エンタープライズとソーシャルの溝

 今年は、ネット上で提供されるソーシャル型サービスが、社会に大きな影響を及ぼし始めた年となりました。中でも筆頭格はツイッター (Twitter)。正月には、鳩山前首相がツイッターを始め、先週発表された新語・流行語大賞でも「ーなう」がトップ10に入賞するなど、大きな社会現象となるとともに、コミュニケーション手段としても普及しました。そして、社会の中の様々なシーンをネットで生中継できるユーストリーム (Ustream)や、尖閣諸島問題などでも話題になったユーチューブ (YouTube)も大きな注目を集めました。

 いずれも、以前は個別のコンピュータにソフトウェアを導入(インストール)することで実現していた機能やサービスをネット上で手軽に使うことができるようにしたものです。これから、企業のシステムがクラウド化してくるに従って、その上で稼働するソフトウェアもこのようなサービス型へと代わっていき、昨今のソーシャル型サービスはその最先端の一つです。

 にもかかわらず、いわゆるエンタープライズ(企業)ITを提供する多くの企業では、これらの新しいソーシャル系ソフトウェアサービスへの取り組みが遅れています。いや、遅れているどころか、ツイッターは使用禁止、ユーチューブやユーストリーム閲覧禁止という企業は珍しくないのが実態です。使わないから価値がわからないという状況に陥っているところも少なくありません。

 実際、このような先進のクラウド型サービスの領域を牽引している人達の集まりに、エンタープライズIT系の方々の顔はほとんど見えません。例えば、先日のWISH2010という国内の先進のサービスを集めたイベントや、欧米からも先進のサービスのスピーカーを招聘したNEW CONTEXT CONFERNECE 2010に参加した時に、エンタープライズIT系の企業の人の参加がほとんど無いことに驚きました。エンタープライズIT系企業の多くが、これからは「クラウド」と連呼しているのに、なぜその上の最先端のサービスに興味を示さないのか?

 一方でエンタープライズIT系の集まりに顔を出すと、使ってもいないのにツイッターやユーストリームなどのリスクばかり強調する人達。危険な目に遭ったことがないのに、その「危険」を避けるサービスを売ろうとする人達。さらには、自分で使っていないのに、iPadのメリットを説きiPad用のサービスを売りたがる人達。日本のエンタープライズITは、何かいびつになってきていると感じます。

 エンタープライズの意味は「企業」、ソーシャルの意味は「社会」、これまでは企業が社会の形成に大きな役割を果たしてきましたが、ソフトウェアに見るこの間に横たわる大きな溝は、企業が社会をドライブするという20世紀型社会からの転換の兆しの気がしてなりません。


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