「ポケモンGO」フィーバー!が起こっています。
ゲームを楽しむだけでなく、うまくビジネスに活用しようという動きや、社会的問題・課題の提起、さらには企業経営観点での論評など、私の周りでも何かと話題になっています。
一方で、ポケモンGOフィーバーを冷ややかに見て距離を置いている人も、私の周りには相当数存在します。リリースから3週間が過ぎた米国では、「すでにピークは過ぎた」といった報道もあります。
ただ、IT(情報技術)という観点からは、ポケモンGOが情報技術の可能性の新たな地平を切り拓いたと私は感じています。もちろん、過去にもセカイユウシャ(セカイカメラのゲーム)やIngressのようにAR (Augmented Reality) とGPS (Global Positioning System)にゲーム要素を組み合わせたものもありました。ポケモンGOも、Ingressの上に任天堂が「資産の切り売り」しただけで「新しい価値を生み出したわけではない」という論評もあります。しかし、ポケモンGOは技術的にはARゲームの延長線上であっても、プレイヤーが画面の中を動かすのではなく、プレイヤーである人間の方をこのような大規模で動かした、初めてのIT=ハードウェア(スマホ)+ソフトウェア(クラウドサービス+アプリ)と言えると私は捉えています。
その影響力の大きさから、ポケモンGOはゲームの次元を超えて、マーケティング観点からも様々な可能性が語られています。広告業界に激震が起こるという話、マクドナルドのスポンサードポケストップのような集客装置としての話などなど。
しかも、ポケモンGOがヒットした=幅広く受け入れられたということは、私たちが携わる企業ITにおいても関係の無いことではありません。それは、いまや企業の現場で使うソフトウェア(サービス)はIT部門の押しつけでは使われず、現場のユーザーに選定パワーがシフトしていく状況ではなおさらです。
これからの企業ITで「使われる」ソフトウェアであるためには、現場ユーザーにヒットするソフトウェアであることです。そのためには、直感的でバランス良くデザインされたUI/UXが最重要だということは当然のことですが、見落とされがちなのは、既に存在する最高のサービスを組み合わせ活用して開発するということ。ポケモンGOの例では、Google Maps、Ingressのデータ、精度の高いGPS、そしてポケモンの知財なしでは、成り立ちません。それらは、いずれも世界レベルのもの。自前の、妥協したものを組み合わせたわけではありません。
「既に存在する最高のサービスを組み合わせ活用して開発する」ために、これから重要になってくるのが、API (Application Programming Interface) です。専門以外のビジネスパーツを自前で作ること無く、ビジネスに必要な世界水準の機能や、専門性の高い処理をAPIで提供を受けることができるようになります。ポケモンGO自身が、Google MapsのAPIや、AppleのGPS APIを利用している訳ですが、PokeVisionのようなポケモンGOのAPIを使ったサービス(上図)も既に出現していて、様々なサービスがAPIを組み合わせ、連鎖して提供されるようになると想像すると、さらにその先の「API社会」を垣間見ることができます。
API社会では、現在あらゆる企業がウェブサイトを持つのと同じように、対外的なサービスを行う会社が、様々なAPI を提供します。ゲーム会社だけでなく、IT企業だけでなく、様々な企業が自社のサービスをAPIでアクセスできるようにして、繋がりあい、ヒトやモノの物理的移動以外を組織を超えて自動化していく世界です。(もちろん、この際にプログラミングせずとも繋ぐことのできる、ASTERIAのようなサービスの存在は重要です。また、この際にスマートコントラクトや、仮想通貨が重要なことは別の機会に。)
インターネットサーバーが日本にまだ数台しかなかった頃、「誰も見ないホームページ(ウェブサイト)を作っても意味がないだろう」と言われました。それが、いまやあらゆる企業がウェブサイトを持っています。いまAPI社会の話をしても「誰も使わないAPIを公開しても意味がないだろう」と言われるでしょう。しかし、考えてみてください。ウェブサイトの限界は人が目で見て、人がアクションを起こさなければならないところです。「伝票を紙にプリントして、その伝票を別のシステムに手で再入力する」のと同じようなことがあちこちで行われているのです。各社、各事業、各サービスがAPIを持てば、組織を超えてコンピュータが繋がり自律的(Autonomic)に稼働することができるようになります。
ポケモンGOのような、人に行動まで含めて社会に大きな影響力を持ったプラットフォームが様々なAPIを駆使して提供され、また自らもAPIを提供し、それを使ったサービスが出現し、さらにそのサービスのAPIが提供される。こういったAPIの連鎖で提供されるITの姿を想像すると、その先のAPI社会のリアリティを感じるのです。