月別アーカイブ: 2013年7月

なぜプランターでスイカやトウモロコシが穫れたのか?

今年の株主通信「Infoteria Vision」では、自宅ベランダで野菜プランター栽培を行っていることを取り上げてもらいました。

「Infoteria Vision」では、アスパラガスの写真が掲載されていましたが、先週、さらにスイカとトウモロコシを収穫することができました。いずれもプランターでの栽培です。Facebookで紹介したところ、スイカやトウモロコシがプランターで穫れることに驚かれた方も多かったようです。もちろん、多くの方々の想像通り栽培は簡単ではありません。

私が、プランターで野菜を育て始めたのは、子供が小さい時にトマトやピーマンが苦手だったので、それを食べることができるようにしたかったことから始まります。

その後、毎年子供に今年は何を植えたいか(日当たりの関係で夏の間だけしか育たないので)をホームセンターで選ばせて植えています。野菜の中にはもちろん、プランター栽培に適したものも適さないものもありますが、「それはプランターに適さないからやめておこう」とは決して言いません。あらかじめ悪い結果を予想してやめるのではなく、心の中で「これは難しいぞ」と思いながらも「よし、チャレンジしてみよう!」と植えてみるのです。農家の長男だという意地も少しあります(笑)。

こうやって選ばれた中にスイカとトウモロコシがありました。しかし、一発でうまくいったわけではありません。スイカは、昨年うまくいくまで実に3年連続失敗でした。毎年工夫を重ねて今年は成功2回目、味もバッチリでした。トウモロコシは、昨年初めて植えて失敗し、2年目でまともな大きさのものができましたが、味はまだまだでした。来年も再チャレンジです(笑)。

このように、スイカもトウモロコシも、成功した写真だけを見ると賞賛の声をいただきますが、その背景には、写真にもならないいくつもの失敗があるのです(笑)。失敗しても失敗しても子供と一緒に出来るまでチャレンジしているだけなのです。

事業にも似たような側面があります。

人間、経験が積み重なってくると、やらないうちに結果を先回りしてしまいます。新たなチャレンジも自分ではやらずに指示してやらせることが増えてきます。しかし、私自身は自分で手を動かすのが好きだということだけでなく、一緒に作業し、一緒に失敗し、一緒に工夫し、一緒に成功を分かち合う喜びをずっと感じ続けたいのです。なぜならば、気候が毎年変わるように、事業の環境も刻々と変わります。自分自身も触れ、悩み、感覚を一にしながら進まなければ、古い経験と感覚のまま周りを引きずってしまうからです。

世の中、マネジメントにはいろんな方法がありますが、私は自分の手が動く限り、口だけでなく自分の手も土につけたチャレンジをその基本にしたいと考えています。

「不格好経営」、それは格好をつけない力

DeNA創業者の南場智子さんの著書「不格好経営」がベストセラーとなっています。私の周りでも話題となっていますが、皆さんが読み進められるに従い、ここのところ毎日のように私に「知らなかった!」という連絡をいただきます。

それは、「不格好経営」の35ページあたりから書かれている、ある事件のことです。DeNAの創業時に外注していた「ビッダーズ」というオークションのシステムが、サービスイン1ヶ月前に実は全く出来ていなかったことが発覚し、そのリカバリーとして急遽インフォテリアがシステム開発を行ったという話です。

DeNAとは投資していただいたVCが同じ(NTVP)という縁で、創業したばかりの南場さんや川田さんと交流がありました。インフォテリアに連絡があったのは、1999年の10月30日。最初の連絡はNTVPの代表の村口さんから。「外注したオークションのソフトウェアが全く出来てていない」とのことで、とにかく何とかならないかという話です。既に、「ビッダーズ」のサービスイン日は11月29日と広く公表しており、周りの注目も高まっている中この日程を変えることは、できないということでした。

土曜日でしたが、とにかく来て欲しいとのことで、現副社長CTOの北原が駆け付けました。

そのとき、私は米国出張中で、状況を把握した北原からホテルに電話が入ります。北原から事情を聞いて、「半年も開発していたというのに使えるコードが全くない」という状況に驚くと同時に「うちが何かできるか?」と聞きました。「ドキュメントはしっかりしている、何とかなるかもしれない」と北原。

しかし、それはインフォテリアのXMLの製品開発を一時的に止め、開発計画を変更することを意味していました。その時インフォテリアは、その2週間後をターゲットとした資金調達の真っ最中でした。しかもVC10社からの出資がほぼ確定の状況で、各社に開発計画を提示した上での資金調達です。しかし、DeNAのオークションシステム開発を行うことは、資金調達時からいきなり計画が遅延することを意味していました。しかも、ビッダーズは大きな注目を集めていた期待のサービスだったので、問題が起きたことやインフォテリアがリカバーに入ったことなどVCにも誰にも話せません。

もう一つ問題がありました。

インフォテリアは受託開発ではなく製品開発を行うために作った会社で、開発エンジニアは皆そのためにジョインしてくれた人ばかりでした。それが、いきなり会社に泊まり込み確定のデスマーチのようなシステム開発プロジェクトをやるということになるのです。

私は北原に聞いてみました。

「他の会社ではできないのか?」

「時間がない。他では無理。うちしか可能性はない。」と北原。

その時、私の脳裏によぎったのは、南場さんの顔でした。我々にしかできないことなのに、困り果てた南場さんを前にして逃げる訳にはいかない。南場さんたちの役に立てるのであれば「やろう」と決めました。

実際、相手が南場さんでなければ断っていたのは間違いありません。資金調達の最中に計画変更が必要で、その理由は公言できず、30日という短期間でリスクもとても高い。しかも、インフォテリアは受託開発をしないことを公言していた会社でしたから。

それでもやろうと決めたのは、著書の言い回しを借りれば、南場さんの「不格好力」だったのでしょう。

「不格好経営」と南場さんは言いますが、それは私が直接感じたままで言えば「格好をつけない経営」です。いや経営どころか、南場さん自身がそう。いつでも素の自分をさらけだし、いつでも自分の思いに全力、もがいていることも隠さない。若くしてマッキンゼーのパートナーになって、肩で風切って歩いていそうな人が、格好をつけず笑い、泣き、悲しみ、怒る。熱く語り、悔しがる。凄い!と思わせた直後に、可愛い!と思わせたりする(笑)。この格好つけなささが、心からこの人と仕事をしたい、役に立ちたいと思わせる。気がつけば、ほんの短い間に私は南場さんのファンになっていたようです。これは、たぶん私だけではなく、周りの人皆が今でも感じていることではないでしょうか?

ワールドクラスの経営戦略コンサルタントが、ロジックでもメソッドでもないその対極のところに強みを持つ。いや、弱みを隠さないからこそ力を持った人達が集まる。この不格好さ、つまり人間味溢れる格好をつけなささが、周りの人達を自発的に動きたくさせる、これが南場さんの「不格好」の力の真髄だと感じるのです。

[2013/7/5] タイトル長調整で5文字削除