「不格好経営」、それは格好をつけない力

DeNA創業者の南場智子さんの著書「不格好経営」がベストセラーとなっています。私の周りでも話題となっていますが、皆さんが読み進められるに従い、ここのところ毎日のように私に「知らなかった!」という連絡をいただきます。

それは、「不格好経営」の35ページあたりから書かれている、ある事件のことです。DeNAの創業時に外注していた「ビッダーズ」というオークションのシステムが、サービスイン1ヶ月前に実は全く出来ていなかったことが発覚し、そのリカバリーとして急遽インフォテリアがシステム開発を行ったという話です。

Kitahara1999p38

DeNAとは投資していただいたVCが同じ(NTVP)という縁で、創業したばかりの南場さんや川田さんと交流がありました。インフォテリアに連絡があったのは、1999年の10月30日。最初の連絡はNTVPの代表の村口さんから。「外注したオークションのソフトウェアが全く出来てていない」とのことで、とにかく何とかならないかという話です。既に、「ビッダーズ」のサービスイン日は11月29日と広く公表しており、周りの注目も高まっている中この日程を変えることは、できないということでした。

土曜日でしたが、とにかく来て欲しいとのことで、現副社長CTOの北原が駆け付けました。

そのとき、私は米国出張中で、状況を把握した北原からホテルに電話が入ります。北原から事情を聞いて、「半年も開発していたというのに使えるコードが全くない」という状況に驚くと同時に「うちが何かできるか?」と聞きました。「ドキュメントはしっかりしている、何とかなるかもしれない」と北原。

しかし、それはインフォテリアのXMLの製品開発を一時的に止め、開発計画を変更することを意味していました。その時インフォテリアは、その2週間後をターゲットとした資金調達の真っ最中でした。しかもVC10社からの出資がほぼ確定の状況で、各社に開発計画を提示した上での資金調達です。しかし、DeNAのオークションシステム開発を行うことは、資金調達時からいきなり計画が遅延することを意味していました。しかも、ビッダーズは大きな注目を集めていた期待のサービスだったので、問題が起きたことやインフォテリアがリカバーに入ったことなどVCにも誰にも話せません。

もう一つ問題がありました。

インフォテリアは受託開発ではなく製品開発を行うために作った会社で、開発エンジニアは皆そのためにジョインしてくれた人ばかりでした。それが、いきなり会社に泊まり込み確定のデスマーチのようなシステム開発プロジェクトをやるということになるのです。

私は北原に聞いてみました。

「他の会社ではできないのか?」

「時間がない。他では無理。うちしか可能性はない。」と北原。

その時、私の脳裏によぎったのは、南場さんの顔でした。我々にしかできないことなのに、困り果てた南場さんを前にして逃げる訳にはいかない。南場さんたちの役に立てるのであれば「やろう」と決めました。

実際、相手が南場さんでなければ断っていたのは間違いありません。資金調達の最中に計画変更が必要で、その理由は公言できず、30日という短期間でリスクもとても高い。しかも、インフォテリアは受託開発をしないことを公言していた会社でしたから。

それでもやろうと決めたのは、著書の言い回しを借りれば、南場さんの「不格好力」だったのでしょう。

「不格好経営」と南場さんは言いますが、それは私が直接感じたままで言えば「格好をつけない経営」です。いや経営どころか、南場さん自身がそう。いつでも素の自分をさらけだし、いつでも自分の思いに全力、もがいていることも隠さない。若くしてマッキンゼーのパートナーになって、肩で風切って歩いていそうな人が、格好をつけず笑い、泣き、悲しみ、怒る。熱く語り、悔しがる。凄い!と思わせた直後に、可愛い!と思わせたりする(笑)。この格好つけなささが、心からこの人と仕事をしたい、役に立ちたいと思わせる。気がつけば、ほんの短い間に私は南場さんのファンになっていたようです。これは、たぶん私だけではなく、周りの人皆が今でも感じていることではないでしょうか?

ワールドクラスの経営戦略コンサルタントが、ロジックでもメソッドでもないその対極のところに強みを持つ。いや、弱みを隠さないからこそ力を持った人達が集まる。この不格好さ、つまり人間味溢れる格好をつけなささが、周りの人達を自発的に動きたくさせる、これが南場さんの「不格好」の力の真髄だと感じるのです。

[2013/7/5] タイトル長調整で5文字削除


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