おかげさまで、インフォテリアの「ASTERIA」は、採用いただいた企業数も700社近くとなりました。このような実績からか、最近、新興のソフトウェア開発ベンチャー企業の経営者から「企業になかなか採用してもらえない」という相談を受けることがあります。
私は、インフォテリア創業以前に10年ほど外資系ソフトウェアのマーケティングに携わった経験から、欧米に比べると日本の企業では「良いもの」より「失敗しないもの」、もっと言えば「失敗しても言い訳のできるもの」を選ぶ傾向が強いことを感じていました。つまり、ベンチャー企業が新しい良い製品を出しても、製品の良し悪しに関わらず、実績(ブランド)のある大手ベンダー製品が選ばれることが多いということです。
そこで、「ASTERIA」の出荷直後のマーケティングは、「有名企業の事例獲得」にターゲット絞ってを取り組んできました。そして、ソニーさん、京セラさん、共同通信さん、ジャパンネット銀行さん、大成建設さんなどの事例ができました。しかし、これは、採用側に「どこの馬の骨かわからない」ベンチャー企業の製品を自らの判断で、リスクを負って採用しようという気概のある担当者の方がいらっしゃったからできたことです。
ベンチャー企業の製品採用にあたっては、ほとんどの場合、社内に反対する人がいます。担当者の方は、強い目的意識や意志を持ち、社内でそのような人たちをも説得し、場合によっては個人的リスクも背負って採用してくださった方々なのです。このような状況ですから、「ASTERIA」の出荷直後に採用していただいた方々には今でもとても感謝しています。
もちろん、採用される方々は、ベンチャー企業のためにボランティア的に採用されるのかというとそうではありません。当然のことながら、その製品採用が目的に合っていたり、価値が最大化できたりと、その効果を考えた上で選ばれているのです。他社の前例にとらわれずに独自の判断をされるわけですから、目的や価値についての意識は大手ベンダー製品を選ばれる場合より高いと言っても過言ではありません。
さらに、ベンチャー企業の新製品採用ならではのメリットもあるようです。そのことについて、最近の「IT Leaders」というIT専門誌に、ベンチャー企業製品の「ファーストユーザーになろう」という採用側から記事※が掲載されていましたので、以下に一部引用します。
- 読者にもファーストユーザーになることを勧めたい。何しろファーストユーザーは実に美味しいからだ。
- 不足している機能や、欲しい仕様、そのほかの改善要求を洗いざらい出していく。するとベンチャー各社は例外なく、極めて真摯な姿勢でその要求を満足するような対応をしてくれる。これはファーストユーザーの特権である。
- リリースの期限に必死で間に合わせてくれるし、ライセンスの契約形態や価格も融通が利く。
そして、「製品だけでなく会社やメンバーを見ることでリスクは回避できるし、メリットはファーストユーザーでなければ得られない」と説くのです。リスクを回避するあまり、他と同じ事をしていては、他でやっていること以上のことはできません。
このことは、ソフトウェア以外にもあてはまるでしょう。何かを採用したり決定したりする時に、「前例がある」ことを基準にしていないでしょうか?これは「人の判断」におもねっていることに他なりません。世の中、皆が「人と同じ判断」「右に倣え」ばかりをやっていたら何も変わっていきません。アイディアを活かし、オリジナリティを発揮するには、未成熟な新しいものと付き合うことも有効な手段です。自分の考えを折り込みながら「自分の判断」で、主張してみてください。「人と同じでない」小さな判断の積み重ねが、会社を変えていく一歩にもつながると思います。
※「IT Leaders」7月号 p.11 「木内里美の是正勧告」