは、ソフトバンク、KDDIに続く、期待の日英のコラボレーションとして紹介され、私とThis PlaceのCEO Dusan Hamlinがプレゼンテーションを行いました。

This Placeは、2011年の創業からSamsonite, T-Mobile, Ahold Delhaizeなど大企業のデジタルデザインとその戦略を担って急成長をしており、現在はロンドンとシアトルに拠点を置いています。また、この内容が認められ、業績としても素晴らしい成果を挙げています(図)。

しかしなぜ、インフォテリアがデザイン企業を買収したのか?
インフォテリアの事業とどう関係があるのか?

その理由は、私たちはこれからのソフトウェアが「機能ファースト」ではなく「デザインファースト」の時代になると確信しているからです。この傾向はすでにコンシュマー向け製品では、如実に表れてきていますが、これから企業向けのソフトウェアでも、「デザインファースト」の止められない流れが始まり、その流れをリードしていきたいと考えているのです。

コンシュマー製品での好例は、iPhone。発売当初のものは「コピペ」といった基本機能すらなかったのに、その(総合的な)デザインによって世界中で受け入れられました。これまで、企業向けソフトウェアは、機能のマル(○)バツ(×)表が重視されていましたが、そうではなく、UI/UX、機能のバランス、使い勝手など総合的なデザインが重要になります。

インフォテリアでは、中期経営計画において、これからのソフトウェアのトレンドとして「3つのD」を重要視していると発表していました。これまでは「Design」をあえて秘していましたが、晴れてこれを加えることができ、「4つのD」となります。

デザインが重要になってくるのは、ソフトウェアにとどまりません。例えば、米国では下記のように、いくつもの未来志向の会社がデザイン会社を買収しています(時系列順)。大きなデザイン会社が小さなデザイン会社を買うというのではなく、畑違いの企業がデザイン会社を買収しているのです。その理由は、「デザイン」がビジネス戦略の核となる時代となってくるからです。

・米Facebookが「Hot Studio」を買収
・米Capital Oneが「Adaptive Path」を買収
・米McKinsey & Companyが「LUNAR」を買収
・米Accentureが「Fjord」を買収

インフォテリアは以前から、社内にデザインチームを持って、ソフトウェアのデザイン(UI/UXだけでなく)に注力してきましたが、やはりそこには限界がありました。そこで、社外でプロフェッショナルを探し、実際に一緒に仕事をしてみて、その結果として、未来を一緒に創っていくプロフェッショナルな仲間を見つけたのです。

実際に仕事をした結果の一つが「Tristan」(英語圏製品名「Handbooks」)です。Tristanは、現在提供中の「Handbook」をベースにThisPlaceがUI/UXおよび機能デザインを監修した製品で、すでに英語圏市場ではAppStoreで提供を開始しています。「Handbook」は、日本のユーザーの皆様の要望に応じてどんどんと機能を強化し成長してきましたが、「Tristan」は、機能もUIもあえてそぎ落とし、洗練しているのが特徴です。「Handbook」よりも機能が少なく、機能的な非互換があるため日本市場ではまだ提供していませんが、日本でもそう遠くない将来に提供開始できるでしょう。

This Placeは、デジタルデザインとその戦略のプロフェッショナル集団というだけでなく、事業としても高収益で素晴らしい成績を収めている企業であり、インフォテリアが目指す世界戦略の一歩大きくすすめる買収でもあるのです。

オウンドメディア「in.LIVE」スタート!

