2月3日(火)に開催された日本情報処理学会主催のSOFTWARE JAPAN 2015の招待講演として「日本のソフトウェアはもう世界に羽ばたくチャンスはないのか?」と題して話をしました。イベント全体のテーマは、「日本から破壊的イノベーションを起こすには?」ということでしたので、大まかに以下のような内容で話を構成しました。
・ソフトウェアの輸出入格差、日本の市場シェア
・ソフトウェア企業米国輸出/撤退の数々
・米国と日本の違い:技術以上に経営とマーケティング
・破壊的イノベーションを阻害する3つの罠+最大の罠
その中でも特に私が強調したのは、イノベーションを阻害する最大の罠である「『べき』の罠」です。
このようなイベントで「イノベーション」が話題になるときに、よく聴くのが、「イノベーションを起こすにはどうすべきか/どうあるべきか」という言説です。しかし、私にはこのような大人数での討議や活動の「べき」論からイノベーションが起こる気が全くしません。「べき」で語られることは、全て誰かがやっていること、言っていることです。一方で、イノベーションは、その定義により「斬新なこと」ですから、そもそも「べき」とイノベーションは対局にあるのです。
私は、イノベーションを生み出す源泉は「べき」ではなく「たい」であると確信しています。そして、なんと同じSOFTWARE JAPAN 2015で、まさにその実例に遭遇したのです。
その実例とは、本編の一連の講演ではなく、「ソフトウェアジャパンアワード」を受賞した新プログラミング言語「Egison」。「Egison」は、その作者の江木(Egi)聡志さんが東京大学在学時に、「より人間の直感に近い表現でコンピュータを使いたい」という思いから生まれた新しいプログラミング言語です。具体的には、コンピュータ処理の中でも重要な要素の一つであるパターンマッチングを簡潔かつ直感的に記述できます。
江木聡志氏ソフトウェアジャパンアワード受賞スピーチ資料より
江木さん本人の受賞スピーチでその説明を聴いて、この言語が、まさに江木さんの「たい」を実現するために作られたことと、この言語がプログラミング言語の歴史の中でも破壊的なパワーを持つ可能性を秘めていることを感じ、身震いがしました。
「Egison」は、まだほんの一部でしか使われていませんが、「Ruby」に続いて日本発で世界で使われる可能性を秘めています。まさしく、大人数でイノベーションを討議するよりも、一個人の「たい」が実際にイノベーションを起こしていく好例です。プログラミング言語に興味のある方は、ぜひ「Egison」に触れてみてください。
《関連リンク》
Egison受賞プレゼン(Slideshare)
Egisonウェブサイト