インフォテリアのオウンドメディアとして「in.LIVE」を始めました。

読者の中には「オウンドメディアって何?」という方もいらっしゃるかもしれません。英語で書くと「Owned Media」。つまり、自社で持つメディアのことです。広義では、自社ウェブサイトそのものやブログもオウンドメディアですが、狭義では、記事体裁のコンテンツで構成されるいわゆるオンラインメディアの形式をとるサイトをオウンドメディアと呼ぶケースも増えているようです。

ソフトウェア業界で有名な狭義のオウンドメディアとしては、サイボウズの「サイボウズ式」があります。業界を越えると、ライオンの「Lidea」や、資生堂の「Beauty & Co.」などが有名です。

インフォテリアも、コーポレートサイトを含めて、製品毎にサイトを立ち上げブログも展開するなど、広義のオウンドメディアを通じた情報発信は以前から行っています。今回、それらに加えて新たに「in.LIVE」を始めたのには、理由があります。それは、ウェブマーケティングが徐々に自社や自社製品への「囲い込み」から、ユーザーや顧客の方々からの「囲われ込み」に軸足を移してきているからです。

昨今、FacebookやツイッターなどのSNSやキュレーションの発達によって情報発信が一方通行では無くなってきています。つまり、オウンドメディアで企業が発信したコンテンツを、いかにしてSNSなどで拡散されるように仕掛けるか?企業側がどう取り上げるかではなく、個々人にどう「取り上げてもらうか」が重要になってきているわけです。

また、インフォテリアが様々な技術の最前線に立ってビジネスを進めて行く上で、直接自社のソフトウェアには関係しなくても、多くの人にとって有益であろう情報にたびたび触れます。そうした情報を、もっと幅広く、個々人の感覚に近く、考えること、感じることを発信していこうと考えました。

そこで、「in.LIVE」の全体のテーマは「人を感じるテクノロジー」。

インフォテリア製品にかかわらず、関連分野や興味の湧きそうな技術とそれに関わる人にスポットライトを当てて、ユーザーや顧客の方々にかかわらず、幅広い人に少しでも興味をもってもらえる話題が提供できればと考えています。

「in.LIVE」の編集長は、台湾情報サイトの運営でも活躍中の田中伶(広報・IR室)が務めます。これまでの、ビジネス書キュレーションや、スタートアップ企業での広報の経験を活かしながら、「人を感じるテクノロジー」を積極的に発信していきます。ぜひご覧になってください。

URL https://inlive.infoteria.com/

ソフトウェアジャパンアワード2017受賞

「ソフトウェア ジャパン アワード」という賞を聞いたことがあるでしょうか? これは、(一社)情報処理学会が主催し、年に1度、個人に与えられる賞で、下記のような人に与える賞とされています。

日本発の世界に誇るソフトウエアの研究者、開発者、技術者で、情報技術分野において特に産業界への功労がありその業績が顕著であると共に、今後の産業界への活躍が期待できる方へ贈呈。 (情報処理学会ウェブサイトより)

この賞は、これまでにiモードの夏野 剛さん、Rubyのまつもとゆきひろさん、TRONの坂村健さんなどが受賞されていて、昨年はチームラボの猪子寿之さんが受賞されています。このように、日本のソフトウェア界を代表するような方々が受賞されている賞ですが、今年は驚くべきことに私が受賞することになりました。 受賞の連絡をいただいた時には、正直に言って驚きました。受賞理由は以下の通りとされていますが、ソフトウェアに陶酔して大学を中退して以来、2つの会社で学んだことをベースとしてインフォテリアを起業し、やりたいことを精魂込めてずっと続けて来ただけなのです。

平野氏は、日本発のXML専業ソフトウェア開発ベンダとして1998年にインフォテリア社を起業した。その代表製品である、「ASTERIA」は導入企業5,000社を超え、データ連携ミドルウェア市場で9年連続国内トップシェアを継続している。また、XMLコンソーシアム(現先端IT活用コンソーシアム)の立ち上げや、2016年の「ブロックチェーン推進協会」の立ち上げなど、新技術を中核とした業界コミュニティの活動にも熱心に取り組んでいる。コミュニティ活動による技術者育成、市場への新技術の浸透への貢献も大きい。事業のグローバル化を見据えて近年は活動拠点をシンガポールに移し、更なる活躍が期待される。

聖人君子ではないので、私も社会貢献を第一に活動しているわけではなく、その根っこの動機は極めて個人的なものです。そこで、表彰式での受賞スピーチでは、なぜ私がこういった活動をしているのかの根っこの話をさせていただきました。以下、その抄録です。(長文)

「I have a dream.」という有名なスピーチがあります。
ソフトウェアに関して、私にも夢があります。今日は、その話をします。

それは、「ソフトウェアを日本の輸出産業にする」という夢です。

私は、ソフトウェアは産業財として
資源も国土も乏しい日本に適していると確信しています。

なぜなら、ソフトウェアを造るために、資源や原材料を輸入しなくてもよいからです。
そして、製造にあたって大規模な工場を作ったりする必要がないからです。
さらに、いまではソフトウェアは世界中に一瞬で届けることができます。
Windows, Mac OS, Android, iOSなど稼働環境も課金ネットワークも世界中でフラット化してきました。 それなのに、日本の多くのソフトウェア開発企業は、日本国内だけでしか事業を行っていません。

なぜか?

それは、ほとんどが「受託開発」というスケールしないビジネスモデルになっているからです。一つの顧客から注文書をいただいて、その注文通りに開発して、注文者に納めるというビジネスモデルです。このモデルでは、売上を伸ばすためには、それだけ人手が必要となって、スケーラビリティに乏しいのです。

一方で、世界で活躍しているソフトウェア企業は、どうでしょうか?Microsoft、Oracle、Google、Facebook。注文書をもらってその通りに開発して納める受託開発はやっていません。製品開発でありサービス開発です。どこからも注文書は来ないのに、自ら考えて、開発して、どうですか!と言って世に提案するのです。

このように、おなじソフトウェア開発業でありながら、日本と欧米のビジネスモデルは大きく違っていて、構造的に世界で勝負できるようになっていないのです。

私は、その状況を打破し、日本から世界中で使われるソフトウェアを開発するために、米国型・シリコンバレー型の企業としてインフォテリアを起業しました。

その理由は、私の少年時代にまで遡ります。

私は、小学校時代から半田ごてを握っている電子工作少年でした。
愛読書は「ラジオの制作」と「トランジスタ技術」。
高校に入ってすぐに、愛読書に載っていた「マイコン」に衝撃を受けました。

それまでは、「別のことをやる」には「別の回路を設計する」必要があったのですが、「マイコン」では、「別のことをやる」ために別の回路を設計しなくても良いのです。同じ回路のままで、計算ができたり、カウンターができたり、ゲームができたりしました。
これは電子工作少年にとっては「青天の霹靂」でした。

そこから一気にソフトウェアにのめり込みました。
高校での授業中もノートを取るふりをして机上プログラミングをしていました。
最新のコンピュータがあるという噂を聞いて、熊本大学工学部に進学しました。
しかし、1年生、2年生はコンピュータの基礎を座学や古いマシンで習うだけで、
最新のコンピュータなど使わせてもらえません。

「大学の4年間は無駄だ!」と考えて、熊大マイコンクラブの1つ学年が上の先輩と大学を中退しました。そして、アルバイトをしていたマイコンショップでソフトウェア開発組織を作りました。これがキャリーラボという、熊本から日本中にソフトウェアを提供していた会社です。

今、米国では、スタンフォード大や、イリノイ大や、ジョージア工科大やMITなどの大学の周りで多くの企業がスタートアップすると指摘されています。しかし、日本にも以前は各大学の周りに、卒業生や学生がスタートアップしたソフトウェア企業があったのです。
・北大のハドソン
・東大のサムシンググッド
・阪大のダイナウェア
・九大のシステムソフト
そして、熊大のキャリーラボという風に。

当時、これらの会社が開発していたソフトウェアの領域は多岐にわたっていました。OS、プログラミング言語、ゲーム、ワープロ、業務パッケージまで。しかし、各社とも組織が大きくなってくると同時に、外資系の参入によって、経営が厳しくなると、受託開発に走るようになってきました。

私は、自分で開発した日本語ワープロが「日本一」を受賞して、次は「世界一」だということで、当時マイクロソフトより大きくてソフトウェア起業としては世界一の売上だったボストンに本社があるロータスという会社に入りました。

ロータスではマーケティングをやらせてもらいましたが、私が外国製の製品を担いで売っているときにも、国産のソフトウェアベンダー日銭稼ぎに走り、研究開発投資も先細り、どんどん衰退していきました。

一方で、本社のある米国では、優秀なエンジニアがどんどん新しい会社を作り、すぐにアイディアを形にして、ヒット作を世に送り出していく姿を目の当たりにしました。

ソフトウェアエンジニア時代は、私も例に漏れず「良い物を作れば良い」と考えていましたが、完全に甘い考えだということを悟ったのです。 そして、欧米のやり方を研究して、世界と渡り合っていくためにソフトウェア開発企業として最低限必要な3つのことを悟りました。

1つめは、製品開発に集中し、受託開発をしないこと。
2つめは、投資家と組むこと。
3つめは、フォーカスすること。

受託開発がスケールしないことは既に話しましたが、2つめの「投資家と組む」とは何でしょうか?エンジニア時代の私もそうでしたが、なんとなくお金を避けているところがありました。中にはお金を汚いものと考えている人さえいます。しかし、シリコンバレーでもボストンでも、ミリオンドル(億円)単位の投資を受けることで、長期間全く売れなくても優秀なエンジニアを雇い、短期間で製品開発をすることができるのです。日本の日銭稼ぎと並行の製品開発とはスピードが全く違います。

3つめの「フォーカスする」とは何でしょうか?これは一点突破することです。一点突破することで、その小さな領域ではスタートアップが大企業を勝ることができる可能性が高まるのです。例えば、インフォテリアでは、XMLにフォーカスしてXML事業のために27億円を集めました。あの当時XMLの研究を始めていた大企業もありましたが、27億円の投資をできた大企業があったでしょうか?

そして、またフォーカスは2つめの大きな投資を小さな会社が受けられる理由でもあるのです。 一方で、典型的な日本のソフトウェア開発会社は、受託開発の片手間に製品開発をやる。投資家とがっつり組まない。優秀なほど「何でもできます」と言ってしまうのです。これは経営者は安心かもしれないけど、デジタルコピーに基づくスケーラビリティというソフトウェア最大のメリットを捨てているのです。

では、3つの悟りによってインフォテリアが世界展開に成功したかというと、そうではありません。インフォテリアの海外への挑戦はすでに3回目なのです。

2000年にボストンに子会社を出して2002年に撤退。
2005年にシリコンバレーに子会社を出して2009年に撤退。
2012年にサンフランシスコの企業を買収してInfoteria Americaに改名。

現在のチャレンジはすでに3回目なのです。
未だに海外の売上は微々たるもので、この3回目が成功するかどうかはわかりません。 「3度目の正直」になるのか?
「2度あることは3度ある」になるのか?

しかし、3回目がうまく行かなくても、インフォテリアである限り、海外へのチャレンジを続けます。なぜなら、世界で通用するソフトウェアを開発して、世界で使ってもらうために創った会社だからです。

もちろん、実現は簡単ではありません。過去、多くの企業向けソフトウェア会社がトライしましたが、まだ成功した企業はありません。しかし、私は誰かが野球でいう「野茂英雄」になれると確信しています。そして野茂が出れば、野茂と同じようにその後に多くの企業が続くことを。

私は夢を持ち続けます。
「ソフトウェアを日本の輸出産業にする」という夢を。
I have a dream.

驚き!cloudpack(アイレット)との協業、その先へ

AWS (Amazon Web Services) 導入実績No.1の実績を持つ「cloudpack」を運営するアイレット株式会社と協業し、新ラインアップの「ASTERIA WARP Core」との組み合わせによる新サービスの提供開始を、1月23日に発表しました。その記者会見は、翌24日に各種メディアに幅広くカバーされましたが、そうしたら25日にKDDIさんがアイレット株式会社を子会社化するとの発表が!

大変驚きました。「タイミングを狙ったんですか?」と外部の人からも聞かれましたが、こんな重要なインサイダー情報を事前に知っているわけがありません。2日前に記者会見したばかりの齋藤社長にメッセンジャーで驚きと、お祝いと、今後への期待をお伝えしました。

「cloudpack」は、AWSにおいて5年連続でプレミアコンサルティングパートナーを獲得(国内で5年連続はアイレットとNRIの2社のみ)し、技術力と実績では確固たるポジションを築いていますが、これからはKDDIグループのもと、さらに信用基盤も高め、幅広い営業展開が可能になりそうです。新サービスの導入目標の100社という高い目標も、KDDIグループ入りで前倒しで実現できそうに思えてきます(笑)

日本では、いまだに「子会社化」や「買収」といった話にネガティブなイメージを持つ人が多いようですが、最近は今回のような明確にポジティブなケースも増えているのではないでしょうか?KDDIさんは、クラウドインテグレーションに信頼と実績のあるチームをグループとして手に入れ、さらなる成長を目指すcloudpackは、信用とスピードを手に入れるのです。

アイレットは、インフォテリアが新しく始めたASTERIAサブスクリプションパートナーの第1号ですが、幸先の良いスタートに大いに期待を膨らませています。

ブロックチェーン大学校、修了者が100名を突破!

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(略称:BCCC)が、今年8月に「ブロックチェーン大学校」をスタートしてから、その修了者が100名を超えました。

同じ今年8月には、ロイターが日本のブロックチェーン技術者不足を指摘していました。それから修了者が100名を超えたと言っても、データベース技術者やJava技術者などに比べると2桁も3桁も少ない数字です。これから社会へのブロックチェーンの幅広い普及を考えると、ブロックチェーン技術者はまだまだ圧倒的に足りないと言えますし、現に、AI等で無くなる職業が増えるなかブロックチェーン技術者が仕事として有望であるという記事も出始めています。

ところで、「ブロックチェーン技術者」という定義について誤解を受けがちなことがあるのでクリアにしておきましょう。一般的に圧倒的な不足していると言われているブロックチェーン技術者とは、ブロックチェーンそのものを開発することのできる技術者ではなく、ブロックチェーンを使うことができ、適切な実装ができる技術者のことです。「データベース技術者」がデータベースそのものを開発する技術者を指さないこと、「Java技術者」がJavaそのものを開発する技術者を指さないのと同じです。定義がわかれば、データベース技術者やJava技術者の数に対して、100名という数字がいかに小さな数字かということがわかるでしょう。

では、ブロックチェーン技術者を育てるにはどうしたら良いのか。国内では、まだ体系立てた学習のカリキュラムは、BCCCの「ブロックチェーン大学校」しかありません。ブロックチェーンの普及を推進する団体としては、他にもブロックチェーンの教育が始まることを願っていますが、現在のところまだ1つです。

「ブロックチェーン大学校」では、現在ブロックチェーン技術の基礎を固めるための実習を含めた、2ヶ月間8回にわたる講座を実施しています。ブロックチェーンの起源であるビットコインのブロックチェーンを題材に、その基礎について体系立てた学習を行います。すでに2期を修了し、2017年1月開講の第3期の募集も開始しています。受講のためには、BCCCへの加盟が必要ですが、そのハードルは高くありません。

BCCCそのものは、本日現在で加盟社数が109社となりました。最近では、三井住友海上火災保険、あおぞら銀行、阿波銀行などの金融機関に加えて、丸紅、ぐるなび、日本NCRなど幅広い業界からの加盟が加速し、ブロックチェーン技術のニーズの広がりを示しています。フィンテックやブロックチェーン関連の世界は、めまぐるしいスピードで動いている中、国内の動きが遅れをとらないよう、BCCCでは新たなメンバーのパワーを加え活動をより活発化していきます。